第7話 夏の夜の贈り物 4
土砂降りになる前にと走って行ったシンの家は、少し、いやかなり、とてもつもなくオンボロな木造アパートだった。
シンの部屋は2階でドアに表札として「SHIN」と書いた紙が貼ってあった。
偽名じゃなかったのか?
でもシンで名字?名前?聞きそびれた疑問が胸に残った。
招き入れられた部屋はキチンと片付いてシンがキレイ好きなんだと分かる。
傘を借りたらバスに乗って帰ろうと思っていたけど、雨の降りがどんどん酷くなってくる。シンの部屋の窓に雨が打ちつけてくる音がなんとも攻撃的で「このアパート大丈夫か?」気になった。
「しばらくここで雨宿りして、様子見てから出発したら?バスも遅れるかもしれないし」
借りたタオルで髪や服を拭いているとシンが言ってきた。タオルも洗濯がきちんとされているらしく石鹸のいい香りがした。
「ありがとう」
「あっ、あと家に電話してみたら、誰か帰ってるかもしれないよ」
!!!
そうだ。パパか菊乃様なら車が出せるから迎えにきてもらってもいいし。早速電話を借りて家の番号をダイヤルするが、誰も出なかった。ついでにみんなの携帯にかけたけど、やはり反応無しだった。
「・・・・・・」
受話器を置く私をシンが見ている。どう言えばいいのだろうか?私は俯いて黙ってしまった。
「ラ-メンでも食う?」
何もなかったかのようにシンが聞いてきた。私はシンの方へ向き直ってぎこちない笑みを浮かべて答えた。
「食べたい」
「桃乃、シャツ貸してやるからシャワー浴びてこい。濡れたままだと風邪ひくから」
「あっ」
初めて会った男の人の家でシャワーなんて借りていいのかと思ったが、さっきタオルで拭いたけど完全に乾いているわけではなかった。
さすがに迷ったが、風邪をひいてはプールや夏期講習に差しさわりがでると思いシンの申し出を受けることにした。
「その間にラーメン作っておくから」
またシンが笑ってくれた。ラーメンを作るということはお風呂場に近づかないと遠まわしに言っているのだろうか。それでもこの部屋は狭いから台所の隅がすぐにお風呂場だ。
服を脱いでいる間シンは奥のテレビやテーブルのある部屋に行ってくれた。
日中は暑かったとはいえ濡れた服を着ているとそれなりに体は冷えていたようで、熱いシャワーは気持ちよかった。
脱衣所なんかない部屋だからどうやって着替えようかとお風呂場で悩んでいたけど、少しドアを開けたらシンは奥の部屋に行ってしまったみたいで、ドアの下に置いてあったバスタオルを借りた。
「出たか―?ラーメンはあと30秒で出来るぞ」
お湯をかけるだけのやつだから向こうに行けたのか。幸い下着は雨の被害にはあっていなかったので、自分の下着の上にシンのシャツを羽織って奥の部屋へ行った。
奥の部屋と言っても台所とその部屋だけなんだけど、そこへ行くと着換えたシンがカップラーメンの前で時計を見ていた。
「3、2、1、完成ー!さあ桃乃食べるぞ」
「いただきます」
小さな座卓のシンの隣りに座って一緒に食べ始めた。
雨が窓を打ち付ける音が止まないまま二人でラーメを食べ続けた。本当にこのアパート大丈夫?家の中よりはキャンプでもしているような気分になった。