王様リセマラ 第十五話
柘榴ちゃんに続いて瑠璃も失敗したわけだが、こうなると次に挑戦する人も失敗してしまうのではないかという不安に襲われてしまう。
「私、失敗しないんで大丈夫です」
何処からそんな自信がわいてくるのだろうとこちらが心配になってしまいそうなものだが、今までの経験からその自信も何か理由があるのだろうと思わずにはいられない。
そう思わせる愛華ちゃんが王様を説得することになったのだ。
「さすがに愛華なら大丈夫でしょ。これ以上王様を連れてくるのはイヤだからね」
「大丈夫ですよ。私にはちゃんと話し合いで解決するというプランがありますから」
「その自信が空回りに終わらないといいんだけどね」
今回もイザーちゃんが新しいシュヴァンツ・フォン・アルシュロッホ九世を連れてきてくれたのだが、今までのシュヴァンツ・フォン・アルシュロッホ九世と違って本当に王様なのかと疑ってしまうくらい威厳を感じさせなかった。
むしろ、その辺にいる面倒くさいおじさんと同じような印象を受けていた。
「なんじゃなんじゃ。ポンピーノちゃんに話があると言われてきてみたら、凄い体の女がおるではないか。この国の長い歴史を辿ってもお主のような立派な山脈を胸部に備えたものなどいなかったであろうな。さすがはポンピーノちゃんじゃ、ワシのためにとんでもないお宝を用意してくれたのぉ」
「あの、お父様。そういう事ではなくて、こちらの愛華さんと真琴さんの話を聞いてくださいませ」
「話を聞くのは構わんのじゃが、ワシは男の言葉など聞きとうない。そんな事よりも、そこの山脈をぜひこのワシに登頂させていただきたい。もちろん、登頂した際には登頂部にワシが登頂した印を残すことにしよう」
なぜこのタイミングでこんな奴を連れてきたのかと思ってしまった。イザーちゃんも好きでこんな奴を連れてきたのではないと思うのだが、話し合いで解決したいと思っている愛華ちゃんにとって話の通じなさそうなエロ爺タイプの王様は相性がとても良くないとしか思えない。
そんな事はないと思うが、柘榴ちゃんも瑠璃も失敗したのに愛華ちゃんが成功してしまったら面白くないとでも思っているのだろうか。さすがにそんな偏屈な考えは持っていないとは思うのだけど、愛華ちゃんに対するイザーちゃんの普段の態度を見ていると強く否定することが出来ないのであった。
「お父様。どうか私の話を聞いてくださいませ。ココにいる真琴さんは見事魔王を打倒しました。その事は紛れもない事実であります。真琴さん一人の力では成し遂げられない偉業ではあったと思いますので、愛華さんをはじめとする他の皆さんの事も一緒に勇者として認めていただくわけにはいかないでしょうか?」
「うーん、それは難しいかもしれないな。いくらポンピーノちゃんの頼みとはいえ、魔王を倒すことが出来ないものを勇者と認定するわけにはいかないじゃろ。聞いたところによると、その男は魔王が弱り切るまで女性陣にだけ戦わせておったそうじゃないか。そんな事をしてとどめを刺しただけの男を勇者と認めて良いものなのか、ワシはそこが気になっているのじゃよ」
ただのエロ爺なのかと思って油断していたのだが、シュヴァンツ・フォン・アルシュロッホ九世の言っていることは何一つ間違っていないのだ。
みんなが魔王を追い詰めたのは事実だし、最後の攻撃が唯一俺が与えたダメージでもあるのだ。
その事をつかれると俺は何も反論出来ないのだが、そんな俺の心を見透かしたかのように俺を蔑んだ目で見てくるシュヴァンツ・フォン・アルシュロッホ九世に対して先ほどまでは感じていなかった王の威厳というものを感じてしまっていた。
「そこで一つ提案があるのだが、この娘を差し出せばそなたらを真の勇者と認定し未来永劫語り継ぐことを約束しよう。もちろん、この娘はワシが死ぬまで面倒を見るから安心せい」
「いや、さすがにその条件は飲めないですよ。愛華ちゃんは大切な仲間ですし、こんなところで失うわけにはいかないです」
「その大切な仲間を一人手放すだけでお前たちは真の勇者としてこの世界の伝説になるのだぞ。その事を良く考えてみるのじゃ。娘を一人差し出すだけで得られるものはこの娘よりも大きなモノだと思わんか?」
「思わないです。何を言われたって自分のために仲間を売ることなんて出来ないです。愛華ちゃんにはたくさんお世話になってきましたし、楽しい思い出もたくさんあるんです。もちろん、他のみんなとも思い出はたくさんあります。俺はそんな大切な仲間が誰一人欠けることもなく最後まで一緒に居たいと思ってるんです」
シュヴァンツ・フォン・アルシュロッホ九世が俺に向って何かを言おうとした時に乾いた銃声が部屋の中で反響していた。
「すいません。私は皆さんのお役に立てるのでしたらココで一生を終えても良いのかなと思ってしまいました。でも、真琴さんがそこまで私たちの事を考えてくれているという事を知ってしまうと、この変態エロ爺のもとに行くのが嫌になってしまいました。冷静に話し合うプランが二千万通りあったんですけど、こんな王様が出てくるなんて想定外でした。たまたまこんな感じの王様になっちゃたと思うんですけど、イザーさんになんて言って謝ればいいでしょうね」
銃声は一発しか聞こえなかったと思うのだが、シュヴァンツ・フォン・アルシュロッホ九世の胸とお腹と頭に撃たれた跡がしっかりと残っていた。
どんな早業を使ったのか気になる所ではあるが、今回の失敗は愛華ちゃんに責任があるわけではないという事だけはイザーちゃんに伝えておこうと思った。
あんなエロ爺が相手では誰がやっても上手くいかないのではないかと思うんだよね。




