第15話 婚約者の条件 4
翌日「大学の用事に時間がかかりそうなので昼食は家で済ませて欲しい。」と午前中の早いうちに忍様から連絡があった。
午後には出掛けるということを夏くんに感づかれてしまったので、午後はすんなり出掛けられるように午前中は宿題もそこそこに夏くんにサービスしまくった。
何曲合奏したんだろう。腕がだるいわ。しかも夏くんかなり上達しているんで、合奏する曲も段々難しくなっているんだよね。こっちもそれなりに準備が必要になってきたわ。
でもたくさん合奏出来たおかげなのか夏くんはお昼を食べたらこてっとお昼寝しちゃった。音楽って動きが少ないように見えるけど、いい音出すにはそれなりに筋肉使うし、集中力もかなり必要だから、小さい子には結構な体力消耗になるのよね。
忍様が迎えに来て下さったときにはしっかり寝入っていたのですんなり出かけられた。
「迎えが遅れてしまったので、夕飯を済ませてから送り届けますね。」
昨日とは打って変わってカジュアルに現れた忍様。黒のポロシャツに黒のジーンズと上下真っ黒。でも雑誌にでも載っていそうなくらいかっこ良かった。
その姿にボーっとしているときに「夕飯~」という忍様の声が聞こえてきた。サクッとプールで泳いで帰ってくるくらいのつもりでいたからその発言にはびっくり。
未だ先日の「お付き合いの申し込み」正式な返事をしていないから、ママはどういう態度を取っていいのか分からないようだったが、「宜しくお願いします。」とだけ言って見送ってくれた。
忍様の度派手な赤い車で連れて行かれたのは、高級感漂うスポーツクラブ。なんとなく遊園地とかにある屋外プールとかを想定していのでまたびっくり。
いつも行く公営のプールとは受付の作りも違うわ。こっちはなんだかホテルのフロントみたい。
「ここの会員なんですか?」
「違いますよ。このスポーツクラブの親会社の株券持っているんですよ。その優待です。」
「はぁ」仕組みがよく分からないなぁって思っていたら、忍様が笑ってた。
「要は、年に2回くらいビジターで利用できる招待券をもらうんです。2回分あるから桃乃ちゃんと使えるでしょ」
なるほど!招待券。株とか優待とか良く分かんないからなぁ。
受付で対応してもらったけど、担当の女性が忍様にポーっとなっちゃって、多分それって聞く必要ないんじゃないのってことまで話しかけていたよ、好きな食べ物とか。それから私の方を見てにっこりと「妹さんですか?」って聞いてきた。
「いいえ、婚約者です。」
忍様も受け付けの女性に負けないくらいの満面の笑みで答えていた。受付の女性は一気に凍ってたわ。
一瞬にして空気が変わった頃受付の手続きも済んだので、早速施設内に入った。
「プール以外にも色々利用できますけど、どうしますか?」
「もちろん泳ぎます。」そのために来たんだから、一秒たりとも無駄にしてはいけない。
「では着替えたらプールで待ってますから」
私の言い方がおかしいのかクスクス笑いながら、忍様は男子更衣室へ消えて行った。
忍様って笑い上戸?
水着に着替えてプールに行くと忍様既に待っていてくれた。
う゛、眼鏡を外した忍様を初めて見たけど、やっぱシンに似ている。
正直いうともうシンがどんな顔をしていたか正確なところは定かではない。でも私の記憶に残るシンの顔立ちがどうにも忍様とシンクロするのだ。
準備体操にストレッチをして早速コースへ。忍様もご自身のペースで泳いでいらっしゃる。以前ちゃんと習っていたんだなと確信するくらい、フォームが綺麗でかっこいい。参考にさせてもらいます。
会員制のスポーツクラブってもっとお金を持っている人が遊び感覚で来ているのかと思ったら、以前通っていたプールより本格的な人が多くて忍様以外にも参考になるフォームの人がたくさんいた。公営プールの方はもっと気分だけでも健康指向って感じ。
「泳ぐのお好きなんですね」
お互いマイペースで楽しんでいたけど、途中10分ほど全員が休憩しなくてはいけない時間がある。水分補給していたら忍様が聞いてきた。
「すっごく、この前まで公営のスポーツセンタで泳いでいたんだけど、最近行けなかったから久しぶりに泳げて・・・あっ」
しまった!!
「あのっ、ずうずうしいお願いなんですが、公営のプールに行っていたこと萩乃様達には内緒にしてもらっていいですか?」
「いいですよ。じゃぁ、口止め料考えておきますね」
えっ?口止め料??取るの???
忍様はそれはそれは楽しそうに「何にしようかな~」とか言っている。
何にする気ですか?
そう聞こうと思ったら、休憩時間が終了した。忍様が何を考えているかは気になるがここは1本でも多く泳いだ方がいいと思ったので、また私はコースへ行った。