勇者の試練 第一話
この世界で真の勇者と認められるには国王であるシュヴァンツ・フォン・アルシュロッホ九世の承認の他に勇者かどうかの認定を行っている四団体の承認も必要になってくるそうだ。
俺としてはそこまでする必要なんて無いと思っていたのだけど、なぜかみんなその話を聞いてやる気になってしまっていた。
どんな試練が待ち受けているのか気になる所ではあるが、俺の代わりにうまなちゃんたちがその人たちに話を聞きに行ってくれているという事なのでみんなの帰りを待つことになっていた。
「イザーちゃんはみんなと一緒に行かなくて大丈夫なの?」
「大丈夫ではないんだけど、うまなちゃんについてこなくても大丈夫って言われたからここで待つことにしたよ。お兄さんとポンピーノを二人っきりにするのも良くないって思ったんじゃないかな」
どんな時でもイザーちゃんはうまなちゃんのそばにいる印象だったので別行動をしているという事に少し違和感があった。
異世界に来ているとんだしいつも以上に心配になってもおかしくないと思ったけど、この世界に来ているうまなちゃんはもともと居た世界と違って戦う力を手にしているので安心なのかもしれない。あんなに大きな斧を振り回せるんだから誘拐されることもないとは思うけど、もう少し心配した方がイザーちゃんらしいとは思っていた。
「あの、私は皆さんの力関係をはっきり理解しているわけじゃないので間違ってたら申し訳ないんですけど、なんで真琴さんが皆さんの心配をしているんですか。真琴さん以外の方はみんな単独でも国を亡ぼすことが出来そうなくらい強いですよね。そんな人達の心配をする真琴さんには魔王にとどめを刺したってこと以外に強みが無いように思うんですけど。なんでそんな真琴さんが他の人達を心配しているんですか?」
「なんでって、みんなか弱い女の子だから。……か弱くはないかもしれないけど、女の子だから心配しちゃうよね」
「そういうもんなんですね。真琴さんは個人としての強さよりも性別にこだわるって事なんですね」
「そんな意味ではないんだけど」
「それだけお兄さんが優しいって事だよ。誰よりも優しい心を持っているから魔王を倒せたのかもね」
お昼ご飯を食べながらこの世界の事を色々と教えて貰ったり、逆に俺たちがいた世界の事をポンピーノ姫に教えたりして過ごしていたのだが、夜になっても誰一人として帰ってくることはなかった。
何かの事件に巻き込まれてしまったのかと心配になっていたのだが、みんなと連絡を取り合っているイザーちゃんが全く心配をしていないので何も問題はないのだろう。
話を聞きに行った団体の人達に無理な要求をされていたらどうしようと考えていた俺ではあったが、みんなそれぞれの団体の人達にもてなしを受けていて帰るに帰れない状況になっているという事をイザーちゃんが教えてくれたのでひとまず安心することは出来た。
用意されているとても豪華な晩御飯を三人で食べていた時にも色々な話を聞いたのだが、勇者を認定している四団体の違いが俺には全く理解出来なかった。
勇者と認定されるために必要なことは全団体同じで試練の内容も全く一緒だという事だ。
何のために四団体存在しているのかと聞いてみたのだが、そこは色々あってそうなっているという事しか教えて貰えなかった。きっと、大人の事情ってやつだったりするのだろう。
うまなちゃんが話を聞きに行っている『世界勇者協会』も愛華ちゃんが話を聞きに行っている『全国勇者連合』も瑠璃が話を聞きに行っている『大勇者連盟』も柘榴ちゃんが話を聞きに行っている『真勇者評議会』もメンバーが違うだけでやっていることは同じだそうだ。
名前が違うだけでやっていることは全く一緒な事を考えると、単なる天下り先だったり貴族や有力者の名誉のために存在しているのではないかと疑ってしまうくらいだ。
その事をポンピーノ姫に聞いてみたところ、あからさまにその話題を変えようとしていたのであまり触れない方がいいのかもしれない。
「試験の内容ってポンピーノは知ってたりするの?」
「内容は噂レベルで聞いてはいるんですけど、実際にその認定試験を受けた人がいないのでその噂があっているかどうかわからないんですよ。勇者と従者の二人一組でダンジョンに入って最深部にある勇者の証を持って帰ってくることが試験らしいですよ。なんで二人一組なのかわからないんですけど、そういう噂になっているのも理由があるんじゃないですかね」
「なんだか、暇潰しにはなりそうな試験だけど、待ってる方は暇で暇で仕方ないかもしれないね。お兄さんは四回その試験を受けるって事になるんだけど、同じ試験を四回連続ってちょっとおもしろいかも」
何が面白いのかわからないけど、同じ試験を四回も受けるのは面倒くさいな。どうにかして四人一緒にってことは出来ないんだろうか。
それが出来ればかなりの時短にはなると思うんだけど、二人一組ってのが確定であればそれも難しい話になってしまうんだろうな。
なんにせよ、俺はその試験を受けて勇者として認めてもらう事になるんだよな。
「今まで一度もその試験が行われてこなかったんだね。この国も長い歴史があるみたいなのに、それって不思議な話だよね」
「そうなんですよね。結構長い歴史のある国だとは思うんですけど、今まで誰一人として魔王を倒した人がいなかったんですからね。真琴さんが魔王を倒したのって本当なのかみんな疑ってたのはそういう理由もあるんですよ」




