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第33話 さよならシン 8

体に細かな振動が来る。


遠くで救急車のサイレンの音がする。


あっ私が救急車に乗ってる?


体を少しずらしたら忍様の声がした。


「事故があったみたいで進まないんだ。もう少し休んでなさい。」


忍様は私の瞼を覆うようにそっと手のひらを乗せた。


暖かかった。


私はそのまま目を閉じた。





・・・・通りの向こうに誰かいる。


誰だろう?


目を凝らして見るとシンだった。


あぁシンが私を家に送ってくれたところなんだ。


でもシンはあの時みたいに手を振ってくれない。


私は「ありがとう」って言いたいのに、タイミングが掴めない。


シンは困ったような寂しいような表情かおして私を見ている。


「どうしたの?」そう聞きたいのに声が出ない。


「ねぇシンどうしたの?」心の中で叫んでみる。何度も何度も叫んでいるけど声にならないから涙が出てきた。


涙がこめかみに触れたと思ったら突然自分の体が急降下して行く。


この前忍様と行った遊園地の乗り物に私は乗っていた。


乗り物は減速することなくどんどん下へ落ちて行く。


このまま落ちたらどこへ行くんだろう。


そう思った私は周りの景色を確認しようと目を見開いた―――――――――






目を開けたら、乗り物には乗っていなかった。夢だったらしく、どうやらどこかに寝かされているらしい。


病院?と思ったけど首だけ動かして周りを見たら誰かの部屋のようだった。


開かれたドアの向こうから人の話し声が聞こえる。


忍様の声だ。


「・・・すみません。僕の気持ちも落ち着けたいんです。」


誰かに懇願しているようだ。


あぁそうかここは忍様のマンションだ。どうして寝ているのかは分からないけど、家に帰らなくてはと思いベッドから体を起こした。


!!!!!


タオルケットをどけた私の体はブラとショーツだけだった。脚や腕には擦り傷がいっぱいあって薄く痣も出来ている箇所もある。


「なに・・・これ・・・」


急に寒気がして自分の体を抱きしめた。


「あっ起きたみたいです。では申し訳ないですが今晩は預からせてもらいます。」


忍様が電話を終えたようだった。


自分に何が起きているのか理解できない。忍様がこっちに来るようだったのでどけてあったタオルケットを自分の胸に引き寄せ、下着姿を見られないようにした。


それと同時に水色の布のようなものを持って忍様が部屋に入ってきた。


「気分はどう?頭が痛かったりはしない?」


私は黙って首を横に振った。


忍様は手に持っていた水色の布を私に掛けた。忍様のシャツだった。私がシャツに袖を通していると忍様が再び声をかけてきた。


「あのね、制服は泥だらけだったから今下のクリーニング店に出しているとろこです。」


あっ、そっか。私プールの帰りに襲われて・・・・


「傷は一応消毒だけはしてありますが、どこか痛いところがあったり気分が悪かったりしたら言って下さい。」


忍様が助けに来てくれて・・・


どうして忍様はあそこに来たんだろう??


「制服、脱がしちゃったけど、桃乃ちゃんの名誉に関わるようなことは何一つしていないから安心して下さい。」


そう言われた瞬間、反射的に忍様を見てしまった。


忍様はどことなく疲れたような困ったような表情だった。


それでも優しく私に笑いかけてくれて


「どうして連絡くれなかったのかは今は聞きませんけどね。それよりもう少し休んでおきなさい。」


そう言って私を寝かした。タオルケットをかけなおしたときに手を握ってくれた。頭の中はぐちゃぐちゃだけど心がホッとして行くのが分かった。


「あれって、『おいた』になるのかなぁ」


天井をぼんやり見上げながら呟いた。


「違うでしょ。あぁいうのは『おいた』なんて言いません。あれは『暴力』ですよ。」


感情を押し殺したように忍様が答えてくれた。


私は首だけを忍様の方に向けた。忍様の目は潤んでいるような気がした。


「ここにいるから、目をつむって・・・」


私は忍様の言われた通り目を閉じた。






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