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晴れ色リターナー  作者: るる
第1章:恢復者
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第1話:死神の目覚め

「な、何で助けてくれたの……? 私、あなたに酷いこと……」

「だって……わたしのお友達だから」


 そう笑った少女の笑顔を掻き消すように甲高い電子音が私の脳を揺らした。

 幼い頃に見ていたアニメの世界を夢に見ていた私は、スマホからうるさく響くアラーム音によって現実世界へと引き戻されていた。

 時計を見ればもう朝の7時。起きなければいけない時間だった。


「——続いては占いコーナー! あなたの今日の運勢は~?」


 誰も居ない居間でテレビを横目に見ながら牛乳を飲む。テレビでは誰だったか名前は忘れてしまったが、キャスターらしき女性が今日の運勢を紹介している。

 こんなものに一体何の意味があるのだろうかと思ってしまうのは、私が冷たいからなのだろうか。今までの人生の中で運が良かったと思った事など一度も無いし、この占いが当たった事だって一度だって無いのだから当然だと思いたい。


「もしかすると素敵な人と出会えちゃうかも!」


 私の生まれ年の星座占いは、テレビ曰くとてもいいものらしい。素敵な人と出会えるだとかラッキーアイテムがどうだとか色々と紹介されている。

 当然これだって外れに決まっている。もし本当に今日私の運勢がいいのだとしたら、どうしていつものように朝食の皿にフードカバーが掛けられているのか。どうして両親は私の話を聞いてくれないのか。


「嘘ばっかり……」


 これ以上考えると良くない想いに支配されそうになると考えた私は、牛乳を飲み干し、学校に行くために制服へと着替えると急いで家を出た。

 通学路で同じ学校の生徒達が楽しそうに話している中、ふと少し離れた所に建っている建物の屋上にある看板に視線が行った。


 『神埜(かみの)食品』。私の両親が経営している神埜財閥のグループ企業の一つ。国内だけでなく国外でも商品を出しているらしく、そこ意外にも複数のグループ企業を持っている。それが私が生まれた家、神埜財閥だ。

 小さい頃からよく羨ましがられたりしたが、私にしてみれば決していい家とは言えなかった。やりたくもない習い事をさせられて、勉強も常に上位の成績を取り続けなければ許されない。そんな家系だった。

 何もかも潰れてしまえばいいのにと思ったのは、一度や二度ではなかった。


「おはよー」


 気がつくと私は通っている高校に着いていた。どうやらあれこれ思考を巡らせている内に到着していたらしい。周りからは生徒達の声が聞こえてくる。


「ねぇねぇ聞いた!? 神埜さん、また賞取ったんだって」

「かみの……あぁ~、うちのクラスの子ね」


 靴を履き替え、そそくさとトロフィーや賞状がまとめて飾ってある玄関から離れる。

 彼女達が語っていたのは、数週間程前に私が参加したバレエのコンクールについてだった。親からやらされている習い事の一つであり、そこで賞を貰っており、それに関する内容である。

 あんなものを取ったところで意味なんて無いと思ってしまう。きっとこんな事、一生懸命頑張っている人達からすれば許されない考えだろう。だが、どうしても私にはそれに価値を見出せなかった。私が欲しい大切なものは、もうどうやっても手に入れられないのだから。


「えーそれじゃあ、点呼始めるぞ。泡来(あわき)

「はい!」

浦垣(うらがき)

「はぁい」

幽日(かすが)

「はいよー」

「神埜」

「はい」


 今日もいつも通りの学校が始まった。クラスメイトの中には授業をめんどくさそうに受けている子も居るが、正直私は学校自体は嫌いではない。少なくとも家に居るよりはずっと気が楽だ。重圧を向けられる家よりも好奇の目に晒される学校の方がストレスを感じる量が少なくて済むと感じる。

 しかしそんな時間もあっという間に過ぎていき、気がつけば放課後になっていた。クラスメイト達はどこそこに遊びに行こうといった話をしたり、各々の部活に向かったりと楽しそうにしている。


「あ、神埜さん。これからうちらでカラオケとか行こうと思ってるんだけどさ」

「ごめんなさい。今日、この後少し用事が入ってるんです」


 珍しくクラスメイトに誘われたものの、今日の私にはどうしても行かなければいけない場所があった。今日は丁度どの習い事も休みの日であり、そして両親もまた仕事の都合でどちらも家に居ない時間が長い日。そんな日でなければ行けない場所に行く予定があった。

 駅前の和菓子屋に寄ってからバスに乗り、そこから10分程走った先にある住宅街。そこに建っている少し古い一軒家の玄関前に立ち、呼び鈴を鳴らす。

 すると少し経ってからガチャリとドアが開き、中から私の大切な人の一人が顔を出した。


「ああ、カンナ。よく来たね」

「うん。1ヵ月ぶりだねお祖母ちゃん」


 お祖母ちゃんはそう言うと中に入るように促し、私はそれに甘えるようにして安心出来るお祖母ちゃんの家へと足を踏み込んだ。

 習い事を始めとして厳しい両親に比べると、お祖母ちゃんはいつでも私に優しかった。どんな時でも私の話を聞いてくれて、 色んな遊びを教えてくれた。今や私にとっての唯一の理解者だった。

