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第53話 命懸けの試練 3

えぇ~っ!?


弟って、確か高1って私の1コ下だって。

でも目の前にいる「慶悟くん」はどう見ても年上で・・・

老け顔?


「ところでアンタさぁ・・・」

「あれ~、桃乃と慶って知り合いだったっけ?」


慶悟くんが何か言いかけたとき祝さんの声が重なった。

「知らない。」

慶悟くんは一言そういうと足早にその場を去ってしまった。

「うわぁ~。感じ悪いなぁ。ごめんね桃乃、慶って今思春期で荒れててさぁ。」

今の態度と思春期はあまり関係ないような気がするし、祝さんもそれを分かってておっしゃっているような気がした。

「大丈夫です。先ほど忍さんからいつか祝さんを助けてくれるすごい方だって、伺いましたよ。」

「まぁねぇ。でもそれがアイツが本当にやりたいことなのかどうかは分かんないけどね。」

慶悟くんにも好きなことをやって欲しい。

しみじみとした語り方はお兄さんとして祝さんの優しさを感じる台詞だった。

祝さんて素敵なお兄さんなんだなって思って、弟のいる私も祝さんみたいに夏くんことを考えてあげられるようになりたいって思った。

「ところで桃乃に二つほど聞きたいことがあるんだけど。」

先ほどのふざけた様子が全くない声で祝さんはおっしゃった。

「はい。なんでしょうか?」

「まず一つ目。忍、なんか食ってる?」

「いえ、全然です。コーヒー飲んでるだけで何も召しあがってません。何か持って行った方がいいですよね?」

お昼が重かったというより明らかにここで食事をする気がないような感じがしてきたところだったから考えていることをそのまま祝さんに言ってみた。

「いや、無理はさせなくていいよ。」

静かな笑みを湛えておっしゃった。私は祝さんの意見に反論したくなったけど、それを言う前に祝さんは私に一歩歩み寄って、それは私の横に並んででも向きは私とは逆の、まるですれ違う一瞬を止めたような状態で静かに囁いた。

「二つ目、今日ここで紫に会った?」

心臓がキュっとなった。

「・・・いいえ・・・」

「そう、サンキュ」

祝さんの静かな囁きが聴こえたけど、祝さんがそのまま私のそばから離れて行った。

振り返ると来客の方に満面の笑みでごあいさつしている祝さんがいた。

きっとあの笑顔の下で高月先生を待っているのかと思うと切なくて胸が苦しくなった。

手紙のことを忍さんに相談しよう。

高月先生と連絡が取れるのなら連絡してもらおうと思って私は席に戻った。


席に向かうと忍さんが立っていて誰かに挨拶をしていた。

良く見ると

!!!!

亜紀枝様!!!!

今日もお上品かつ威厳という名のオーラをバリバリと放たれていて更に良く見ると亜紀枝様と並んで車いすに座る貴婦人が、年齢にしたらうちの菊乃様より少しお若い感じで、亜紀枝様同様に上品さを備えつつ柔らかで明るく華やかな雰囲気が漂っているお方だ。

しかし、一番の問題なのはその車いすを押している女性だ。

彼女を認識した瞬間私は全身が硬直し、そこから先忍さんの元へ進めなくなっていた。

何故ならその女性は、夏休みに忍さんと旅行したホテルで出会った。

「サオリ」さんだったから。

口紅の色は夏に会ったときより地味目なローズブラウン。

肩にかかっていた少し癖のある、でも柔らかさを損なわない髪は後ろで一つに結別れていて、服装も紺をベースにしたパンツスーツで、明らかに車いすの夫人の付き添いのためにここにいるということを示していた。

重い脚を一歩ずつ進めて忍さんのそばにたどり着くと忍さんが気がついてくれた。

「美味しいものは見つかりましたか?」

「ええ・・・亜紀枝様ご無沙汰しています。」

テーブルに持っていたお皿を置いて、それから亜紀枝様にご挨拶をした。

「こんばんは。先日はお遣いをありがとう。」

「いいえ、萩乃様・・・・祖母は大変喜んでおりました。」

「そお、なら良かったわ。萩乃さんのご負担にならないかと、そればかりが気になって随分と年月が経ってしまったのよ。」

「由香里様。こちらが津和蕗桃乃さんです。」

忍さんが私を車椅子のご婦人に紹介して下さった。

「まぁ。可愛らしいお嬢さんだこと。初めまして、座ったままでごめんなさいね。周防院由香里です。柏木に住んでいますのよ。お話は忍くんから聞いていてお会いできるのを楽しみにしていたの。」

お世辞ではなく心から喜んで下さっている笑顔だった。

「初めまして津和蕗桃乃です。私もお会いできて嬉しいです。」

視界に「サオリ」さんがいるので少し緊張した笑顔になってしまったけど、由香里様は気にする風でもなかった。

忍さんはどうなんだろうと思って忍さんをチラッと横目で見てみたけど私のことを見ていたらしく目が合ってしまった。

恥ずかしくて顔を背けたら今度はニコニコと私達を見ていたらしい由香里様と目が合ってしまった。

「本当に可愛らしいのね。ね、そう思わないサオリさん。」

由香里様が後ろにいるサオリさんに声をかけた。

「えぇ本当に賢そうなお嬢様で。」

どことなく彫刻を思わせる美し過ぎる笑みを見せてサオリさんが答えた。

夏に会ったことがあるということを言わない私に対して念を押しているような一言だった。

「そうだわ。彼女はね。今日私のために付き添ってくれる看護婦さんで真崎しんざき佐織さんとおっしゃるのよ。」

由香里様は後ろに控えていた「サオリ」さんを紹介して下さった。

忍さんが何か反応をされるかなと思っていたら、「えっ?」と驚いていたけど、その声は小さくて亜紀枝様も由香里様も気にされてはいなかった。

「初めまして。真崎佐織です。」

モデルかスチュワーデスでもしていたかのような背筋の綺麗なお辞儀を佐織さんはした。

「・・・初めまして、周防院忍です。彼女は」

「先ほど伺ってましてから大丈夫ですわ。」

彼女に合わせて初対面の挨拶を返した忍さんの言葉を佐織さんは遮った。

一体彼女はどういう人なんだろうとじっと見つめてしまったが、にっこりと笑顔を返されてしまい、何故か恥ずかしくなってしまった。


「亜紀枝様!!」

なんとなく会話が途切れたところで再び祝さんのお父さんが現れた。

「こちらにおいででしたか。ゆっくり出来るようにと思い別室を用意してありますので、そちらへ。」

流石の祝さんのお父さんも亜紀枝様達には頭が上がらないような態度だわ。

「祝さんにお祝いが言いたくて先にこちらに来ただけです。でもご挨拶に忙しいようですから・・・慎三郎さん伝言をお願い出来るかしら?」

「どのような?」

「お祝いに花を贈ります。とそれだけですわ。」

「花?」

祝さんのお父さんは亜紀枝様の言葉に首をひねっている風だった。

私も亜紀枝様のお人柄を考えるとなんとなくすっきりしない感じはしていた。

亜紀枝様達はそんな私達様子を気にする様子は全くなく。

「では参りましょうか。」

「えぇ、亜紀枝様。桃乃ちゃん。柏木にも遊びに来てね。」

「はい。」

「失礼致します。」

亜紀枝様を先頭に佐織さんが由香里様の車椅子を押して3人は会場を後にしました。




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