第22話 婚約者の条件 11
「百合乃さんには部屋は別々でと言いましたが、実は一緒の部屋なんです。」
ホテルの駐車場に車を停めたところで忍様がおっしゃった。
へ?
「桃乃ちゃんがあまりにも楽しみにしているようだったので、多少嘘を言っても決行した方がいいかなと思いまして」
確かに施設直結のホテルは取れなかったとは聞いていたから、このトップシーズンに良く宿の手配が出来たなぁとは思っていたんだよね。
なるほど~
「今から帰ろうと思えば車なんで帰れますが、どうしますか?」
どうしますかって言われても、このまま車で帰るには今朝も早かった忍様の負担が大き過ぎるし、「帰りたい」なんて言ったら忍様のことを信用してないみたいじゃない。
それに多少のことなら覚悟は出来て・・・
私は忍様のお顔を見てきっぱりと言った。
「忍様と一緒で大丈夫です。」
にっこりと
私達が通された部屋はシンプルな内装だったけど、窓も大きく予想より広々していた。
ツインのベッドも多分セミダブルなんじゃないかな。
ベッドを見てたらなんだか恥ずかしくなっちゃったけど、とりあえず旅の疲れを取るために大浴場に行かなくては・・・
でもね、また男女別々になるじゃない?で、部屋のカギは一つしかないからお風呂が済めば先に出てきた方が入口近くで待っているわけじゃない?これまでの経緯を考えると、忍様の方が先に出て待っていそうなんだよね。
そうするとまた見知らぬお姉さん達が忍様に声をかけて・・・
いやだ、そういうの見たくない。
だから私は一人ずつお風呂へ行くことを提案した。
「忍様先に入ってきて下さい。私お部屋で待ってますから」
「桃乃ちゃん?」
「えぇっと、お部屋のカギって一つしかないじゃないですか。だから行き違いになったりしたら困るし、だから、そのお」
しどろもどろの私を忍様が優しく見ていた。
「分かりました。僕が先に行ってもいいんですか?」
「はい、ここでテレビでも見て待ってます。」
忍様は「分かりました」と言って大浴場に行かれた。
私は結局テレビはつけないで、部屋の窓から外を見ていた。
ホテルの明かりが夜空の明るくしているけど、でも家で見る夜空よりは断然澄んでいてホテルのお庭とか散歩に行けば星もたくさん見えそうだった。
しばらくするとコンコンとドアをノックする音が聞こえた。忍様が戻って来たのだ。ドアを開けた時「ただいま」おっしゃっから「おかえりなさい」と言ったら妙に照れくさい感じがした。
忍様はホテルの浴衣を着ていて、でも手も足も長いから若干短めでそんなところがまたかっこ良かった。
「今日は朝も早かったからゆっくり温まっておいで」
お風呂の支度を持って部屋を出るとき忍様が声をかけて下さった。
一瞬不思議な感覚になったけど、「はい」と返事をして今度は私が大浴場へ行った。
大浴場には男女別だけどそれぞれに露天風呂がついていた。露天風呂は極力灯りが控えられていて、周囲は視界が遮られていたけど天井からとっても綺麗な星空が見えた。
家族で旅行と言えばいつも女4人プラス夏くんでお風呂に入るので会話が絶えない。
こんな風に旅先で一人でお風呂に入るなんて初めてだ。
だまったままの自分が不思議でならない。でもその分星空をゆっくり眺めることができた。
忍様もこの星空をご覧になったかしら?




