王様リセマラ 最終話
この流れだとイザーちゃんも失敗してしまうのではないかと思ったのだが、イザーちゃんはこれ以上この行為を続けることに意味が無いと言い出してしまった。
「だから、これ以上あっちの世界にシュヴァンツ・フォン・アルシュロッホ九世の死体を持っていくのが面倒になったんだよ。こっちでは一瞬で戻ってきてるように感じるけど、実際は向こうの世界に行ってこの城を探してシュヴァンツ・フォン・アルシュロッホ九世を連れてくるみたいな感じでやってることは色々あるんだよね。そんなわけで、向こうの世界に行くのも色々と疲れてしまって事なんだよ」
「この王様もちょっと嫌だけど、他の王様だとお兄ちゃんの事を悪く言う人しかいなそうだもんね。この人で妥協するしかないのかもしれないね」
「私の運じゃこれよりいい王様は見つけられそうにもないから。うまなちゃんはもう少し頑張りたかったと思うんだけど、それが出来なくてごめんね」
「なんもだよ。イザーちゃんが私のために一杯頑張ってくれてるのは見てるからね。その事を思えば私の方が無理を言っていることになるんじゃないかな」
「そんなことないって。うまなちゃんは私のために一杯気を使ってくれてたもん。本当にうまなちゃんは良い人だよ」
うまなちゃんはイザーちゃんがやっちゃったことに気が付いていないみたいなので教えてあげた方が良いのではないかと思ったのだけど、イザーちゃんの目が魔王を見つめていた時と同じ感じだったので俺は何も言うことはなかった。
何かされてしまうのではないかという恐怖心は無かったのだけど、俺に何かあったら他の四人が悲しんでしまうのではないかと思っただけなのだ。
別にイザーちゃんに何かされるのが怖いとかそういう事ではない。手間をかけさせてしまうのが申し訳ないと思っただけなんだって。
「じゃあ、うまなちゃんが王様を説得してくれたってのをみんなにも教えてあげないとね。みんなには難しかったことも出来ちゃうなんてうまなちゃんは流石だねって褒めてもらわないとね」
「そんなんじゃないって。たまたま運が良かっただけだよ。あの王様だったら他の人でも上手く行ったんじゃないかなって思うけど」
「どうだろう。うまなちゃんが凄いから上手くいったんだと思うけどな。ね、お兄さんもそう思うよね」
いつもは優しいイザーちゃんがいつもよりもきつい視線を向けてきているのだが、うまなちゃんに対して背中を向けているのでその表情は俺とポンピーノ姫にしか見えていない。
俺はイザーちゃんの言葉を肯定してなるべく変なことを言わないように気を付けていた。この事に関係ないはずのポンピーノ姫も俺に同調してくれたのだが、うまなちゃんは俺たち二人がうまなちゃんの事を誉めていることがよほど嬉しかったみたいで鼻歌交じりでご機嫌な様子であった。
「二人ともちゃんとわかってくれてよかったよかった。わかってもらえるまで説明しないといけないって思ってたから、二人ともわかってくれて本当に良かったよ」
二人の後を付いていく俺とポンピーノ姫は足元だけを見て歩いていた。
イザーちゃんが振り返ったときに目が合わないように気を付けているという事はないのだけど、俺もポンピーノ姫もまっすぐ前だけを見て歩くことは出来なかった。
シュヴァンツ・フォン・アルシュロッホ九世は俺たちの皿に後ろを歩いているのだが、その時もずっと念仏を唱えるようにうまなちゃんの事を褒めたたえていたのだ。
ここまで完璧に洗脳してしまうことが出来るのだったら最初からやればよかったのにと思ったのだけど、そんな事を言ってしまって俺があんな目に遭ってしまうのは避けたいと思って黙っていた。
みんなの前に戻ったときにうまなちゃんとイザーちゃんが晴れやかな表情を浮かべていたことで今回は成功だったという事がわかった三人ではあったが、愛華ちゃんは納得したような顔で俺たちを見つめ瑠璃は少し納得いかないような感じで柘榴ちゃんは喜んでいるのか悲しんでいるのか微妙な感じの表情であった。
俺たちを見た騎士たちは拍手で出迎えてくれた。
今までこんなことはなかったと思うのだが、拍手で出迎えてもらえるのは少し嬉しいと感じていた。
そんな騎士たちを見て貴族の連中も俺たちに気付いて拍手の波は巨大なものとなって俺たちを包み込んでいた。
ポンピーノ姫は気まずいのか俺たちとは離れてシュヴァンツ・フォン・アルシュロッホ九世の後ろに移動していた。
シュヴァンツ・フォン・アルシュロッホ九世も一緒になって拍手をしていた。
それにつられるようにポンピーノ姫も拍手をしていたのだが、完全に状況を理解出来ずに流されている感じではあった。
俺たちがいつもの位置につくまでずっと周りからうまなちゃんを褒めたたえる声が止まることもなく続いていた。
その事を瑠璃たち三人は少し不審に思っているようではあったが、その理由には全く気が付いていないようだ。
「うまなちゃん可愛い。うまなちゃん可愛い」
「うまなちゃんは天使。うまなちゃんは天使」
「天才うまなちゃん。天才うまなちゃん」
などといった声が色々な場所から聞こえてきているのだ。
不思議なことにその声が被ることなくすべてハッキリと言葉として聞き取れていたのだ。
みんなが一通りうまなちゃんを褒めたたえたのだが、シュヴァンツ・フォン・アルシュロッホ九世とポンピーノ姫が登場するとその声はピタリとやんで、みんな二人に注目していた。
さすがに王様が出てくると馬鹿みたいに騒ぐことも出来ないようで、イザーちゃんが何かやったとしてもそこはしっかりとわきまえているという事なのだろうな。
「うまなちゃんは本当に可愛い。この国の宝として飾りたいくらいだ」
玉座に座ったシュヴァンツ・フォン・アルシュロッホ九世が突然そんな事を言い出したので戸惑ってしまったが、その言葉を聞いた騎士も貴族も皆拍手でそれに答えていた。
その拍手が鳴りやんだ時、シュヴァンツ・フォン・アルシュロッホ九世をはじめとするみんなの視線が一気にポンピーノ姫へと集中していた。
ポンピーノ姫はとっさに判断したのか、それとも何か危険なものを感じて無意識に出たのかわからないが、他のみんなとは少し違った形でうまなちゃんを誉めていた。
皆の拍手に紛れて聞き取りにくかったけれど、俺はイザーちゃんの言った「よかった」という言葉に何かとんでもない意味が込められていたのではないかと思ってしまったのだった。
イザーちゃんのすぐ隣で照れ臭そうにしているうまなちゃんと他のみんなは誰もイザーちゃんの言葉なんて聞こえていないようだった。
イザーちゃんの事をつい見ていたのだが、その時に目が合ってしまった。
俺はまるでいけないことをしてしまってソレがばれてしまった子供のように固まっていたのだが、イザーちゃんはそんな俺に対してウインクをしてくれた。
その意味が分かる日はやってこなかった。




