第6話 夏の夜の贈り物 3
緑の木々に囲まれた公園のほぼ中央に広々とした空間があって、その空間の真ん中にあの噴水はあった。
噴水の周囲を取り囲むように設置された花壇には色鮮やかな花が植えられていて、そのそばにいくつか置いてあったベンチのうちの一つに座って噴水を見ていた。
水が湧き上がるのは一定の高さではないし、中央に大きな噴水、周囲に小さい噴水って色々な動きのある水の芸術品って感じがした。
昨日からの出来事を忘れてしまうくらい夢中になって私は見ていた。
プールとか海とか泳いだり潜ったりが私は大好きだから、噴水の水が深い海にでも飛び込んだ時の水しぶきに思えて堪らない気分になっていた。
どのくらいの時間だったのだろうか、私が座っているベンチとは違うベンチにうずくまった男の人がいることに気がついた。
というよりその男の人は私がベンチに座る前からいた気がした。
両手で頭を抱える感じで背中を丸めて足元を見ているような格好はなんだか具合が悪そうに見えてきた。
夏の日差しもかなり強い日だったから脱水でもしているじゃないかって思って、私はその人に声をかけてみた。
「具合悪いんですか?」
「・・・いや、大丈夫だから」
男の人は俯いたまま答えた。やっぱり具合悪いんじゃないかなって感じた。
「これ飲みますか?」
私は手に持っていたスポーツドリンクを差し出した。
男の人は頭を上げて不思議そうに私を見た。めちゃめちゃやつれた顔をしていて絶対具合悪いと私は確信した。
「ありがとう、少しいただこうかな」
男の人は口の端で少しだけ笑って私のスポーツドリンクを口にした。
「・・・病院行きますか?」
私じゃ連れて行けないけど、管理局がある公園だからそこの人に手助けしてもらうよう頼みに行くくらいならできると思って聞いてみた。
「病気じゃないから、ちょっとね、両親が急に事故で亡くなったから」
視点の定まらない表情で男の人が言った。
「えっ、あっ・・・」
それは、辛いよなぁ、かける言葉が思いつかなくて黙っていたら今度は向こうが聞いてきた。
「君は?結構長く噴水見てたみたいだけど」
「あー、ママが赤ちゃん産んでるみたいなんだけど、病院とか分からなくて、誰とも連絡とれなくなっちゃたから、病院探そうかなとかってウロウロしてたら噴水見つけちゃって」
「それって・・・」
あっヤバ、育児放棄かなんかと勘違いされたかな。急に目に光が宿って、心配そうに私を見た。
「いや、お婆様がうちに来ることになってるから大丈夫なんですけど、えっと、家で待ってても良かったんだけど、その・・・落ち着かなくて」
『男の子はもたなかった・・・』菊乃様のあの言葉が引っかかって赤ちゃんに何かあったんじゃないかってずっと気になっていた。
「そう・・・」
男の人はまた元の表情に戻った。なんとなくその隣りに私も座って、またしばらく、でも今度は二人で噴水を見ていた。
「名前、何ていうんですか?」
会話がないのもなんだかなぁと思って不意に聞いて見た。
「・・・シン・・・」
「ふーん」嘘っぽいなと思ったけど気づかないふりをした。
「君は?」
「桃乃、桃の節句に生まれたから」
適当な偽名を思いつかなかったし、正直に答えた。
「ふーん」
さっきの私の言い方を真似してベンチに背中を預けながらシンが言った。辛いだろうにちょっと笑ってた。その顔が結構かっこいいなぁって思った。かなりやつれているけどね。元気なシンはかっこいいんじゃないかな?
つられて私も笑った。その時空を見上げたら黒い雲が近づいている感じがした。
「あっ」って思ううちに雨がポツポツ降りだして、その降りは段々強くなっていった。
私は一人で帰った方がいいのかシンと一緒に公園を出た方がいいのか一瞬迷った。
「うちへおいですぐ近くだから傘を貸すよ」
立ち上がったシンが私の腕を掴んで公園の出口へと誘った。