第12話 婚約者の条件 1
やっと戻ってきました。16歳の桃乃です。
あれ?昔のことなんか思い出してぼーっとしてたら車が高速?首都高?なんだろう、を走ってる。
「あのう、家と方向が違う気がするんですが?」
運転に差し支えないように気をつけて忍様に声をかけた。
「これからのこと話ししたいから」
えっ、どこで話しする気ですか?
車はしばらく走って一般道に降りた。それからまたしばらく走ったところのコインパーキングに停めた。
あの赤い車は相当目立つらしく降りるとき通りすがりの人達がが「どんなヤツが乗ってるんだ?」って感じでこちらを見てくるから困った。
住宅街へと入っていく忍様の後をついていった。「こっちだよ」とか言いながら気がつけば手をつながれていた。
「お茶でもしようか」
一軒の白い家の前で立ち止まって忍様が言ってきた。「どこでー?」と思っていたらその白い家がスイーツショップだった。
家の中というか店内というか、靴を脱いで上がるとお店の人が元はリビングだったような部屋に通してくれた。
「さっきケーキ残しちゃったでしょ?」
見てたのか?
しかし、ここはどこ?車に乗っていた時間を考えると結構距離を走ったきがするけど、ケーキを食べさせたくてここまで来るのか?おぼっちゃまは!
「僕はコーヒー、桃乃ちゃんは?」
見せられたサンプル(否、全部本物だけど)を見たら桃半分を丸ごとゼリーに閉じ込めたのがあった。私はそれを指さして言った。
「これがいいです」
「はい、では今ご用意しますね」
ケーキを選ぶ姿がよっぽど子供っぽく見えたのか忍様はクスクス笑ってて、私は恥ずかしかった。
あぁそうか笑い方がシンと似てるんだ。
あの時のシンは笑ってるような状況ではなかったけど、多分私を励ますつもりで私と目が合うと笑ってくれた。
「聞いてもいいですか?」
「何かな?」
「これからって、私どうなるですか?」
恐る恐る聞いてみた。
「・・・多分、年内に結納・婚約」
年内?婚約!?
「年が明けると僕は国家試験の準備になるし」
国家試験の勉強は年明け?いいんですか?間に合うんですか?あーゆー試験て難しいじゃないんですか?
「4月からは研修医で病院勤務になって、桃乃ちゃんは大学受験があるでしょ?」
研修医って受かる気満々?
私は大学受験?
えっ、大学?
すぐさま忍様を見た。
「大学、行ってもいいんですか?」
「もちろん、そのために進学クラスで頑張ってるんでしょ?」
この縁談が進むと、立花を卒業したらすぐ結婚だって思い込んでいたけど、違うんだ、ちょっとホッとした。
「・・・大学卒業したら、お嫁にいらっしゃい」
コーヒー片手に忍様が麗しくおっしゃった。
「はぁ、えっ?」
今のっていわゆる「プロポーズ」なの、かな?
「いや、忍様、だって私と忍様って今日知り合ったばっかりで、だから・・・」
「じゃあこの夏休みはお互いを良く知るために一緒に過ごしましょうか?」
あっ、なんか今嵌められたような・・・
「ゼリー食べたらどうですか?」
目の前にあるまだ手つかずのゼリーは桃の果肉以外は透明で、私のこともシンのことも忍様のことも全部こんな風に透き通って良く見えたらいいのにって思った。
忍様は家に戻りながらどこかで夕飯でもとお誘い下さいました。
できたら遠慮したいなぁなんて思っていたので、両親に確認を取ると言って家に電話をしました。
「桃乃です。」
「うわーーーんっ!ももちゃぁ~ん」
忍様にお借りした携帯から夏くんの私を呼ぶ絶叫が聞こえる。
「ほら、萩乃様がお昼寝が済んだら桃が帰ってるわよっておっしゃってたから、起きた時に家中探しまわって、どこにもいないって分かってからずっとなのよ」
これはいい口実だと思って、私はママに帰りますと伝えた。でも神奈川にいるとは言えなかった。
「弟が私を探して絶叫しているので今日はこのまま失礼します。」
恐らく忍様にもあの絶叫は聞きとれただろう、一応頭を下げて状況を伝えた。
「分かりました。夏休みに入ったらどこかへ出かけましょう。どこがいいか考えておいて下さいね」
そう言って忍様はあの赤い車で私を送り届けてくれた。
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