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第46話 愛の書簡 11

今日は始業式だけだったので、ホームルームが終わると、私は鞄を持って図書館へ向かった。


図書室の入口には「本日は貸し出しはありません」と書かれた札が掛っていたけど、扉の鍵はかかっていなかった。入口の横に管理担当の教師の名前が書いてあった。


「高月紫 (たかつき ゆかり)」


よくよく考えれば祝様の言っていた「紫色のお姫様」ってのも高月先生を指しているはず。

高月先生は立花の卒業生だから、恐らく雪姫のようなあだ名がそんな感じだったのだろうと思う。忍さんが「ムラサキ」と呼んでいたのも高月先生のことに違いない。柏木の由香里様と区別するための愛称何だろうと考えた。


静かに少しだけ扉を開けると、中で書棚の整理らしき作業をしている高月先生がいた。

先生は長い黒髪を後ろで一つにまとめ、ピンクのサマーカーディガンに紺のマーメードラインのスカートを履いていた。ピンと伸びた背筋から腰までのカーブを描くラインが大人の女性らしくて、でも清楚なイメージが損なわれていなくて見惚れてしまった。


それと同時に預かった手紙がラブレターだと気づいた。だって、あの和紙の封筒の雰囲気が先生にすごく似合っている気がして、当然だけど先生のためだけの手紙なんだろうなって、そう思うと心臓がどきんとして体中が熱くなった。


「失礼します。」


更に扉を開けて私は先生に声をかけた。


「あっ、今日は貸し出しはできないのよ」


高月先生は顔だけ扉の方へ向けておっしゃった。


「本が借りにきたのではないんです。私2年楓の組の津和蕗桃乃といいます。」


先生には授業を習っていないので、自己紹介をした。


「津和蕗さん?」


扉を閉めて先生の方へ歩み寄った。先生作業が途中の本を近くの机に置いてきちんと私の方を向いて下さった。

先生の前に立ったところで鞄の中から祝様から預かった手紙を取りだした。


「先生にお手紙を届けるように頼まれまして・・・」


「手紙?」


先生が本を置いた机に私は鞄を置き、手紙を両手で持って先生に差し出した。


「鷹野宮の祝様からです。」


「あっ!」


先生はものすごく驚いた表情になった。色白の肌が真っ青になって行く感じで、どうしようって思って私の表情が困惑していることに気がついてくれて「あ、ありがとう」とおっしゃりながら手紙を受け取ってくれた。


「祝に、会ったの?」


「はい、先日朱雀院で、その時初対面だったんですが、頼まれてしまって」


「仕方のないひと・・・」手紙を見つめて先生が少しだけ笑った。


「あっ、そっか津和蕗さんて忍くんとお見合いしたのよね。」


「はい」


それ以上は先生は何もおっしゃらなくて、沈黙が少し続いたところで私は祝様から伝言も頼まれていたことを思い出した。


「先生・・・伝言もあるんですけど『命をかけて』・・・!」


祝様の伝言を言ったところで気づいてしまった。


この恋は禁じられている・・・・


見ると先生はさっきよりももっと驚いた表情になっていて、それでも私を気遣うように「大丈夫だから、ありがとう」とおっしゃってくれた。


どうしていいのか分からなくなってしまったけど、もうそばにはいない方がいいのかと思い私は図書室を後にした。


昇降口のところで靴を履き替えていたら、涙が出てきた。


忍さんの声が聞きたくなった。忍さんはお二人をご存じだから、「あの二人は大丈夫だよ」って言って欲しかった。禁じられた恋とかじゃなくて、ただケンカか何かをしていて気まずいだけだよって忍さんに言って欲しかった。


校門を出たところで鞄から携帯を出した。そうだ。祝様にも連絡をしなくては。私は生徒手帳に挟んでおいた祝様からもらったメモを開いて電話をかけた。すぐに電話は繋がった。


「もしもし、私津和蕗桃乃と申します。」


「あっ、桃乃!元気?」


この前会った時と同じ陽気な声が聞こえた。


「は、はい、元気です。この前頼まれた手紙、高月先生に渡してきました。」


「・・・・・」


「祝様?」


私の報告を聞いた祝様が電話の向こうで表情を変えたように思った。


「祝でいいよ。ありがとう」


その言い方はさっきとはまるで違う話し方で、あの手紙どんなことが書かれているかは想像できないけど、祝様と高月先生の恋が許されていないものだとうことが痛いほど感じ取られた。



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