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第51話 命懸けの試練 1

ご無沙汰してます。

「うわぁ~!素敵です。」


忍さんのエスコートで訪れているのは祝様の社長就任の祝賀パーティーの会場。

忍さんと初めてお会いしたホテルのパーティールーム。

ものすごく広くて、たくさんの人が招かれている。

会場内の装飾は白と基調として豪華で、でも派手過ぎず上品に飾られた会場は別世界と言ってもおかしくないくらいたくさんの花が飾られている。


受付を済ませた後に会場係りの人に会場内の席に案内された。

「ビュッフェスタイルだから好きなのを取りに行ってくるといいですよ。係りの人に頼むこともできますが、桃乃ちゃんなら自分で見て選びたいんじゃないかな?」

もちろんです。

さすが忍様知り合って3ヶ月に満たないですが、私を理解されている。

「忍さんはどうしますか?」

「今日は昼食が重かったので少ししてからにします。ここで待ってますからいってらっしゃい。」

「はい。」

さすが、お上品な忍さんは夜のパーティーのために昼を抜くとかしないのね。

きっとデザートも美味しいものが出るだろうと期待している私はおやつ抜きで来たのに。


飲み物を持って席を周っている係りの人にコーヒーを頼む忍さんに「行ってきます。」と告げて私はビュッフェコーナーへ行った。


食べきれないのではというくらいのたくさんのお料理が用意されている。

端から順に回って行くとちゃんと前菜、魚、肉のメインとなっているみたいだけど、前菜だけでもお腹いっぱいになってしまうのではないかと心配になるくらいの種類があって、とりあえずどれから自分のお皿に盛って行こうか真剣に悩んでしまった。


「社長就任」というだけあって周りは大人のお客様ばかりだった。

男性は明らかにオーダーメイドだと思われるようなスーツ姿の方ばかりで、女性もエレガントな装いの方ばかりだ。

自分で盛りつけたお皿を持って、少しだけ肩を落とした。

だって・・・


祝様のパーティーに行くに当たって忍さんから条件を2つ出された。

その一つ目が「制服で行くこと」だった。

忍さん曰くパーティーではお酒も振舞われるから間違いがあってはいけないということで、立花の制服でいれば未成年であることを明らかにしたいということだった。

確かに今会場にいる女性達のように気飾ったりしたら「若く見える成人女性」と勘違いされるかもしれないと思えなくもないけど、やっぱり制服ではなく手持ちの服の中でも可愛くておしゃれなもので行きたかったと思ってしまった。

だって立花の制服って地味な茶系で、「立花ブラウン」て呼ばれるくらい一部では人気もあるらしいけどこの場所ではやっぱり地味な存在だわ。


それからもう一つの条件は「8時には会場を出て帰宅する。」ことだった。

今日車で迎えに来て下さった忍さんは事前に私には言っていたけど、出発の際改めてママに「9時頃には送り届けます。」と言っていた。

確かにパーティー会場を8時に出れば、万が一道路が混んでいたとしても9時前には家は着くはずだから。

忍さんて、真面目な方よね。

改めて実感したわ。

夏休みに一緒に旅行なんてしてしまったし、その時同じ部屋にだったし、「夜の帝王」のこともあるから実感なかったけど、あの同室はかなり不本意だったんだろうなぁ。

「帝王」のこともいずれはきちんと話しをするとおっしゃっていたし、真面目だわ。


忍さんのいるテーブルに戻ると祝様がいらした。

この前お会いした時より少し痩せたような気がしたけど、光沢のあるスーツ姿に以前とお変わりない柔らかな表情にホッとした。

「祝様、おめでとうございます。それからお招きありがとうございます。」

「桃乃・・・なんで、制服?」

「立花の制服は礼服でもあるし、問題ないだろ。」

「いや、問題はないけどさ。忍が指示したの?」

「彼女は未成年なんだ。それが見知らぬ人にも分かるようにしてもらっただけです。」

「まぁ確かにね。アッキーが見たらえらく感心して褒めちぎりそうだけど、桃乃はそれで良かったの?」

来てみてちょっと後悔はあったけど、忍さんの考えも事前に理解できていたから、すぐにでも「大丈夫。」と言うべきだったのかもしれない。

だけど、祝様の雰囲気は私が今「ちょっとだけども可愛くして来たかった」という気持ちを悟られているような気がして言葉に詰まってしまった。

忍さんが持っていたコーヒーカップを置く「カチャリ」という音が聞こえるくらい3人の中に沈黙が一瞬生まれた。


「祝。ミツワ電機の社長が挨拶がしたいと言っているぞ。」

低くて、でも良く響く威厳のある男性の声がした。

忍さんが顔をあげて席を立った。

振り返るとロマンスグレーとワイルドさを上品にブレンドされたような掘りの深い「オジサマ」と亜紀枝様のような雰囲気に忍さんの掛けている眼鏡と似たシルバーフレームの眼鏡をかけた婦人がこちらに歩み寄ってきている。


