王様リセマラ 第十話
今までと少しだけ雰囲気の変わった王様と安心したような顔で椅子に座っているポンピーノ姫がいた。
ポンピーノ姫は正面にいる私たちにしか見えないように椅子の陰に隠れている手でOKサインを送ってきた。イザーちゃんが別の世界から戻ってきてから少し時間がかかっていたと思ったのだが、王様に俺たちの事をちゃんと説明してくれていたようだ。
「余がシュヴァンツ・フォン・アルシュロッホ九世である。貴殿らが魔王を討伐したという話はポンピーノから聞いておるぞ。活躍しているところを見ることが出来ずに残念ではあるが、魔王を討伐した功績をたたえ、貴殿を勇者として認定し我が国との独占契約を締結しようではないか」
「おお、国王陛下さすがでございます。本来であれば彼らのような旅の者には魔王討伐の報奨金と勇者の称号を授けるだけで十分だとは思いますが、我が国と勇者殿の独占契約とは何事にも代えがたい名誉でありますぞ」
一部貴族からは反対意見も出ているようではあったが、ほとんどの貴族や騎士は独占契約を結ぶことに賛成のようだ。
独占契約というものがどんな効力を持っているのかわからないが、あれだけ喜んでいるという子は向こう側に相当な利があるという事なんだろう。上手いこと俺を言いくるめてこの国のために働かせようという魂胆なんだろうな。
先ほどまで余裕の表情を浮かべていたポンピーノ姫の顔色が一気に悪くなっているのを見ても、俺たちにとって不利な条件を提示されるというのがわかっているようだ。
「どうした。あまりにも嬉しすぎて言葉にならぬのか?」
シュヴァンツ・フォン・アルシュロッホ九世は不思議そうな顔をしながら高いところから俺たちを見ているのだが、そのすぐ近くに立っている男が悪そうな笑顔を隠そうともしていないところに小さい闇を感じていた。
専属契約というからにはこの国以外での活動が制限されてしまうのだろう。もしくは、この国の指示に従って戦闘を行う必要があるのかもしれない。
どちらにせよ、俺たちの行動の自由がかなり阻害されてしまうと思うし、メリットなんて何一つ感じられない。
「さすがに専属契約はどうかと思いますよ。ほら、勇者様たちは世界各地にいる魔王を討伐しなければいけないのですよ。彼らみたいに魔王相手でも後れを取らないような人たちをこの国に留めておく事は世界から見て損失になると思うんです」
「それはわかっているのだ。だが、それをわかったうえで勇者殿と専属契約を結びたいという事なのだ。基本的には国内をメインに活動してもらう予定なのだが、年に数度国外でも勇者殿の活躍を期待してしまっているのだよ」
「ですが、勇者様の行動を制限する理由にはなっていないと思いますよ」
「専属とか言われても何をするものなのか理解していないんだけど」
「そっちで勝手に盛り上がるのは良いんだけど、こっちにもちゃんと説明してもらっていいかな?」
シュヴァンツ・フォン・アルシュロッホ九世だけではなく貴族連中も説明することを渋っていて契約を進めようとするのだが、ポンピーノ姫が立ち上がって大きな声で叫ぶと周りの人達も一瞬で口を閉ざしていた。
「お父様だけではなく皆さんも何をそんなに焦っているのですか。まずは魔王を討伐してくださった勇者様たちに感謝を述べるべきではないですか。魔王を直接滅ぼすことが出来る勇者様が貴重な存在だとは皆さん重々承知だと思いますけど、急いては事を仕損じるという言葉もありますし、ココはいったん落ち着いて考えてみた方がよろしいのではないでしょうか」
「ポンピーノの言いたいこともわかるのだが、事は一刻を争うものなのだ。ココで契約を締結することが出来なければ勇者殿も他国へと移り住んでしまうかもしれぬのだぞ。我が国の民を思えば勇者殿たちにこの国にいてもらうことが一番重要ではないか。それとも、ポンピーノは我が国の民を見捨ててでも他国の民を守れというのか?」
「そういう事を言っているのではないのです。まずは勇者様たちに感謝を伝え、その後に契約についての説明をするのがよろしいとは思うのですが」
「説明は契約が締結した後でも良かろう。内容については余に代わって大臣が申し伝えることになっておる」
さすがに引きこもっていた俺でも契約の内容を説明するのが契約が締結した後というのはおかしいと思う。俺だけがそう思っているのではなく、他の五人もおかしいと思っているようだ。
みんながそっと自分の武器を確認しているところを見ても、この王様もダメな王様だという事になるのかもしれない。ただ、この国に住んでいる人たち目線に立つと俺たちを利用して最小限の出費で国民を守ることが出来るという事なのかもしれない。
まあ、俺たちがそんな事を気にするはずもなく、当然のように契約は結ばず何事も無かったかのようにポンピーノ姫以外の人達を皆殺しにしてしまったのだ。
今回は今までと違って王様を最後に残したようなのだが、その理由は王様に少しでも長い時間恐怖を味わってもらいたい。それだけが理由のようであった。
みんなが行動している間、俺とポンピーノ姫はその場から動くこともなくお互いの顔をじっと見ていた。
視線を少しでも動かすと凄惨な現場を見ることになってしまうので見つめあっていたのだが、俺とポンピーノ姫の間に恋愛感情が芽生えることはなかったのだ。




