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第10話 扉を閉じて 1

萩乃様と再開した翌日病院で赤ちゃんに対面した。



すっごく可愛かった。


夏に生まれたから「夏太郎なつたろう」って名付けられた。そのままじゃないって思ったけど、シンと出会ったあの公園の生い茂った緑の樹木や噴水に反射した太陽の光とか花壇の色鮮やかな花なんかの綺麗な景色が思い起こされると、私はそっと「夏くん」て呼びかけていた。


夏くんとママが退院してからママは昼も夜もない感じ夏くんのお世話にかかりっきりだった。



私はシンに「大丈夫だったよ」って連絡しないまま2学期になっていた。


進路は結局進学枠で立花を受験することになった。何故なら縁故は進学の試験の一週間後なので落ちたら縁故で再受験という作戦になった。


私は何も言わなかった。その代わり合格して中学生になったら水泳を習わせてもらおうって考えてた。


水泳部に入ることも考えたけど、立花の水泳部じゃ水遊びにしかならなそうだし、もっと本格的に、というか本当は飛び込みがやりたいって思ってたからそれに繋がるところに入りたかった。


シンは悲しい結末を迎えてしまったけど、子供が親に自分のやりたいことを主張するのは間違ったことじゃないって思ったから、ここは立花合格のご褒美にお願いしてみようと心の中で決意して、受験勉強に精を出していた。


それでもシンには一度きちんとお礼がしたいって思っていた。


携帯に電話をしてお礼を言えばいいのかもしれないけど、萩乃様の前でシンに電話をする勇気がなかったから、タイミングを計っている内にいつの間にか木枯らしの季節に変わっていった。


これ以上間があくのも嫌だったので、図書館へ行って来るってママ達には嘘をついてバスに乗り、アパートを直接訪ねることにした。


以前にここへ来た時は暑くて、夜には台風まで来たのに、この日は一段と寒さが厳しかった。


通りからシンの部屋のドアが見えてきた。嘘をついて出かけてきちゃったこともあって、私の胸はかなりドキドキしていた。


シンはびっくりするだろうか?元気そうな私を見て喜んでくれるかな?ううん、シンが前より元気になっているかな?


頭の中はシンのことでいっぱいだった。


突然シンの部屋のドアが開いた。シンが出てくる!そう思うと嬉しくてたまらなかった。


でもシンは女の人と一緒に出てきた。すごい綺麗な「大人の女の人」だった。私といるところからは少し距離があるけど、その女の人の口紅の色が鮮やかに瞳に焼きついた。シンの恋人なのかな女の人はシンの腕にしがみつくような感じでアパートの階段を二人で降りてきた。


私はとっさに向かい側のアパートの中に入ってシン達に見つからないように隠れた。


だけど、アパートの入口で二人がキスをしているのをこっそり見てしまった。


シンには恋人がいたんだ。さっきの嬉しさはすっかり消えてしまって、悲しい気持ちでいっぱいだった。


シンと女の人がアパートを出ていなくなるまで私は隠れていた。このまま消えてしまいたい、そんな気持ちだった。



とにかく受験勉強に集中することにした。「合格して中学生になったら飛び込みをやる。」それだけを目標に毎日頑張った。


頑張ったおかげで無事立花に進学クラスで合格した。水泳に関してはいい教室があったらということでまずは立花の生活に慣れることが優先と言われた。


自分の気分が明るくなってくるとシンに彼女がいたことも受け入れられるようになった。


だってあんなに清潔な生活をしていたんだよ。もしかしたら洗濯とか彼女がしてたのかもしれない。

それにお礼を言うことはシンに彼女がいるとかいないとかは関係ないって思えた。萩乃様の外出のタイミングを狙って私はシンからもらったメモの番号に電話をした。


「もしもし・・・」


「アンタまた懲りずにかけてきたの?カレはもう私と付き合ってるの、いい加減ウザいんだよね!」


えっ!?何これ?


私は何も言わずに電話を切った。


シンにはもう関わらない方がいい。心の中で警戒警報が激しく鳴っていた。







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