第40話 愛の書簡 5
「桃乃ちゃんお待たせしま・・祝・・・・」
ポケットから手を出したところで忍様が戻っていらして、祝様に気がついた。
「よお、忍、生きてたか?」
「お前いつ帰国したんだ?それにやせて・・・」
忍様は驚いたようなそして心の底から心配しているという表情をしている。
「だってさぁ、空港で留学前の知り合いに久しぶりに会ったら『太ったわね』って言われちゃってさぁ。悔しいから言われたからその日から毎日昼しか食べていない。あっ日本に帰ってきたのは2週間くらい前かな~」
「何やっているんだ、ちゃんと食えよ。」
そう言ったところで忍様は私と祝様が座っている間をじっと睨んだ。
「・・・ところでお前なんでそこに座っている。」
「水嶋から忍が来てるって聞いたから、どこにいるのかな~って探していていたら、ここで桃乃が一人で寂しそうに座ってて、一緒にお茶しようかなって思ったところ・・・・まさか・・・忍?・・・この子に・・・・」
祝様は私と忍様を交互に見ながら段々表情を曇らせて、言葉も濁していって
「また、昔の悪い癖が出たのかぁ」
落胆するように言った。
「立花はマズイだろう。誇り高き亜紀枝様の愛する母校だぞ。どうすんだよ。」
聞いている忍様の方が苦虫を噛み潰したような表情になった。
「違う!彼女は先月僕とお見合いして、今は結婚を前提に交際している最中の女性だ。亜紀枝様のご学友の曾孫に当たる子だ。お前が想像しているようなことは一切ない!」
「ふーん」
祝様は今度は私の方をじっと見た。
「忍に運命感じちゃったの?年が近い俺にしておけば?同じ周防院だよ。」
「えっ、いやっ、だって・・・」
返事に困っていたら背後に回った忍様が後ろから私の両肩を掴んで祝様に噛みつくように言った。
「お前の入る余地はない!!」
「そうなの、桃乃?」
祝様がさらに強い視線を私に向けた。なんだか心の中を探られるような視線だった。
「えっとぉ・・・忍様が、いいです。」
祝様がニヤリと笑った。
私は恥ずかしくて顔から火が出そうなくらい熱くなって俯いた。
「じゃあさぁ。忍と一緒においでよ。」
祝様は鞄の中から今度は白い封筒を取りだした。
さっきの封筒とは真逆にいかにも既製品という感じのさらりとした手触りのものだった。
祝様は私に渡したけど、表には「周防院忍様」と書かれている。
「何これ?」
後ろから覗き込んでいる忍様が聞いてきた。
「俺の副社長就任のパーティの招待状。大学もまだ卒業してないってのに副社長ってなんだよって感じだよなぁ。さっき亜紀枝様にも渡してきた。忍と桃乃で一緒においでよ。」
なんだか半分独り言のように祝様は話している。
「考えておく」
忍様は一言だけ言って招待状を私の手からさりげなく抜き取った。それからじっと祝様を見ている。
祝様は忍様に見られていることなんか気にしてませんという風に鞄を閉めて立ち上がった。
「じゃあな」
「祝、とにかくちゃんと食えよ」
祝様はフッと寂しそうに笑って部屋を出て行かれた。