 ふと心がホッとする匂いが鼻をくすぐる。


「お祖母ちゃん、煮物?」

「ええ。カンナが来るって話だったからね。好きだったでしょ?」

「うん」

「丁度出来たところだから、荷物置いてきたらちょっと早いけど食べようか」


 そう言われた私は急いで荷物を置くと手を洗い、お祖母ちゃんと共に食卓についた。

 煮物に白米というシンプルな組み合わせだが、私はこれが一番好きな味だった。どんな一流料理店でもこの味には敵わないと断言出来る。お祖母ちゃんより美味しいものが作れる人なんて、きっと居ないだろう。


「カンナ、学校はどう? 楽しい?」

「楽しく……はないけど、嫌じゃないかな」

「そうかい」

「うん」

「……ご飯、ちゃんと食べてるかい?」

「……」


 恐らく朝食を抜いたのがバレているのだろうとすぐに分かった。昔からお祖母ちゃんには隠し事が出来ない。どんなに隠そうとしてもすぐにバレてしまう。


「お父さん達と上手くいってない?」

「……ごめん」

「カンナが謝る事じゃないよ。あの子もねぇ、悪い子じゃないんだけど……」

「……」

「ああ、ごめんね。ご飯の時にする話じゃないね」

「……ありがとう」


 お祖母ちゃん曰く、お父さんは昔から異常なほどストイックな性格で、それもあってお祖父ちゃんからすぐに会社を引き継いで社長になったらしい。努力をするのは当たり前という考え方で、それを自分だけでなく他人にも向けてしまう人なのだという。

 お父さんは口癖のように「お前は時期社長になるんだ」と日頃から私に言っているが、きっと自分と同じレベルで出来ると私に思っているのだろう。


 お祖母ちゃんとの食事を終えた私は彼女の代わりに皿洗いをし、お祖母ちゃんは居間でテレビを見始めていた。食卓と居間は繋がっており、後ろを振り向けばすぐにお祖母ちゃんの姿を見ることが出来る。習い事は嫌いだったが、ここでこうしてお祖母ちゃんのために家事をするのは、個人的に昔から楽しかった。

 そんな中、テレビからニュースキャスターの声が聞こえてくる。


「続いてのニュースです。4月3日に起こった女児を狙った殺人事件についての続報が入りました」


 キャスター曰く、1ヵ月前に発生した女の子が殺害された事件の犯人が捕まったのだという。犯人は「殺すつもりはなかった」と話しているらしく、今後も聴取や検証を進めていくつもりのようだ。

 ニュースの中では殺害されたという女の子の顔や名前まで公開されており、それを見ていたお祖母ちゃんの口からは嘆きの声が漏れた。


「この子も可哀想だけど、家族も可哀想だよ。なんだって殺された家族の顔や名前まで世間様に知られなくっちゃならないんだい」

「……」

「残された人達の事なんて、誰も気にしないのかねぇ……」


 洗い物の手を止め、居間にある仏壇へと顔を向ける。

 仏壇にはお祖父ちゃんと幼い女の子の写真が置かれており、その子は今でも私に笑いかけている。それに耐えられなくなり、顔を背け洗い物を再開した。


 洗い物を終えた私はその事をお祖母ちゃんに伝えると、駅前で買って来たどら焼きのセットを手渡す。お祖母ちゃんは昔からこれが好きで、当時はよく買ってきて私達におやつとして出してくれていた。


「あら、懐かしいねぇ。ありがとうカンナ」

「うん。これ、好きだったよね」

「ええ。カンナもね。それにリコも……好きだった」

「……そう、だね」


 お祖母ちゃんはその場で包装を開けると個包装されているどら焼きを取り出し、それを仏壇へと持って行った。


「カンナ、久しぶりに手を合わせてあげてくれるかい?」

「うん。もちろん……」


 お祖母ちゃんの隣に座り、笑顔を向けるあの人に手を合わせ目を閉じる。


 神埜 リコ。私の7歳年上のお姉ちゃんで、生きていればもう成人している年齢だった。頭が良くて運動も出来る完璧な人で、神埜財閥の時期社長は間違いなくお姉ちゃんだと、誰もが思っていたし本人もそれを嫌がってなかった。

 しかし私が3歳、つまりお姉ちゃんが10歳の頃に突然彼女の命は絶たれた。公園で一緒に遊んでいた私の目の前で不審者に攫われてしまい、後日そこから遠く離れた別の公園にある池で無残な姿で発見されたのだ。