「あっ、俺もあそこのオーディオが欲しいんだよね。社長割引とかないか聞かないと。忍もミツワ製品で欲しいのある?」

忍さんにしなだれかかるように祝様がおっしゃったけど、忍さんは何も答えなかった。

「祝、早く行け。」

「分かったよ。親父、忍のこといじめちゃダメだよ。それじゃね、桃乃、今度から『様』はいらないからな。」

祝様を急かすロマンスグレーのオジサマ、祝様のお父様なのね、彼におどけた仕草さで告げて祝様は別テーブルへと行ってしまわれた。


「ご無沙汰してます。」

忍さんが静かに頭を下げて挨拶されたので、それに続くように祝様のお父様達に挨拶をした。

「初めまして、お招きありがとうございます。津和蕗桃乃です。」

「津和蕗・・・新栄重機の津和蕗常務のお嬢さんかね?」

「えっ?・・・あの、確かに父の勤め先は新栄重機の開発部ですが、すみません、役職までは・・・」

「父親の役職を知らないとは・・・」

この言葉には明らかに侮蔑の意味があった。

パパは私や夏くんにどんな仕事をしているのかはきちんと説明してくれるけど、どんな役職に就いているかは一度も話してくれたことはなかった。

パパにちゃんと聞いておいた方が良かったと思った時、忍さんがさっきの挨拶より強い言葉を発した。

「叔父さん。桃乃ちゃんの家庭は親の地位や実績が子供のものでもあるような教育はしていないんです。」

慎三郎しんざぶろうさん、桃乃さんは亜紀枝様の同窓生のお孫さんなのよ。初めまして祝の母のめぐみです。忍の父親の妹にあたります。」

きりっとした感じはさすがに亜紀枝様のお孫さんという感じだったけど、最後に見せて下さった笑顔の柔らかさは祝さんそっくりだった。

「忍くんもいけないのよ。お医者さんになりたいとか後継ぎたくないとかで夜遊びして、そのくせ今度は手の平を返したかのように亜紀枝様の言うままにお見合いなんかするから。偶然かもしれないけど、慎三郎さんの実家のライバル会社の重役のお嬢さんとくれば、この人みたいな人はヘンに勘ぐってしまうのよ。」

「お前は知っていたんだろう。」

「・・・釣書きに書いてありましたから、でもそれが彼女との話しを進めている理由ではないです。」

どうやら、祝さんのお父様と忍さんはあまり仲が宜しくないようで、忍さんが私の釣書きを見て叔父様への当てつけにお見合いを進めていると思われてしまったみたい。

というか祝さんのお父さんは婿養子に入られているのかしら?

だって祝さんの名字って「周防院」だったし、まぁ今の雰囲気からするとすぐに結論を出す必要はないかな。


「とにかく、周防院の後は祝に継がせるからな。お前の出番はないぞ。」

「そんなことは分かってます。いずれ「慶」が成人すれば祝を立派にフォローできるでしょうし」

「・・・そういうことだ。」

「それに今日のパーティーには祝の縁談も兼ねているんだ。」

えっ!?

忍さんも驚いたらしく

「菱川銀行の頭取のお嬢さんだ。美大時代からの祝のファンだったらしく、向こうから話しを持ってきていてな。」

「叔父さん、でも祝は後を継ぐ条件にむらさきと結婚したいって・・・」

「たかがきもの屋の娘じゃ、祝の力にはなれん。とにかくこれからもお前は周防院の後継ぎに関しては口出しをするな。」

そう言い切ると慎三郎叔父様は別のテーブルに向かわれてしまった。

「紫ちゃんとは連絡がつかないみたいなのよ。立花で先生をしているのは分かっているんだけどね。」

ちらりと私を見て恵叔母様が忍さんに囁いた。

そして慎三郎叔父様の後について行かれた。







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