第34話 さよならシン 9
電話が鳴ってる・・・
そう思って目が覚めた。
忍様はいないのだろうか?音が止まない。
様子を見るためにベッドから起きてリビングへ行ったら、ほぼ同時に着信音は止んだ。
「ただいま出掛けております。ピーという発信音の後にお名前メッセージをお願いします。」
そんな機械の声が聞こえてきた後すぐに「ピー」と鳴った。
「夜分遅くにすみません。サカネゼミのサイトウです。来週のサカネ教授の特別講義が2時からに変更になったので、お電話しました・・・・」
・・・妙な間だ。普通「ガチャ」とか「ツー」って音がするはずだけど、向こうはまだ電話を切っていなかったようで再び声が聞こえた。
「あとぉ良かったら特別講義の前にランチでもしませんか?・・・また連絡しますね。」
あぁそうか・・・
ここも私が来るべきところではなかったのだと悟った。
すぐに帰ろうと思ったけど、忍様のシャツを羽織っているだけなので、ママに連絡して、驚くだろうけど迎えに来るときに着替えを持って来てもらおうと思った。
「桃乃ちゃん」
ぼんやりリビングに立っていたら忍様がどこからか戻って来たようだった。目が合った瞬間不自然に俯いてしまった。
「あのぉ、電話、貸して下さい。ママに着替えを持ってきてもらいたいんで」
「百合乃さんには今日はここで預かりますって連絡してあるからゆっくり休んでくれていいんだよ。」
忍様は私の顔を覗き込むように言った。
どうして?どうしてこの人は私の優しくするの??
私は俯いたままシャツを握りしめていた。
「ほっといて下さい・・・確かにさっきは怖かったけど、何もなかったし・・・私のことなんてどうでもいいじゃないですか!!」
「どうでもよくなんかないですよ!」
忍様の声が怒りを含んでいるように荒々しかったので、思わず顔を上げてしまった。
忍様の表情は本当に苦しそうで、まるで私のことが心配で堪らないみたいに見えた。
そうじゃないくせに・・・・
「どうして私のこと構うんですか?」
睨みつけるように半分は涙目で忍様に問いかけた。忍様はためらうことなく即答した。
「好きだからに決まっているでしょ!」
「そんなの嘘じゃないですか」
「どうして嘘だと思うんですか?」
「・・・んですか・・・『夜の帝王』ってなんですか?」
「それっ・・・」
「私との結婚なんて、本当は自由でいるための、亜紀枝様への目くらましとかじゃないんですか?」
忍様が初めて動揺した表情を見せた。
「だから、好きじゃないから、私と旅行に行った時、指一本触れなかったんじゃないですか?」
これじゃああの旅行の時に何か起きて欲しかったと言っているようだ。でも自分の意志とは関係ないところでポロポロと涙がこぼれていた。
忍様は黙ったままだった。私を言い含めるために言いわけを考えているのかと思ったけど、感情が全く読めない表情をしていて、どうしてか忍様も苦しんでいるように見えた。
「僕のこと、この前待ち合わせした時にでも聞いたんですか?」
忍様が静かに問いかけてきた。私は黙ったまま頷いた。
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2012.02.20誤字訂正