第47話 眠りから覚める書簡 1
新学期が始まって1週間が過ぎました。
金曜日の昼休み、教室の窓から校庭を眺めていると高月先生が他の生徒達と円陣バレーボールをしている姿が見えまます。
何か会話をしながらなさっているようで、時折高月先生は笑っていらっしゃいます。
図書室で見せられた青ざめた表情、それが原因となる憂い事なんかまるでなかったかのようです。
あの日、祝様に電話をした夜、忍さんとも電話でお話をしました。祝様の手紙のことを話そうとしたとき、祝様から「誰にも内緒で」と言われていたことを思い出し、結局、新学期の学校の様子を話す程度に留まってしまいました。
あの手紙にはどんなことが書かれていたのかは分かりません。
今、高月先生が笑顔を見せてくれているということは、もう大丈夫だということなんでしょうか?
高月先生に直接聞いてみたい気もしますが、聞いてはいけないような気もして、毎日先生の姿を見かける度にその様子を観察してしまう毎日です。
「津和蕗、何見てんの?」
ぼんやりしている私に声をかけてきたのは三枝さんでした。
「・・・高月先生って綺麗だなぁって」
「そうだね。って津和蕗何か悩んでるの?」
「特には・・・あっ、進路がまだ決まってないことが悩みかなぁ」
「あれ?結婚は?」
「してもいいかなとは思ってますが、まずは大学受験が先なんで、その志望学部とか志望大学とかがまだ全然決まってないから・・・」
「雪姫の流れとはなんか違うんだね。」
「ん、忍さん、ておっしゃるんですが、忍さんから『諦めるな』って言われてて、そうなるとなんかこうバッチリきちんとした進路希望を考えなくてはと思うとそれが以外とプレッシャーというか、はぁぁ」
忍さんとのこれからのことも気になる。
高月先生と祝様のことも気になる。
でも、自分の進路が定かではないのには本当にため息が出てしまう。
「まぁ、自分が興味のあることから絞って行くしかないんじゃないかな」
「そうですね」
三枝さんはご自分の席に戻られて参考書を開かれた。
私はもう一度校庭を見た。一瞬高月先生と目が合ったような気がした。というより空を見上げた先生の表情があの悲しそうな表情だったので、祝様の手紙は高月先生を安心させるものではないのだと悟った。
放課後門を出たところで見知らぬ男の人と目が合った。
黒のスーツをバッチリ着こなしていてアタッシュケースを持っている。目は細めだけどハンサムさんだ。年齢的には忍さんや祝さんよりはずっと年上でパパよりは年下だろうなって感じ。サラリーマンというよりは弁護士さんとか何か個人でお仕事してそうな雰囲気の男性。
どうやら私に声をかけようとしているらしく、にっこりとほほ笑んでからこっちに近づいて来た。
「すみません。私渋沢直樹と申します。周防院亜紀枝の個人事務所で働いているものです。失礼ですが、津和蕗桃乃さんでよろしいですか?」
「は、はい。そ、です。」
差し出された名刺を受取りながらかつ舌悪く返事を返した。
亜紀枝様の個人事務所!?なんですかそれ?
状況が今一つ掴めないで自分が津和蕗桃乃だと認めた後、黙っていたらその男の人、渋沢さんがおっしゃった。
「お時間よろしいですか?」