 私に聞き込みをした刑事の人の話では、お姉ちゃんの背中には死後つけられたであろうバツのような傷があったのだという。執拗な遺体の損壊から何らかの恨みを持つ人物の犯行ではないかとされたが、結局未だに犯人は見つかっていない。


「カンナ」

「?」

「カンナのせいじゃないからね」


 私はいつの間にか頬を伝っていた涙を手で拭う。


「うん……」

「それと、お父さんの事も責めないであげて。カンナを守るためだったんだよ」


 お父さんはお姉ちゃんが殺されたと知ったあの日、涙を流さなかった。いつものようにクールで、まるで何も感じていないみたいだった。

 それだけではなかった。お姉ちゃんが殺されたというニュースはたった1日だけしか放送されておらず、それ以降まるでそんな事件存在していなかったかのように語られなくなったのだ。神埜 リコなんて最初から存在しないかのように皆触れなくなっていた。


「あのまま報道が続いたら、マスコミの目はカンナにも向くって。そう考えて規制をかけたんだよ」

「分かってるよ……分かってる、けど……」


 それからだった。お父さん達が私にあれこれと習い事をさせ始めたのは。


「……カンナ。そろそろ今日は帰りなさい。もうお父さん達帰ってくるんでしょ?」

「うん……ごめん、お祖母ちゃん」

「カンナが謝る事なんて何も無いよ。何かあったら、いつでもお祖母ちゃんとこおいで」


 私は口から零れそうになった寂しさをグッと飲み込み、お祖母ちゃんにまた会いに来ると告げると急いで帰路に就いた。

 家に着いた私が玄関を開けると、そこにはお父さんが立っていた。既に靴を脱いで廊下に上がっていることもあって、上から見下ろされているような感覚を覚え体が委縮する。


「カンナ、どこに行ってた? 今日は習い事の予定は無いはずだ」

「友達、と……遊びに」

「母さんの所か?」

「っ……」

「……何度も言わせるな。お前はうちの時期社長になるんだ。くだらん事に時間を割いている余裕は無いんだぞ」


 お父さんは何故かお祖母ちゃんのことを毛嫌いしていた。昔はよく私とお姉ちゃんを預けたりもしていたのに、あの事件以降急に遠ざけるような言動をするようになっていった。

 その理由を聞こうとしてもこの状態になったお父さんから聞き出す事は不可能であり、食事を済ませてきたのならさっさとお風呂に入って勉強をするようにとだけ伝えて、お父さんは自室へと入っていった。


 浴槽に張られたお湯に浸かりながらお姉ちゃんのことを思い返す。

 お姉ちゃんは私とは違い、色々な事に興味を示して自分から習い事をしたいとお願いするような人だった。しかも非常に器用でいくつもの大会で優秀賞を取るほどで、テレビや新聞にも出たことがある。しかし決して驕るような事はせず、私だけでなく誰にでも優しい人だった。


「何で……私じゃなかったんだろ……」


 ふとそう思ってしまうことがある。あの日、殺されたのが私だったなら、こんなに苦しい想いをしなくて済んだし、お姉ちゃんがあんな目に遭う事も無かったのではないか。お姉ちゃんならお父さん達の期待に応えることも出来たし、きっと神埜家の令嬢として相応しいと誰もが口を揃えて言ったはずだ。

 しかし、生き残ったのは私だった。お姉ちゃんと私、一体何が違ったのだろうか。何故あの人だけだったのか。どうして一思いに私も殺してくれなかったのか。


 翌朝、再びアラーム音で目を覚ました私は、用意された朝食には口をつけずに学校へと足を運んだ。こんな苦しい場所よりも、好奇の目に晒される方がずっとずっと楽だから。

 教室に着くと昨日遊びに誘ってくれたクラスメイト達に一言謝ってから、自分の席へと着いた。珍しく誘われたのに断ったということもあり、やはり視線を集めてしまっているのを嫌でも感じる。


「それじゃ、今日の点呼を始めるぞ。泡来」

「はい!」

「浦垣」

「んー」

「幽日」

「……」

「幽日ぁ?」


 幽日さんは返事を返さなかった。いや、正確には幽日さんの姿自体が教室の中に無かったのだ。

 ムービーメーカーとして振舞っている姿をよく見かけ、授業の様子などから考えて勉強は苦手そうな人だった。授業中に突然理由をつけては姿を消すことが時折あったため、恐らく今回もそれなのだろう。要は授業をサボっているのだ。


「あいつ、またサボりか……。浦垣、幽日がどこに居るか分かるか? お前友達だろ?」

「知らなぁい。てかアタシが知るわけなくない?」

「全く……」


 幽日さんはクラスの中でも人気が高い方だが、同時に問題児でもあった。しかし私の人生とは無縁なタイプの人であり、幽日さんの内申点が下がろうが私には関係が無い。どうせ私に友達を作る時間なんて、あるはずが無いのだから。


