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おかたづけしなきゃ

作者: 黒田皐月

保育園で作ったハロウィンのお面をつけてカボチャのお饅頭をもらった次の日、れいちゃんはおばあちゃんとテレビを見ていました。

テレビの中にはれいちゃんの知らない道があって、そこにはたくさんのごみが散らかっていました。

そしてれいちゃんの知らないおじさんが困った顔をしていました。

おかあさんはれいちゃんが散らかすと怒るのにどうしておじさんは散らかした子を怒らないのかと、れいちゃんはおかしく思いました。

するとおばあちゃんは変な顔になって、そしてなんだか難しそうなことを言いました。


「人は時々に祭りを執り行い、神はごみを降らせてそれを祝福する」


「かみさま? かみさまがちらかしてるの?」


「誰が散らかしているかわからないということは、きっと神様のお仕事なのじゃろう」


「じゃあかみさまはわるいこなんだ」


おばあちゃんは首を横に振って違うと言いました。

散らかしても悪い子じゃないなんてずるいとれいちゃんがほっぺを膨らませると、おばあちゃんはれいちゃんの頭を優しく撫でながら続きを話してくれました。


「神様はお仕事でごみを散らかさなければならん。じゃから神様にとってそれは悪いことではないのじゃ」


怒られないなんてやっぱりずるい。


「れいちゃんわかんない」


れいちゃんがますますほっぺを膨らませると、おばあちゃんは笑いながらほっぺを突っつきました。

でもれいちゃんは怒っているので、がんばってほっぺを膨らませておばあちゃんの指を押し返しました。


「そうじゃな。そうやって人がわからないことをやっているのが、神様たちなんじゃよ」


「たちって、かみさまっていっぱいいるの?」


よく気がついたとおばあちゃんが褒めてくれたので、嬉しくなったれいちゃんはやっとほっぺを膨らませるのをやめました。


「森の神様とか水の神様とか土の神様とか、いろんなお仕事の神様がいるんじゃ。そして人は元々、神様たちのお仕事に感謝するために祭りを行っておったのじゃ」


感謝ってありがとうのことなの、とれいちゃんが聞くと、そうじゃ、とおばあちゃんはまた頭を撫でて褒めてくれました。


「じゃが人は、神様がやっていたお仕事を自分でやろうとするようになった。そしてお仕事をなくした神様たちはどこかへいなくなってしまい、今はもうごみの神様くらいしか残っておらんのじゃ」


「じゃあごみのかみさまもいなくなればいいんだ」


「神様をそのように言うものじゃあない。神様は人とは違うから、神様には当たり前のお仕事が、人にとっては嬉しいことだったり嫌なことだったりするだけなのじゃ」


「かみさまって、よくわかんない」


「すまんな、ちと難しい話になってしもうた」


頭の中がこんがらがって変な顔になってしまったれいちゃんを、おばあちゃんは優しく撫でてくれました。

そしてお話はこれでお終いと、おばあちゃんはテレビを消しました。


また次の日、保育園から帰ってきたれいちゃんはお絵かきがしたくなったので、箱の中からお絵かきセットを取り出しました。

痛くならないように上の方に乗せてあったお人形さんたちを箱の外に出しっぱなしにしたまま、れいちゃんは保育園で見た落ち葉の絵を描き始めました。

たくさん描けてれいちゃんはどんどん楽しくなってきたのですが、いきなりおかあさんがお部屋に入ってきて、使わないものは片づけなさいとれいちゃんを怒りました。


「ちらかしたのれいちゃんじゃないもん。かみさまなんだもん」


「そんな神様なんていません。散らかしたらお母さんとか迷惑なんだから、ちゃんと片づけなさい」


おばあちゃんに教えてもらったことをちゃんと言ったのに、おかあさんは全然聞いてくれません。


「いなくないもん。れいちゃんわるくないもん」


「お母さんの言うことを聞かない子の言うことなんか、お母さんも聞きません。ちゃんと片づけなさい」


おかあさんはぷんぷん怒ってれいちゃんを立たせて、お人形さんたちのところに連れていきました。

後はれいちゃんが自分でやるように言って、おかあさんはどこかへ行ってしまいました。


「れいちゃんのいうことをきいてくれないおかあさんのいうことなんか、れいちゃんしらない」


おかあさんのせいでお絵かきもつまらなくなってしまって、れいちゃんはその場に寝っ転がって、同じように寝っ転がっているお人形さんに文句を言いました。


お部屋の中に足音が入ってきて、またおかあさんかと思ったら、あれまあと驚いていたのはおばあちゃんでした。

おばあちゃんならばわかってくれるだろうと思ったれいちゃんはアヒルさんみたいな口をして、おかあさんがれいちゃんの話を全然聞いてくれないとおばあちゃんに言いました。

でも、おばあちゃんもれいちゃんの話を聞いてくれませんでした。


「れいちゃん、自分のやったことを神様のせいにしてはいかんぞ」


話を聞いてくれないだけじゃなくて、おばあちゃんまでおかあさんみたいに怖い顔をしたので、れいちゃんも負けないようにほっぺをぷーっと膨らませました。


「ちらかすのがかみさまのおしごとだっておばあちゃんいったじゃん。だからちらかしたのはかみさまなの」


おばあちゃんの顔が怖くなくなって、やった、とれいちゃんは思いました。

しかし目をつぶったおばあちゃんは、もっと怖いことを言いました。


「ごみの神様が散らかしたということは、それはごみなんじゃな。れいちゃんのものじゃないなら、捨てなければならんな」


おばあちゃんがそう言ってお人形を拾い上げようとするのを、れいちゃんは取られないようにぎゅっと抱きかかえました。


「すてないで。ごみじゃないもん。れいちゃんのだもん」


「じゃあ、それを出したのはれいちゃんなんじゃな?」


「ごめんなさい。れいちゃんがだしたの」


おばあちゃんは泣きそうになりながら謝ったれいちゃんの頭を優しく撫でてくれて、そしてかたづけましょうのお歌を歌いながら一緒におかたづけをしてくれました。

それかられいちゃんを後ろから抱っこして、おばあちゃんはまた神様の話をしてくれました。


「神様のお仕事には、人が嫌なこともあるのじゃ。神様にお仕事をさせないのは難しいじゃろうが、だからといって何でも神様に任せてしまってもいかんのじゃ」


「なんでもかみさまのせいにしちゃだめってこと?」


そうじゃ、とおばあちゃんはまたれいちゃんの頭を撫でてくれました。


「人は人で一生懸命やって、それでもできないことを神様がやってくれる。そうして人も神様もやっていくものなのじゃよ」


おばあちゃんの話は今日も全然わからなかったのですが、れいちゃんにはひとつだけわかったことがありました。


「じゃあごみのかみさまにすてられないように、れいちゃんちゃんとおかたづけする」


ニコニコな顔になったおばあちゃんがずっと撫で続けてくれて、気持ちがよくておねむになったれいちゃんはそのままご飯の時間までお昼寝してしまいました。

ご飯の時、おかあさんもちゃんとおかたづけしたことを褒めてくれて、嬉しくなったれいちゃんはあんまり好きじゃないニンジンもおいしく食べちゃいました。


それから、おかあさんやおとうさんが何かを出しっぱなしにするとれいちゃんが神様に捨てられちゃうよと怒るようになって、おうちの中はいつもきれいになったのでした。

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