第44話 愛の書簡 9
新学期が始まった。
夏休みの最後の日、少し遅れた夏くんの誕生パーティーを我が家で開きました。ママがケーキを焼いてくれて、夏くんの幼稚園のお友達がたくさん遊びに来てくれたの。
小さい子達とはしゃいで遊ぶのは意外にも楽しかった。なんだか保母さんにでもなった気分だったわ。
忍様-------違った。忍さんもお誘いしたんだけど、大学がお忙しいようで予定が合わずパーティーは欠席、まぁ小さな幼稚園児達がメインの集まりだったから、返ってお気を遣わせてしまったからも知れないわ。
私との予定がなかなか合わず、最近はたまに電話で話したり、後はメールのやり取りがほとんどだった。
それでもそのやり取りがなんだか「恋人同士」って感じで(そう言ってもいいわよね。)とっても心地良くって、忍さんにお会いできないのも寂しい気持ちはあるものの、短い時間でも手が空いたからと連絡を頂けるのはとっても嬉しかったわ。
約1ヶ月ぶりの教室はやはり1学期と変わらずの雰囲気で、進学クラスである私のクラスメート達は今日は始業式だけにもかかわらず、先生がまだいらっしゃらない時間を参考書を開いたり単語帳を見たりして過ごしている。
私も忍さんに紹介してもらった英語の参考書を読んでいようと鞄に手をかけた時だった。
「楓の組の皆様、おはようございます。」
生徒会長で縁故クラス----桜の組の雪姫こと北白川深雪さんが登場した。
よく通る涼やかな声で一瞬全員が自習の手を止めて雪姫を見た。
が、さすが進学組次の瞬間には各自自習を再開していた。
その数秒間、雪姫のキラキラした瞳が私に真っ直ぐに向けられていて、その視線を目が合ってしまった私は自習をするタイミングを失ってしまった。
「桃乃さん、おはようございます。夏休みはいかがお過ごしでしたか?」
私に声をかける時も続いたキラキラの視線が、「お見合いの件、伺いましたわ。」と如実に語っている。
「雪姫の方こそ、婚約者の東條様に久々にお会いできるっておっしゃっていたけど、どうでしたか?」
雪姫は私の席の方へ歩み寄りながら「はい、色々なところへ連れて行って頂きましたわ。」とそれはそれは嬉しそうな笑顔を見せてくれた。
雪姫と婚約者の東條様は雪姫が生まれた時からの許婚で、2年生になる春休みに結納を交わしている。二人の縁談は政略結婚的要素が強いけど、幸いにも雪姫は東條様が大好きで、東條様の方も雪姫からの話では雪姫を大切にしてくれているようで、二人のお話を聞くとこちらも嬉しい気分になる。
うっとりと夏休みの楽しい思い出に浸っていた雪姫がハッとして私の方を覗き込むような表情になった。
「そんなことよりも、桃乃さんのことです。朱雀の忍様とお見合いをされたとかで・・・」
えっ!?
って自習をしているはずのクラスメート達が一斉に私を見た。