嘘でしょ?私があなたの仕事をしていたのに追放って?引き算もできないのですか〜身を粉にして働いてきたのに捨てるとは〜
なにが、というわけで、なのか?
「……というわけで、君との婚約は破棄させてもらう」
冷たい声が、豪華絢爛な王宮の広間に響き渡った。婚約者である第一王子は、見下すような視線をオランジュに投げかけている。
隣には、いかにも庇護欲をそそるような、儚げな令嬢が立っていた。あ〜あ、またこのパターンね。心の中で盛大にため息をつく。だから、どこら辺にというわけの中身があったのか。誰か教えてと思う。
「承知いたしました」
表面上は平静を装い、深々と頭を下げる。今更何を言っても無駄だ。
この国の未来のために、文字通り身を粉にして公務をこなしてきた。そのおかげで、王子の遊興三昧もなんとか回っていたというのに、手のひらを返すとはこのこと。
バカはバカのまま。案の定、婚約破棄の知らせは、実家である侯爵家にもすぐに届いた。
「婚約破棄されたような娘は、わが家の恥だ!」
と、父の声が手紙を通してビリビリと伝わってくる。よく考えてもなぜそうなるのかわからない。普通、婚約がなくなったら他に使おうとなると思うんだが?
自分でさえ、どこか適当なところへ嫁がされるのかなと思えば、放逐。数日後には冷たい使用人たちに促され、長年住み慣れた王城を後にした。
行く宛なんてあるわけがない。今まで公務一筋で自分のことなど何も考えてこなかったのだから。こんなことをされるのなら何もしない方がいい。
わずかな荷物。今まで貯めてきた僅かなお金を握りしめ、あてもなく王都を後にした。そうなのだ、給料なしなのだ。
数日後、体を引きずりながら街道を歩いていると一台の立派な馬車が横に止まった。優雅に。
「お困りのご様子。もしよろしければ、どちらまで行かれますか?」
馬車から降りてきたのは、優しそうな笑みを浮かべた知的な雰囲気の男性。見覚えがある。確か少し離れた大国の王子、アージェント様の側近の方。
「ありがとうございます。ですが、特にあてもなく……」
怪しさがあるが背に腹はかえられぬ。正直に答えると彼は少し考え込んだ後。
「もしよろしければ、わが国にいらっしゃいませんか?何かお手伝いできることがあるかもしれません」
思いがけない提案をしてくれた。警戒心はあったものの、他に頼る人もいない。甘えることにした。ぶっちゃけ国の機密を売ってもいい。お金をまともにもらえなかったし。
お金になるんなら、平気。馬車に揺られること数日、彼の国境を越え、さらに二つ隣の国へと向かう。国へ着くと予定調和と言わんばかりに、用意されていた。新しい国での生活は驚くほどの至れり尽くせり。
アージェント様の側近ルークは事情を理解し、住む場所や生活の面倒を見てくれた。公務で培った事務処理能力はこの国でも役に立ち、新しい生活に馴染んでいったのだ。
そんな穏やかな日々の中で、ルークの優しい眼差しや、ふとした時のあたたかい言葉。惹かれていった。ハニートラップでも、どちらでもいい。彼はいつも気遣い、困っている時には一番に助けてくれた。彼の飾らない優しさは何よりも魅力的に感じられた。
星がきれいな夜。庭園で二人で話しているとルークは少し緊張した面持ちで手を取った。
「オランジュ様。初めてお会いした時から、あなたの聡明さと優しさに惹かれていました。もし、よろしければこれからの人生を共に歩んでいただけませんか?」
彼の告白に心臓はドキドキと音を立てた。まさか、こんな展開になるとは思ってもいなかった。好きなのは自分だけだと。
「……はい。喜んで」
頬が赤くなるのを感じながら彼を受け入れた。王城を追い出され、行く当てもなかった私を拾い上げ温かい場所を注いでくれたルーク。彼となら、きっと幸せな未来を築ける。
遠い故郷を振り返ることはもうない。彼と共に生きていくのだから。
⭐︎の評価をしていただければ幸いです。




