王様リセマラ 第八話
「愛華は無駄に大きい乳を揺らして私たちを挑発でもしてるのかしら。そんなに大きいものを二つも装備していったい何をしようとしているのかしらね」
「あらあら、二つだけだなんてうまなちゃんの目も曇ってしまったみたいね。ほら、ココを見てごらんなさい。お尻もプリッと上を向いて存在をアピールしているわよ」
「そんなところまで見てるなんてイザーちゃんも物好きね。それにしても、二人の言う通り凶暴な体のようね。こんなに凶暴な体で高校生だなんて許されることはないと思うのだけど、瑠璃先生はどう思うのかしら?」
「そうね。愛華さんの体は高校生として相応しくないと言えるかもしれないわね。校則にも抵触するかもしれないわね。でも、見かけだけって可能性もあるわけだし、実際に触って確かめるしかないかもしれないわね」
いったい何をしたいのかわからずにただ見守っているだけの俺とポンピーノ姫。
俺の横に立っているポンピーノ姫は体を隠すように前かがみになって俺に背を向けてきているのだが、その姿勢は見かたによっては誘っているという風に受け取られるのではないかと思ってしまった。
そんな事があるはずはないのだけど、そう考えてしまう事も仕方ないだろう。
「あなたたちはいつもあんな感じなんですか?」
「いや、そんな事も無いと思うよ。イザーちゃんが暴走することはよくあるんだけど、それにみんな乗っかるのは珍しいかも。今回はイザーちゃんじゃなくてうまなちゃん発信だったって事もとても珍しい出来事だと思うよ」
「そうなんですね。銀髪のイザーさんと金髪のうまなさんって凄く似てると思うんですけど、性格も似てたりするんですか?」
「そんなに似てるとは思わないけど、似てるところもあったりするとは思うよ」
「金と銀ってなんか特別な感じしますよね」
「確かにそうかもね。イザーちゃんはビックリするようなことを平気でやってしまうし、うまなちゃんはそんなイザーちゃんの事を動揺もせずに受け入れてるからね。凄いコンビだと思うよ」
ポンピーノ姫は目を爛々と輝かせてみんなの事を見ていた。みんなで楽しそうにしている姿を羨ましそうに見ている事もあって、このお姫様のある意味では昔の俺と同じように引きこもっている時間が長かったのかもしれない。
王女ともなれば何かあってはいけないという事でお城から出ることも許されなかったんだろうな。そんなところは少し同情してしまっていた。
「みんなの事を羨ましいって思ってるのかな?」
俺の質問に驚いたポンピーノ姫はみんなに向けていた視線を俺に向けてきた。その目は真っすぐに俺を見つめているわけではなく、かすかに困惑しているように見えていた。
「羨ましいと言えば羨ましいですね。あんなに楽しそうに皆さんでお話しすることは相手のいない私には難しいことですからね」
「お姫様ともなると、自分の意志で自由に行動することも出来ないんだろうね。勝手に外に出たりしたら怒られちゃうんでしょ?」
今度はキョトンとした表情を見せてきたポンピーノ姫であった。
俺の言葉の意味を理解しているのか理解していないのかわからないが、そんな事はないといった感じで俺に色々と今までの事を教えてくれていた。
「郊外に出るのはさすがに止められてしまいますが、城下町程度でしたら普通に行けますよ。どこかの店に入って何かをするという事はあまり出来ませんが、城の外にいる友人に頼んで色々と買ってきてもらうことはありますね。巷ではやっている食べ物とか飲み物は一通り試してますよ」
「そうなんだ。意外と自由なんだね」
お姫様は籠の中の鳥のように自由を奪われているものだと思っていた。
だが、実際のポンピーノ姫はそんな予想とは裏腹に、自分の意志で自由に城下町に行って友人と遊ぶことが多いようだ。
俺と同じ引きこもりなのかと思っていたのだけど、実際のところは普通に外に出て遊んでいる女の子であった。
「ちょっと気になったんだけど、うまなさんと柘榴さんって高貴な生まれの方なのかしら。どことなく所作に気品を感じているんだけど、どうなのかしら?」
「この世界の貴族とかとは違うと思うけど、二人とも名門といっていい家の生まれだと思うよ。俺もその辺は詳しくないんだけど、栗宮院家も栗鳥院家もどちらも俺たちがいた世界では名の知れた名家って感じだと思うな」
「そうなのね。あなたたちの世界に興味が出てきたけど、あんなに怖い人たちが普通に出歩いている世界だとしたら、遠慮させていただくことになるわ」
自分の父親である国王やその周りにいた騎士と貴族たちをあっという間に殺してしまった五人組だが、殺しが挨拶みたいな感じに行っているような人たちは俺たちの世界でもレアなケースだと思う。
中には、そのようなことを自分の意志ですすんで行う者もいるのだが、そういった連中のほとんどは死刑になっているんだよな。そう考えると、瑠璃もうまなちゃんもイザーちゃんも愛華ちゃんも柘榴ちゃんもみんな死刑になってもおかしくはないと思う。
あの五人を捕まえられるような人がいればの話だが、彼女たちを捕まえるのは魔王でも無理なんじゃないかと思ってきた。
「ですが、あなた方の世界にもいつかは足を運んでみたいものですね」
「その際は安全な場所をエスコートして差し上げますよ」
俺は少し気取って貴族のようなポーズをとってみたのだが、ポンピーノ姫は苦虫を噛み潰したような顔で俺の事をじっと見つめていた。
「絵本も新しくしてお父様たちに皆さんの事を伝えておきますね。じゃあ、私はココで失礼いたします」
跪いて差し出した俺の右手の行方はどうすればいいのかわからないが、物事が少しでも前進したことは良しとしよう。
俺は戻した右手でそっと顔を覆っていた。