 結局、幽日さんが帰ってこないまま授業は進んでいき、私は移動教室のために渡り廊下を歩いていた。天気予報が嘘のような雨模様だった事もあり、壁が無い渡り廊下は雨が少し入り込んできてしまっている。

 そんな中、歩いている最中に上級生の一人とぶつかってしまった。


「あっ、すみません……」


 その人は思わず見惚れてしまうほどの綺麗な顔をした人で、短く整えられた髪は雨の中でも光を反射し、どこか人間離れした美しさを感じる人だった。こちらを見つめる無表情な瞳からは感情のようなものは感じられないというのに、見ているだけで吸い込まれてしまいそうな奇妙な魅力があった。


「……」

「あの……」

「なに?」

「いえ、あの、ぶつかってしまってすみません、と」

「……ああ、ええ。そうね」


 その上級生は少しの間こちらをじっと見つめた後、何も言わずに立ち去って行った。彼女が何を考えていたのかは分からないが、少なくとも私はぶつからないように前を見て歩いていたつもりだった。こんな事を考えるのは失礼かもしれないが、私には彼女が意図的にぶつかってきたように感じてしまう。


「気のせい、だよね……」


 移動教室での授業が始まり、どれくらい経った頃だったろうか。突然ドアが開き、教師の一人が私を呼び出した。何やらお父さんから電話が掛かってきているらしく、今すぐに出る必要があるため授業中にもかかわらず来たそうだ。

 わざわざ学校に電話を掛けてくる事など今まで無かったため、何事かと考えつつ職員室で電話に出ると、珍しい声色のお父さんの声が聞こえてきた。


「カンナか」

「何?」

「……落ち着いて聞け。いいか」


 嫌な予感がした。


「母さんが——」


 そんなはずは——。


「亡くなった」


 気がつけば、私は自室のベッドで寝かされていた。勉強机の上にはメモ書きが置かれており、学校で倒れた私をお父さんがここまで運んだとの事だった。お祖母ちゃんが亡くなったということもあってか、どうやらお父さんも車を出して迎えに来たらしい。

 机の上に置かれた写真立てに目を向ける。そこに入っているのは昔撮影したお祖母ちゃんと私達姉妹のスリーショット写真だった。今はもう決して撮ることの出来ない、どうやっても再現することの出来ない景色が封じ込めてある。


「何で……」


 覚悟をしていないわけではなかった。お祖母ちゃんはここ最近、体を悪くしていた。年齢的に考えても、一度悪くすると元通りにはなりにくい。心臓を悪くしていたお祖母ちゃんにそういう日がいつか来ることは、分かっていないわけではなかった。

 しかしそれでも、私の心は納得しきれてはいなかった。お姉ちゃんやお祖母ちゃんが亡くなって、何故私だけが残らなければならないのか。どうして大切な人だけがいつも居なくなってしまうのか。


「……死神、ってことか」


 ずっとそうだった。私の周りでは不幸ばかり起こる。大会で手に入れた賞も、私なんかよりもっと欲しがっていた人が居たはずだ。それなのに私は言われるがままに練習をして、ただ欲しくもないものを手に入れてきた。学校に飾られているアレは全部、私がしてきた悪行そのものだ。

 もう、許すことなんて出来ない。


「……行かないと」


 抑えることなど出来なかった。内より湧き上がるドロドロとしたどす黒い何かを、これ以上飲み込んで無かった事にするなんて出来なかった。きっと生きている限り、この黒いものを一生背負っていかないといけないのだろう。

 雨音の間にカンカンと高い警告音が響く。黄色と黒の檻が私を閉じ込める。足の裏からは遠くから近づいてくるそれの振動が伝わってくる。


「……」


 今までずっと嫌な事があっても我慢し続けてきた。あの事件の犯人だって、警察に任せればいいと言われたから探さなかった。習い事もやらないといけないから黙って続けてた。嫌な気持ちは底へと沈めて隠してた。

 でもそれももう終わりだ。最期に神埜 カンナを沈める。これで、ようやく終われるのだ。

 目を、閉じた。


「……?」


 瞬間、ピタリと全ての音が聞こえなくなった。雨音も遮断機の音も何もかもが聞こえなくなり、静寂に包まれた。

 何が起こっているのか目を開けたその時、私の目の前には大きな何かが座り込み、こちらの顔を覗き込んでいた。

 巨大な球体関節人形のようなそれは、仮面のようなものを被っており、そこには目を思わせる二つの穴が開いている。その奥は真っ暗で本当に目なのかどうかも分からないが、そこからこちらを見ているという事だけは何故か感じられた。


