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「……封印が、解けている?」


 重々しい声が、会議室に響いた。

 王都中央塔──魔導院内の作戦会議室。

 そこに集まった王国の高官たちは、耳を疑ったように沈黙した。


「正確には、“封印の力が消失していた”……と、報告を受けました」


 報告を読み上げたのは、魔導院の副長。

 彼の手元で、魔力検知の水晶が微かに震えている。


「聖剣セリオスの封印が自然に解けることは、あり得ん。あれは王家と聖印の結界で——」


「調査隊が到着したときには、すでに封印の痕跡は消えていたそうです。

 祭壇の柱は折られもせず、扉も開いたまま……ただ、()()()()消えていたと」


 ざわ……と重苦しい気配が広がる。


 前回の聖剣持ち主は、セリオスを祭壇の柱に刺したままその生を終えた。故にセリオスは柱に刺さったまま、封印をされていたのだ。


 調査隊が封印の間に入った時、その柱は封印当時と変わらぬまま残っていた。

 盗賊たちが無理に押し入り持って行ったようには思えない状況だった。


「つまり……誰かが、抜いた?」


「そんなはずは……勇者の資格を持つ者でなければ——」


「だとすれば、“勇者”が現れた、ということでは?」


 会議の空気が、静かにざわつき始めた。

 だが、それ以上に異様な気配を感じ取ったのは、金髪に碧の目の男一人。

 

 「……ミレティアが、反応している」



*****


 第2王子レオン・アルフォンス・アストリアは、腰の剣に触れながら、王宮の廊下を歩いていた。

 昼過ぎの王宮は少し騒がしい。けれど、それとは別の”ざわめきが”彼の胸の奥にはずっとあった。


 ミレティアが反応しているのは間違いない。時折、まるで脈打つように柄がわずかに震える。


(……何かを訴えている?)


 だが、剣は言葉を発しない。


 彼にとってミレティアは、意志を持つ魔剣ではなく、「王家に伝わる清めの剣」──それだけだ。


(本当に……セリオスが、目覚めたのか)

 

 王宮の北側、厨房棟付近。

 ふと足を止める。ミレティアが、ふるりと細かく震えた。


(この辺りか……?)


 視線を巡らせる。煙突からは微かな香り。夕食の仕込みが始まっているのだろう。


 人の出入りも多い。給仕、調理人、食材の配達担当など。


 だが、その中に「それらしい人物」は見当たらない。

 ──そのとき。


「セリオス、ここの筋ちょっとかたいね。……あ、でもここから切ると気持ちよくいける!」


(ぴくっ)


 背筋に微かな戦慄が走った。


 だが、それは壁の向こう、厨房の一角。中の様子までは見えない。


(今、声が……?)


 聞こえたような気がしたが、空耳のようにも思えた。


 中から厨房係の一人が出てきた。


「ん? 王子殿下……こちらに何か御用で?」


「……いや、何でもない」


 男は軽く頭を下げて、野菜の箱を運んでいった。


 そのすぐ横でエプロンをつけた少女が、しゃがみ込んで作業していた。


「はい、解体完了〜。内臓系は別皿ね。セリオス、お疲れ」


『ふふふ……いい手捌きだったぞ、美咲。次は、もう少し血の滴る部位を——』


「はいはい、レバーね。今日はこれで最後だからね」


『むぅ……』


 小さなやりとりが交わされるが、それは彼女だけに聞こえる声。


 王子はそのまま、反応の消えた剣を軽く叩いて歩き出した。


(やはり……気のせいだったか)


 王家の剣は、再び静かに沈黙した。

 

 ──ほんの数メートルのすれ違い。


 それが運命の距離だと、まだ誰も気づいていなかった。



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