第8話 夏の夜の贈り物 5
「桃乃、大変なお知らせがあるぞ」
「なに?」
「今夜台風が来るらしい。」
「えぇ~!?」
びっくりしていたらシンがテレビをつけてくれた。通常の番組の画面が少し小さくなっていてその脇に台風に関するニュースや交通情報がテロップになって流れていた。
「そういえば、昨日からテレビ全然見てなかった・・・」
「桃乃も?俺なんかここ5日間くらい何してたのか良く覚えいないんだよな」
えっ?
そういえばシンて見かけたときからすごくやつれていたけど、それってちゃんと食べてなかってことなのかな?ラーメンを食べているシンをじっと見つめてしまう。
「どうした?」
「シン、お父さん達死んじゃったとき、泣いた?」
シンが黙ったまま私を見た。
私ってば何聞いているんだろう。泣くよね普通。シンは何も言わずまたラーメンを食べ始めたから、私も何も言わずに食べた。
「桃乃、そっち向いてて」
ラーメンを食べ終えてからシンが言った。
何だろう?って思ったけど、言われるままにシンに背中を向けた。
シンの頭が私の背中に寄りかかってきた。
「シン、どうしたの?」
「・・・・・」
シンは返事をしなかった。具合が悪いのかなって思って振り返ろうとしたら、シンがかすかに震えているのが分かった。
泣いている?
「親父、ガンだったんだ」
シンがポツリポツリと話し始めた。
「仕事継げって言われて、俺は違う進路を希望していたらそれは出来ないって断った。喧嘩になったから家出て、1年くらい会ってなかった。そしたらお袋と二人一緒に事故死したって、なんだってんだよな、それ・・・」
最後の方は涙声だった。シンがお父さんとはもう仲直りできないってことだけは分かって、胸が苦しくなった。
何て言ってあげたらいいんだろうけど、言葉が見つからない。
シンが背中から頭を離したから、私はシン方へ振り向いた。シンの顔には涙が流れていたであろう跡が残っていたけど、シンは口の端で私に微笑んでいた。私はシンに優しくしてあげたいって思った。
「なぐさめてあげようか?・・・」
そういった瞬間シンがの表情が凍った。
「どういう意味?」
なんでだか怒せちゃったみたい。どうしよう。
「えっと、あの、なんていうかお母さんが頭なでてあげるみたいな、そんな感じのことなんだけど・・・」
「・・・ぷっ」
ってシンが吹き出してワッハッハッと大笑いし出した。どのへんが笑いのツボだったのか全く分からなかった。
「なんか変なこと言った?」
「だって、桃乃みたいな子供にお母さんなんて、クスッ」
「そんなに笑うことないじゃない」
ほんと笑いすぎだよ。
「ごめんごめん。じゃあ桃乃が大人になった時によしよしってしてもらおうかな」
その時シンていくつよ。そんなことを思ったけど、シンが笑ってくれたので安心した。
その後また家にそれから携帯にも連絡したけど、誰とも連絡が取れなかった。
「とりあえず、今夜は泊っていけ」
シンが布団を敷いてくれた。しかし、布団は一つさすがにどうしようって思って固まっていたら、シンが台所の方で寝てくれるから布団を使えって言い出して
「だったらシンが布団使って、こっちは畳だから私はこのままでも大丈夫だよ。」
一瞬私が台所にって思ったけど、シンには布団で寝て欲しいなぁって思って提案してみた。
そうしたらシンは布団を台所に運んでマットレスだけこっちに残してくれた。
雨の激しい音を聞きながら私は初めて会った人の部屋で眠りについた。
シンから借りた衣類やタオルその他みんな、洗いたてのやわらかな感触と石鹸の香りがして心地良かった。