第31話 さよならシン 6
翌日は台風一過でものすごい晴れた。一瞬シンと出会って送ってもらった日のことを思い出した。
夏くんの誕生日が近いせいもあったのだろう。
ママ達には宿題は終わったとは言わずにいたけど、まだ終わっていないと言い切るとあまりに捗りが悪いようにも見えそうだったので、お昼を食べた後、生徒会の用事を手伝いに行くと嘘をついた。
今年の生徒会長は「雪姫」という愛称でみんなから慕われている人物で、彼女は縁故組みにも関わらず「進学組みとも親睦を深めたい」と言ってはお茶会などを開いてくれていた。その流れで1学期の終わり頃には生徒会の手伝いをするくらい雪姫と個人的に親しくなっていた。
そのことをママ達は知っていたので、「雪姫が手伝いって欲しいと言っている」と言うだけであっさりと出掛けることが出来た。一瞬「雪姫」の名前を出したのはまずかったかなと思ったけど、言ってしまったことは取り返しがつかないし、帰宅が遅くならないように注意することにした。
ただし立花の制服を着ての外出となってしまった。
制服を着た自分の姿を鏡で見て、この格好で繁華街をウロウロするとやはり「立花の生徒」として目立ってしまうからどこかで着替えた方がいいかなとか色々考えた挙句、プールに泳ぎに行けば水着に着替えるから目立つ心配がないことに気付いた。
学生鞄に水着とタオルも加えて私は外出し、そして最近行っていなかったあの公共のスポーツセンターへ向かった。
夏休みのプールはそれなりに混んでいた。忍様と行ったスポーツクラブとは違い、夏休み中に泳ぎを上達させようと頑張っている小学生なんかもいた。
私はとにかく泳いだ。スポーツクラブに行ったときは一旦プールサイドに上がって他の人の泳ぎを見たりもしていたが、泳ぎに行くのも久々ということもあり、ひたすら何往復もできるコースの方を選んだ。
遠泳といってもおかしくないくらいに泳いだ。
プールの規則となっている休憩以外はずっと泳いでいた感じだ。
気がつけば日が落ちている。
家でお昼を食べて夏くんがお昼寝するまでは家にいて、プールに着いたのは3時前くらい。
プールの時計は7時を過ぎていた。
2時間の利用時間なんかとっくに過ぎているし、きっとママ達が心配しているはずだ。
私は急いで更衣室に戻った。
泳ぎ過ぎてしまったようで、ドライヤーを持つ手がしんどいくらい体が重くだるかった。
ここでママ達に連絡するれば「今から迎えに行く」と言われたときに困るから、辻褄の合う場所までは連絡しないことにした。
多分携帯に連絡が何度も入っているだろうと思うと携帯を見る気にもならなかった。
更衣室をでたところで超過利用の料金を払った。
着替えに相当時間がかかったようで外は真っ暗だった。スポーツセンターに着いたときは賑やかだったロビーも今は閑散としている。
今何時なんだろうとう思って時計を見ようと鞄の中に入れたままだった腕時計を探しているときだった。
「きみって立花の子だったんだね」
後ろを振り向くと知らない人が・・・
いや知ってる。以前にプールでしつこく話しかけてきた人だ。
「ねぇ向こうでおしゃべりしようよ。」
そう言って私の腕を掴もうと手を伸ばしてきた。
「いやっ」
腕を掴まれないようにと手を振り払った時、カタンと何かを落とした音がした。
余所見をしたら捕まると思い、それが何だったかは確認できなかった。
逃げなきゃ。
そう思って少しずつ後ずさりをして、その人の間隔を広げてから背中を向けて走り出そうとした。
「えっ!?」
グイッと体が後ろに引っ張られた。
鞄の持ち手のところを掴まれたのだ。
「ねぇ向こうに行こうよ。」
怖い・・・
鞄を手放して私は走り出した。でもプールで泳ぎ疲れて体力の限界だった私はすぐに追いつかれてしまい、あっけなく腕を掴まれてしまった。
萩乃様の声が遠くで聞こえた。
「その男について行ってはダメだよ・・・・・」