「あ……」


 きっとこんな事を聞けば、誰もがおかしいと思うだろう。しかし私はこの異形の怪物の姿を見て、すぐに「これは私だ」と感じたのだ。本能的に目の前に居るそれが、私と同じ存在なのだと直感した。現に私がそれに手を伸ばすと、それもまた木で出来ているような大きな手をこちらに伸ばそうとしたのだから。


「ストッーープッ!」


 今にも触れそうになった私達の手を遮るような声と共に、目の前のそれは線路の奥へと吹き飛ばされていった。その際に発生した衝撃で私も尻もちをついてしまった。

 何が起こったのか困惑している私に手が差し伸べられる。


「大丈夫?」


 髪をサイドテールにしているその少女は、奇妙な装束を身にまとっていた。まるで私が昔から好きだった魔法少女作品のヒロインのようなフリフリとした服だったが、随所に包帯を思わせるようなものが巻き付いており、首にはマフラーのようなものを巻いていた。

 そんな彼女の隣にはもう一人、その少女よりも背が高い別の少女が立っていた。天女や巫女を思わせる和装のような服をしており、肩から頭にかけて羽衣のような物が謎の原理で浮かんでいる。そして彼女のその顔には、どこか見覚えがあった。


「あれ? ホントに大丈夫? 怪我しちゃった?」

(つぐ)、だから蹴る必要は無いって言ったのよ」

「や~、だってさぁ、マジであと一歩でヤバかったじゃんかさ」


 あまりにも現実離れした光景が続いたせいもあって、上手く頭が回らない。


「あ、あの……あなた達は一体……?」

「お、それ聞いちゃう系?」


 丞と呼ばれた少女は少し考えるような素振りを見せた後、手元にボウガンを出現させると吹き飛んだ怪物の方へとそれを向けた。


「ひみつ♪」


 その言葉を引き金にするように、ボウガンから光の矢のようなものが射出された。その矢が当たったのか怪物が苦しむような声が聞こえ、巨体をググッと起こし始める。


「丞、それじゃ駄目。決定打にならない」

「何さぁ、あたしじゃ実力不足ってハナシ?」

「相性の問題よ」

「ま、でしょうね。そんじゃ、まこ(ねぇ)よろしく」


 まこ姉と呼ばれた見覚えのある少女は返事は返さず、羽衣を掴んで振るった。すると羽衣はいきなり別物のように長くなり、怪物の胴体へと巻き付いていく。

 しかし、怪物は羽衣に締め付けられているにもかかわらず起き上がっていき、先程のように膝をついた姿勢になると、突如生々しい音と共に背中が十字型に裂け、その裂けた表面の部分が体の上へと上がっていった。

 やがて、怪物はその裂けた十字から伸びる筋繊維のようなものに引っ張られ、ついに立ち上がった。それにより、この怪物の本当の大きさを実感することになった。


「ちょいちょいマジぃ……? こんなケース初めてなんですケド……」

「そうね。記録した方がいいかもしれない。例えばだけれど、あの糸のようなもので動かしているのか、それとも単なる飾りに過ぎないのかとか」

「よく今そんなことに頭回るね……」


 胸の奥が痛む。

 あの背中の十字の傷は、間違いない。お姉ちゃんと同じものだ。お姉ちゃんは背中にあれと同じ傷をつけられて殺された。


「まこ姉、ちょい時間稼ぎお願い。あたしはこの子に離れててもらうから」

「ええ。やっておく」


 丞さんはジャンプして一人で怪物へと向かっていく仲間には目もくれず、私を抱きかかえるといきなり重力を無視したような動きで飛び始め、やがて少し離れた所にあるビルの屋上へと下ろした。


「さて、そんじゃここ居てね。迎えに来るまで」

「え、あ、あの……何が起こってるんです!? あれは……私、ですよね……?」

「……分かるの?」


 丞さんは驚いたような表情をした後、少し思案するように目を泳がせると、再び口を開いた。


「……今から言うこと、全部ホントなんだけどさ。キミが言ってる通り、アレ、キミ自身なんだよね」

「どういう、ことなんですか?」

「人間の感情が一定の閾値まで超えると、その想いや願いを依代にするようにして現れる。あたしらは、マルクトって呼んでる」


 丞さんによると、年に数回はああいった存在が現れており、それを倒すために彼女達のような魔法少女が日夜戦っているのだという。マルクトが現れる時は上位次元と私達の世界が重なる影響で時空が歪み、今のように時間が停止した状態になるらしい。

 そこまで話すと、丞さんは私にブレスレットを手渡してきた。


「それでさ、もし良かったらなんだけど、キミも一緒に戦ってくれたりしない、かな?」

「え?」

「アレ、あたし達が今まで戦った中でも相当強い奴っぽいんだよね。あたしでもまこ姉でも、多分勝てるか怪しい」


 丞さん曰く、マルクトにはそれを呼び出すきっかけになった人による攻撃が一番効果的なのだという。つまりあの人形のようなマルクトへは、私からの攻撃が一番ダメージがあるということらしい。他人の心を理解するのは難しいが、自分の心であれば全て理解出来る。だからこそ想いや願いから生まれた彼らへの特効となるということだろう。

