第39話 愛の書簡 4
柏木にお住まいの「由香里様」は亜紀枝様のいとこの息子さんに嫁いできた方で、数年前に大きな病気で手術をされて、今は自宅療養中とのこと。
人がたくさん集まる賑やかな雰囲気のお好きな明るくて華やかなお方だそうで、忍様は亜紀枝様と同じように実のおばあ様として慕われているとのこと、だからご帰省される度に柏木をご訪問されていると、水嶋さんが教えてくれた。
水嶋さんもお仕事があるので私は広い部屋に一人残されてしまった。
美味しいお菓子と香り豊かな紅茶を満喫していると、再び部屋の扉が開いた。
忍様が出掛けてからは10分と経っていないので、誰が来たのだろうと思って扉の方を見た。
忍様と同年代くらいで青年実業家風の仕立ての良いスーツを着た男の人が立っていた。
「おっ、立花♪」
男の人は嬉しそうに言った。唐突な言い方で驚いていたら、癖のある茶色の髪に人懐っこそうな笑みを浮かべて「俺ってラッキー」と呟きながら男の人は私の方へ歩み寄ってきた。
「ねぇ、お願いがあるんだけど」
先ほど忍様が座っていた位置よりも私に近い場所に座った男の人はスーツの内側にあるポケットから薄紫色の封筒を出してきた。
「この手紙を立花の『紫色のお姫様』に、誰にも内緒で渡して欲しいんだけど」
「??」
有無を言わさず渡された封筒は紫色の濃淡の和紙で出来ていて、どっしりした手触りと独特風合いを持ったもので、表面には「紫様」と書かれていた。そして何枚便せんが入っているんだろうと思うほど分厚かった。
「あと出来るだけ早くね。あっ、それ渡す時は『命をかけて』ってことづけてね。」
いや、まだお引き受けするとは言ってないんですが、それに貴方は誰ですか?
そう言いたいのに男の人は自分のペースは崩さずに鞄の中からペンとメモ用紙を出して何やら書きだした。
書き終わるとメモ用紙を1枚剥がして
「で、ことが首尾よく運んだらここに連絡くれる?」
!!!
差し出されたメモ用紙を見て驚いた。
5年前シンが連絡先を書いてくれたのと同じ信用金庫のメモ用紙だった。
「この信用金庫・・・」
「周防院の個人資産て結構ここに預けているんだよ。あっ、ところで君だあれ?」
用事を頼んだ後に聞いてきますか?
なんだか突っ込みどころ満載な人だなぁ。
「津和蕗桃乃と申します。」
「あっ俺はシュウ、周防院祝っていうの、よろしくね桃乃!」
この人が祝様かぁ。
「宜しくお願いします。」
「うん!さっきのお使いも頼んだよ。なるべく早くね。それと朱雀の人にそれ見られると困るからもうしまっちゃって」
あっ、これやっぱり引き受けちゃったことになるんだ。
いい人そうだけどこの件に関してだけは納得が出来ないが、立花は女子校、関係のない男性は立ち入ることが出来ない。
手紙の内容が問題無いものなのかは気になるけど、祝様の雰囲気からすると大丈夫ではないかと判断して私は手紙とメモをポケットにしまった。
そして意外にもスカートのポケットが深いことを知った。