第32話 さよならシン 7
ストーリー上残酷と思われる描写があります。
苦手な方はご注意願います。
「放して下さいっ」
男は聞く耳など持たず私の腕を引っ張って駐車場奥の暗がりへと進んで行く。
駐車場の奥には樹木が植えてあってその奥は真っ暗で何も見えない。男はその中へ乱暴に私を投げ飛ばした。
昨日の雨でぬかるんでいて足元の踏ん張りがききにくく、私は投げ出された勢いのまま尻もちをついた。
助けを呼びたいのに声が出ない。そのことが自分の中にある恐怖心を増幅させていた。
「立花の子と仲良くなれて嬉しいよ。」
そう言いながら男が覆い被さってきた。手足をバタつかせて必死に抵抗していたら「バシッ」と右手が平手打ちするように男の頬を叩いた。
「なにしやがる!」
バシッ。
逆切れし態度を豹変させた男に殴り返された。しかも向こうの方が力があるから頭がクラクラする。
一瞬動きが止まった隙に男がの私の両腕を片手で掴んで組み敷いた。
「いやっ、う゛っ」
叫んだ瞬間男が口の中に布か何かを突っ込んできた。
足をバタつかせて出来る限りの抵抗を試みたが逆にスカートの中へ手を入れさせてしまった。
もうダメなんだっ思うと涙が溢れ出てくる。
「桃乃!」
ガザッという植え込みを入ってくる音と一緒に声がした。
シンの声だ!
「貴様っ!」
シンのそう言う声が聞こえると私の上にいた男が剥がされた。
力が入らず起き上がれない私の耳にバシッとかガツッとか殴ってるような音が聞こえてきた。
ガサガサっと植え込みを出て行く音がするとぐいっと私の体引き起こされしっかりと抱きしめられた。
「ゲホッ・・ゲホッ」
苦しくて男に入れられた布を吐き出した。
そのとき私を抱きしめて入る人の腕が緩んだ。
駐車場を照らす街灯が薄明かりでその人の顔を照らした。
私を抱きしめていたのは忍様だった。
その顔は絶望に満ちていて多分青ざめているに違いない。
「あのう・・・」
泥だらけで見た目が凄いことになっているけど、一応無事なことを伝えようとしてみた。
「もう、いいから」
泣いてるような絞りだすような声で忍様は私を再び抱き寄せて背中をさすりながら言うと、そのまま私を担ぎ上げた。
こういうときってお姫様抱っこじゃないのかな?と頭の隅にいる冷静な自分が思った。良く見ると忍様はもう片方の手に私の鞄を持っていた。
忍様は私を駐車場に停めてあった忍様の赤い車へ連れて行った。
シートに泥がつくのが気になったのに、忍様は有無を言わさず私を助手席に座らせてしまい、大学で使っているであろう白衣をかけてくれた。
忍様は何も言わない。ただ私をじっと見つめている。
その視線から逃れたいのに逃れることが出来ない私の目からは涙がどんどん溢れてきた。
最後にはうわ~んと大きな声で泣き叫んでいた。夏くんじゃあるまいし何やっているんだろうと思っているのに涙は一向に止まる気配を見せない。
忍様は優しく労るように頬を撫でて涙を拭いてくれた。
その甲斐あってか、少し落ち着き始めた私に忍様が言った。
「帰りましょう」
私は涙をぬぐいながら頷いた。
車が静かに発信した。
窓の景色を見ながら私は眠りに落ちた。