 魔法少女という存在に夢を見た事がある。不思議な力で悪者をやっつける正義のヒーロー。

 思い返してみれば、お姉ちゃんも私と同じで魔法少女ものが好きだった。もしこんな時、お姉ちゃんだったらどうするだろうか。あの人なら、困ってる人からお願いされたら絶対断らないはずだ。いつでも私の味方をしてくれるような人だったのだから。それに——


「……分かりました」

「え、マジ? いいの?」

「はい。私じゃないとまずいんですよね?」


 この不思議な力があれば、お姉ちゃんを殺した犯人を見つけられるかもしれない。この力があれば、然るべき裁きを与えられるかもしれない。


「これ、着ければいいんですか?」

「あ、うん。そんで、願うの。なりたい自分を」

「なりたい自分……」


 私のなりたいもの。そんなもの考えた事がなかった。神埜家の跡取りとして生きる事しか許されないと思って、考えるだけ無駄だとばかり思っていた。

 でも、やっぱりやりたい。あの事件の真相が何だったのかを知りたい。どうしてお姉ちゃんが殺されなければならなかったのか。どうして私は見逃されたのか。ずっと引っ掛かっていた。

 そしてもし魔法少女としての力でそういった事件を防げるのであれば、この街を守りたい。お祖母ちゃんやお姉ちゃんが生きたこの街を、嫌なもの全てから守りたい。


「私は……『私』になりたい」


 その言葉を発した瞬間、私の体は眩い光に包まれた。光は体に蒸着するとその形を変え、白いドレスになっていった。スカート部分にはトランプのカードが並んでいる。それを見て、お祖母ちゃんとの思い出が蘇った。

 私がまだ小さかった頃、初めてお祖母ちゃんの家に預けられた時、私は不安で泣いていた。 お姉ちゃんが何だったかの大会に出る事になって県外に行っており、お父さん達も仕事が忙しく、お祖母ちゃんの所に預けられたのだ。

 当時初めてお祖母ちゃんと出会った私は、不安に感じて泣くことしか出来なかった。そんな時、お祖母ちゃんは私をなだめようとお手玉や花札など色々な遊び道具を出してきた。そんな中で私が心惹かれたのが、トランプだったらしい。何故トランプなのかは今では私にも分からないが、トランプを見た私はじっとその絵柄を見つめて泣き止んだのだという。もうそんな昔話も、聞くことは出来ないが。


「これが……私……」

「やっぱり、素質あるねマジで……」


 離れた所で戦っているマルクトとまこ姉と呼ばれていた少女に視線を向ける。彼女は空中を飛びながら羽衣を使って応戦しているが、やはりマルクトのパワーは凄まじいらしく抑えることは出来ずにいる。

 素人の私の目から見ても彼女が倒されるのは時間の問題なのが分かり、丞さんもそれを理解しているようで私の腰に手を回した。


「早速だけど行けそう?」

「はい」


 私達の体は先程と同じように重力を無視するような動きで動き始め、まるで真横に落下するように一直線にマルクトの方へと飛び始めた。

 近くまで飛んだ丞さんはまこ姉と呼ばれた少女に触れ、三人まとめて空中へと進路を変えて飛び上がった。やがて私達は空中で制止した状態になった。


「ごめん、お待たせ」

「変身させたの?」

「お願いしたらやってくれるってハナシになった。無理にさせたワケじゃないよ?」

「丞さんから聞きました。あのマルクトというもの……私の攻撃が一番効くんですよね? えっと……」

「まこ姉。あ、真心(まこ)だよ。あたしのお姉ちゃん」

「妹から聞いているようだけれど、私も丞も歯が立たない。あの変形も前例が無いわ」

「私はどうすれば?」

「簡単なハナシだよ」


 丞さんによると、自分の思うように戦っていいのだという。あのマルクトは私自身のため、あれが次に何をしてくるかは本能的に分かるのだそうだ。そのため私に関しては下手に作戦を立てるよりも、自分がこれだと思う方法で戦った方が今回はいいらしい。

 こちらを見失っていたマルクトはようやくこちらに気づいたのか、咆哮のようなものを上げるとこちらに向かってその手を伸ばしてきた。すると 真心さんは丞さんから離れて自ら落下した。その体は落下中に右手の先から解れるように糸状になっていき、その解れた箇所がマルクトの体に巻き付いていった。

 真心さんは右肩まで解れた状態になり、そのままの姿で近くにあった電柱へと捕まった。服の下からはまた解れた肉体が出ており、電柱に自身の体を固定している。


「まこ姉が止めた。どうする?」

「あそこまで飛ばしてください。やり方、見えました」

「おっけ」


 空中で静止していた私の体は、重力の影響を急激に受けたかのようにマルクト目掛けて落下し始めた。

 何をすればいいのかも、自分に何が出来るのかは直感的に理解出来た。スカートに付いているカードは、引っ付き合って別の形になることが出来る。正確には触った物同士を引っ付けることが出来る。それが私の能力だと実感する。

