王様リセマラ 第十四話
ミサイルの直撃を受けた瑠璃は一瞬たじろいでいたが、すぐに体勢を立て直すとそのまま目の前にいる機械人形を蹴り飛ばして距離をとっていた。
機械人形が再び口からミサイルを発射すると瑠璃の目の前に現れた巨人に直撃してしまった。
粉々になった巨人は瑠璃の陰の中へと消えていったのだ。それを確認することもなく横にいた機械人形たちも一斉に瑠璃に向かってミサイルを口から発射しているのだが、そのミサイルは全て何もない空中で爆発していた。
突然の爆音と爆風にさらされた俺は立っていることも出来ず再び壁際に押し付けられるような形になってしまった。
目を開けることも出来ずに音と衝撃波が俺の全身を襲ってくるのだが、あまりにも衝撃が強すぎて何が起こっているのか理解出来ていなかった。せめて、目を開けることが出来れば状況がわかるというのに、何度も襲ってくる衝撃で俺は目を開けることも出来ずに体を小さくして耐えることしかできなかった。
時間の感覚もあまりない。
耳の奥でいまだに爆発音が聞こえているような気もする。
体を押さえつけるような衝撃もおさまってはいるが、自由に手足を動かすことが出来ない。
それ以前に、体を起こすことが出来ていない。
「兄貴大丈夫か。怪我とかしてないか?」
聞きなれた瑠璃の声と俺の肩に置かれた手が少しだけ俺の心を落ち着かせてくれた。世界で一番聞いた瑠璃の声は俺の心も体もリラックスさせてくれる効果が有るようだ。
俺は瑠璃が優しく話しかけてくれたことで安心出来る状況になったのだと思うと、ゆっくりと目を開けることが出来るように泣ていた。
まだ耳の奥もジンジンしているし頭も少しくらくらしていた。
それでも、俺は目の前に瑠璃がいるなら怖いことはもう何もないという事なんだと思ってゆっくりと瞼を動かしていた。
目の前に現れた光景に俺は言葉を失ってしまった。
俺に笑顔を向けてくれている瑠璃の体が真っ赤に染まっているのだ。
頭も顔も腕も肩も胸元もお腹も真っ赤に染まっていたのだ。
「どうしたの、どこか痛いところでもあるのかい?」
心配そうな顔で俺を見てくる瑠璃に対して俺は何の言葉もかけることが出来なかった。
何か言わなくてはいけないと思っているのだが、俺の口からどんな言葉を出せばいいのかわからなくなっていた。
そんな俺を見て瑠璃はさらに心配そうに俺を見てくるのだが、何も言えない俺が怪我をしているのかと思って部屋の入り口に置いてあった傷薬を持ってきた。
「どうした兄貴、体が痛くて喋れないのか?」
瑠璃は持ってきた傷薬を俺の頭からゆっくりとかけてきたのだが、傷薬の使い方はこれであっているのだろうか。この世界ではこんな風に使うものなのかと思ったのだが、ポンピーノ姫がすぐに使い方の訂正をしてくれていたので間違った使い方だという事は理解できたようだ。
こんなに慌てている瑠璃を見るのはいつ以来なのだろうと思うと少しだけおかしくなってしまって、俺は血だらけの瑠璃を心配するよりも先に笑い出してしまった。
声を出さずに笑っていた俺は小刻みに肩を震わせてしまっていたのだが、その姿は瑠璃たちにとっては痛みに耐えきれずに泣いてしまったと思ったのか余計に心配させてしまった。
そんな俺を落ち着かせるためなのかわからないが、瑠璃は俺を優しく抱きしめてくれていた。
自分も死にそうなくらいに血を出しているというのに、俺の事を心配してくれるなんて優しい妹だと感謝していたのだが、瑠璃に抱きしめられるといつもとは違う灯油のような匂いがしていた。
それに、瑠璃に触れている部分がどことなくベタベタしているような気もする。
俺が何の匂いなのだろうと何度も鼻をクンクンさせていたのだが、それに気付いた瑠璃は先ほどとは違って申し訳なさそうにしていた。
ゆっくりと離れた瑠璃は俺を心配しているのは変わらないと思うのだが、それとは違う申し訳なさそうな顔でややうつむきながら俺を見つめていた。
「こんなに汚いのに抱き着いちゃってごめんね。兄貴が怪我してないか心配になっちゃってついやっちゃった」
「いや、それは良いんだけど、お前こそ大丈夫なのか?」
「ああ、これ。これは大丈夫だよ。今すぐお風呂に入りたいとは思うけど、そんなに体に悪いものでもなさそうだしね」
瑠璃は真っ赤になった自分の手でお腹を隠すようにしているのだが、言っていることが理解出来ずにいた。
この状況を見る限りでは、瑠璃の血ではないという事なのだろうか。
ますます状況が飲み込めずにいた。
「ごめんね。こんなにオイルまみれなのに抱き着いちゃって。このお城にもお風呂くらいあるだろうから先にお風呂に入るべきだったかな。でも、兄貴が怪我しちゃってるかもしれないって思うと心配になっちゃったんだよね」
「オイルまみれって、どういう事?」
「どういう事って、あの人形の中にあったオイルを思いっきりかぶっちゃったんだよ。離れて戦ってくれたらこんなことにはならなかったと思うんだけど、あいつらが私の近くまで来て自爆しようとしたからこんなことになっちゃったんだよね」
どういうことなのかまだ理解出来ない俺ではあったが、瑠璃とポンピーノ姫の説明によると瑠璃を覆っている赤い液体は瑠璃の血ではなく機械人形の体の中を流れている魔力を帯びたオイルだという事だった。
人間でいう血液と筋肉の役割を果たしているオイルらしいのだが、空気に触れると一気に参加して真っ赤になってしまうそうだ。
それで血と勘違いしてしまったという事なのだが、紛らわしいにもほどがあるというものだ。
ちなみに、俺が壁際まで吹っ飛ばされた時には瑠璃が新しい巨人を呼び出してミサイルを全て受け切っていたという事だ。
距離をとっても勝てないという事に気付いた機械人形が一斉に距離を詰めたところで下半身しかない巨人が六体同時に現れて機械人形に回し蹴りを決めたらしい。
ポンピーノ姫も全てを見ていたわけではないし瑠璃も心配になって俺の方を見ていたという事なので巨人がどうやって機械人形を倒したのか詳細は不明であった。
だが、部屋の入り口付近にいたシュヴァンツ・フォン・アルシュロッホ九世がミサイルの爆風によって上半身が吹き飛んでいたという事だけは誰の目にも明らかであった。