 カードは私の意思に反応するように勝手に動き出し、空中で一瞬にして大鎌の形へと変化した。それが私の手に吸い寄せられるように引っ付く。


「見えた!」


 一閃。私が振り抜いた大鎌はマルクトの仮面を切り裂き、その素顔を露わにした。

 仮面の下に隠されていたのは、目を大きく見開きながら血の涙を流し、口を大きく開けて叫んでいるような顔だった。

 仮面を破壊された痛みで苦しむマルクトを見上げる。

 やはりこれは私だ。背中のあの傷は、私の記憶の中にあるお姉ちゃんの苦しみだ。私にとってお姉ちゃんは誰よりも尊敬できる人だった。絶対に忘れることが出来ない人だった。その影響がマルクトの姿に反映されているのだろう。


「あなたは私……私はあなた……」


 拘束の限界が来たのか巻き付いていた真心さんの腕が解け、マルクトはこちらに向かって手を伸ばしてきた。しかしどう動けばそれを止め、倒すことが出来るのかすぐに理解出来た。丞さんが言っていたように、このマルクトの動きは手に取るように分かる。

 先程切りつけた際にカードが一枚大鎌から外れていたのか、ひらひらと舞い降りてきた。そしてマルクトの手が私に触れようとした瞬間、大鎌は勢いよくカードの方へと引き寄せられるように動いた。降りてきたカードの方に大鎌が引っ付くように能力を発動させればいい。そう考えた結果、そう動いた。

 マルクトの手が切断され宙を舞う。


「おっほー! イカスねぇ!」


 丞さんは私の隣に降りてくるとマルクトに向けてボウガンを数発発射する。しかし矢が当たっても全く反応が無く、いずれもダメージが無さそうだった。


「やっぱダメか……ヤバイなアレ」

「大丈夫です。次で終わらせます。飛ばしてもらっていいですか?」

「いいよ。お願いね」


 最後のトドメを刺すべく、私の体は丞さんの力によって飛び出した。一瞬でマルクトの頭部との距離が縮まり目が合った瞬間、手に握られた大鎌はマルクトのその首を刎ね飛ばした。とても生物とは思えないような見た目だというのに、刎ねる瞬間のその感触は酷く生々しいものだった。

 首を失ったマルクトは塵のように消滅していき、それに合わせるようにして私達の衣装も元のものへと戻っていった。どうやら丞さんも同じ学校だったらしく、同じ制服を着ていた。


「イェーイ! さっすがぁ! やっぱあたしの目に狂いは無かったねぇ!」

「あれ……?」


 制服姿の丞さんにどこか見覚えがあった。


「あの……丞さん、でしたよね?」

「うん? ん、そうだね」

「どこかでお会いしましたっけ……?」

「あー……覚えてない感じ?」

「え?」

「ああ、いやいや別にいいんだけどね。あたしクラス居ないこと多いしさ」


 そこまで彼女が言ったところでようやく思い出した。

 今目の前に居るのは同じクラスの幽日さんだ。喋ったことが無いのもあって、すぐに顔と名前が一致しなかったが、改めて見てみると彼女で違いない。


「もしかしてですけど、幽日さん……?」

「そっ。まこ姉もいて紛らわしいし丞でいいよ」

「あの、まさかよく授業をサボってるのは……」

「お察しの通り、あいつら相手にしてるからだね。こう見えてもあたし、授業は真面目に受けたいタイプなんだよ?」


 丞さんは私の記憶が正しければ結構なペースで授業をサボっていた。いつの間にか居なくなっているため先生達の間でも困っている様子だった。しかしそれらは全てマルクトと戦うために抜け出しているだけだったのだ。

 いつの間にか雨が再びポツポツと体に当たり始めたことから、マルクトを倒せば時間は再び刻み始めるようだ。そうなると変身が解除される事になるため、結果的にいきなりいなくなったように、授業を抜け出したように見えるのだろう。


「えっと、確認だけど、名前……カンナちゃんで合ってるよね?」

「あ、はい。神埜 カンナです」

「だよね。いやぁ、友達がたまに話題に出してんだけど、接点無いから間違って覚えてないか不安でさ」


 そういえばクラスの中で私を話題に上げている人が居た気がする。もしかすると彼女の友人が丞さんなのだろうか。

 そう考えていると電柱から降りていた真心さんがこちらへと歩いてきた。その制服姿を見て、彼女に抱いていた疑問が一瞬にして解かれた。


「あ……」

「何?」

「今日、渡り廊下で……」

「ええ。そうね」


 移動教室の際に渡り廊下で出会った彼女こそが真心さんだったのだ。その綺麗な髪は雨に濡れているせいで少し肌に張り付いているが、吸い込まれてしまいそうな神秘的な瞳は間違いようが無かった。


「まこ姉が最初に気づいたんだよねー?」

「神埜さんからマルクトの気配が出たり消えたりしてた。探るには貴方に触れる必要があった」


 真心さんによると、彼女達のように魔法少女になると、マルクトの気配を感じ取れるらしい。私の感情から形を成そうとしていたマルクトの気配に気づき、それがどこから来ているのか探るために私に接触を図ってきたのだという。つまりあの時ぶつかったのは、偶然ではなかったのだ。


「奇妙な感覚だったわ。マルクトの反応が出たり消えたりする……貴方が初めて」

「さっきも仰ってましたけど、そうなんですか……?」

「人ってさ、簡単に感情をコントロール出来ないもんなんだよ。そういう反応だったってことは、カンナちゃんが高い精神力を持ってるってこと」

「事情は知らないけれど、素質の塊ということになるわ」


 そもそも普通の人は自分で呼び込んだマルクトを認識出来ないのだという。暴走する自分の感情をコントロール出来ない限りは、向き合うことが出来ないということだろう。


「さってと……ホントはもっと話さなきゃな事があるんだけど、今日はやめといた方が良さそうだね」

「雨天の夜道は視認性が悪いし、何らかの病気にかかる可能性を否定出来ないわ」

「確認だけどさカンナちゃん。マジであたしらと一緒にこれからも戦ってくれる?」


 答えはもう決まっている。せっかく手に入れたこの力を手放すわけにはいかない。この力があればお姉ちゃんを殺した犯人を見つけ出せるかもしれない。それに少しだけ気になる事がある。


「丞さん、真心さん、少し質問があるんですが、いいですか?」

「ん、答えられる範囲で答えよー」

「マルクトが……人を殺すことはあるんですか?」


 丞さんと真心さんはお互いに顔を見合わせた後、それぞれ答えた。


「少なくとも、私達が認識している限りでは無いわ」

「あいつらが狙ってるのは、自分を生み出した人の精神を乗っ取る事だからね」

「なら私達を襲ってきていたのは?」

「あたしらは狙われるんだよ。だってあいつらの邪魔するポジなワケだしさ」

「ただし今後もそれが適用されるとは限らない」


 真心さんによるとマルクトは依代にした想いや願いによって、その姿や性質が大きく違うのだという。当然対処法も持っている能力もマルクトによって違ってくる。今まで普通の人を殺した経験が無いからといって、今後もそうだとは限らないらしい。更に彼女達が気づけていない範囲でそういった事件が起きていないとも言い切れないようだ。

 それを聞いて私の決意はますます強くなった。お姉ちゃんを殺した犯人は間違いなく人間のはずだ。しかし、マルクトが人間を乗っ取るというのであれば、それが原因であの事件を起こした可能性が出てきたのだ。仮に違ったとしても、あんな怪物がこの街に現れるのを知ってて黙っているわけにはいかない。お祖母ちゃんやお姉ちゃんが愛したこの街に、あんなものが居てはいけない。


「分かりました。ありがとうございます」

「心変わりしたのなら辞めてもらっていいわ。命の保証は出来ない」

「助けてほしいのはマジだけどね」

「大丈夫です。街を守るために、必要な事なんですよね?」

「うん。あたしらくらいだもん。あいつら見えるの」


 私は自身の右手首に着けているブレスレットを一瞥し、丞さん達に頭を下げる。

 いつの間にか、雨は上がっていた。


「分かりました。これから、よろしくお願いします」

「わわっ、別に頭下げる事でもなくない!?」

「……」

「まこ姉?」

「……何でもない」


 真心さんは私を見て何かを考えていたようだったが、特に追及してくるような事はしなかった。丞さんはそんな真心さんを見てキョトンとしていたが、雨で体が冷えていたのかブルッと身震いすると、真心さんの袖を引いた。


「ヤバ……まこ姉そろそろ帰ろ。寒いわマジ……」

「そうね。雨は上がっているようだけれど、体温の低下は起こっているようだし」

「てことで、明日また学校でねカンナちゃん! 色々細かいこと教えるから!」

「暖かくして寝ることをお勧めするわ」


 そう言うと二人は水溜まりを避けながら夜道を歩いていった。彼女達を見送った後、家へと歩みを向ける。

 こんな奇跡が巡ってくるなんて思ってもみなかった。魔法少女なんてものが本当に存在しているなんて誰が信じるだろうか。しかしこれは紛れもない事実であり、またとないチャンスだ。お父さんや警察ですら無かったことにしたあの事件の真相を、今度こそ自分で見つけ出すのだ。

 雨に濡れた私の体は、熱く火照(ほて)っていた。

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