王様リセマラ 第六話
観衆の視線を一身に受けていた愛華ちゃんはシュヴァンツ・フォン・アルシュロッホ九世に向かって銃を向けるとそのまま引き金を引いてしまった。
玉座から転がり落ちたシュヴァンツ・フォン・アルシュロッホ九世の体を支えに向う者と剣を抜いて愛華ちゃんに切りかかろうとするものが半々に分かれていたのだが、切りかかってきた者たちは例外なくうまなちゃんたちの手にかかって四肢が分断されていた。
あっという間の出来事であったために貴族の中には何が起こっているのか理解していないものが大半ではあった。そのままされるがままに命を落としていくものが大多数の中、何人かはこの場から逃げ出そうと扉を開けて出ていこうとしていたのだ。
しかし、そんな彼らも愛華ちゃんの銃弾によってその思いを打ち砕かれていたのだった。
「ねえお姫様。もっとちゃんと説明しておかなくちゃダメでしょ。この人たちを用意するのってそんなに簡単じゃないんだよ。次は失敗しないようにちゃんとするんだよ。じゃないと、愛華の銃もうまなちゃんの斧もお姉ちゃんの巨人も柘榴ちゃんの魔法も私の手もお姫様に向っちゃうことになるんだからね。私たちもそんな事はしたくないんだよ。出来れば、あの王様だって殺したくないんだからね」
ポンピーノ姫は両目一杯に涙を溜めながらイザーちゃんに向かって何度も何度も謝っていた。
あれほどの攻撃が繰り出されていたというのにポンピーノ姫が無傷だというのは奇跡なのかもしれないが、心には深い傷跡が刻まれているのだろう。
相変わらず俺は何もすることが無く黙って立っていただけなのだが、俺の周りにも血だまりが出来ているという事もあって動けなくて正解だったなと考えていた。
いや、俺の周りだけ血だまりが出来ていないという方が正しいのかもしれない。
「ポンピーノちゃんって自分のパパに強く言えない人なのかな?」
うまなちゃんの素朴な疑問にポンピーノ姫は戸惑っていた。
何か思うことはあるのだろうが、そんな事を聞いてどうするのだろうと思っていた。
しかし、ポンピーノ姫はうまなちゃんに対して恐る恐るといった感じではあったが質問には答えていた。
「お父様に対してですか。それなりに強く言うことは出来るのですが、お父様はあなた方冒険者たちの事を良く思っていないんですよ。先々代の国王陛下が冒険者によって酷い目に遭わされたことが合ったみたいで、その時から冒険者にはあまり頼らずに自国の騎士を育てるという方針になったみたいです」
「それは大変だったんだね。でも、そんな事は今関係ないよね。だってさ、ポンピーノちゃんがちゃんと王様を説得できなかったからみんな死んじゃったって事なんだよ。昔にどんなことがあったのかはわからないけど、その冒険者と私たちは違うんだからね」
「それはそうなんですが、その冒険者というのがこんな方なんです」
ポンピーノ姫が見せてくれた一枚の写真に写っているのは腰まで伸びている銀色の髪と口から少しだけ見えている牙が特徴的な少女だった。
髪の長さと着ているものが違うだけで、どう見てもイザーちゃんにしか見えない少女だったのだが、みんなから見られているイザーちゃんは落ち着きがない様子で写真とポンピーノ姫を交互に見ていた。
「いや、私に似てる女の子だね。でも、何年も前の話だったら私じゃないんじゃないかな。この写真の美少女だって今はすっかりおばあさんになってると思うよ」
「どうだろうね。この少女の牙も瞳の色もイザーちゃんと同じに見えるんだけど、それって偶然なのかな?」
「偶然似てるだけじゃないかな。あ、私だったとしてもヴァンパイアだから写真には写らないんだよ。ヴァンパイアは姿を反射させるものに写り込めないんだから私じゃないって事だね」
「大丈夫ですよ。イザーさんの姿は普通に写真に残りますから。ほら、見てくださいよ」
愛華ちゃんが持っているタブレットにはイザーちゃんが戦っている様子もしっかりと記録されていた。
あらためてみると、イザーちゃんはその怪力をもって敵を引きちぎるというえげつない戦い方をしているのだと思い知らされる。完全に戦意を失っている相手に対しても容赦なく体を真っ二つにしているのだが、そんな事をこんな少女がするなんて思えないよな。
「あれれ、いつの間にか私も写るようになってたのかな。でも、私の姿が映像として残ってたとしても、この写真の美少女は私ではないと思うな」
「そうなのかな。私の所にイザーちゃんが初めて来たときはこれくらいの髪の長さだったと思うよ。私と同じ髪型にしたいって言ってすぐに切っちゃったけど、あんなに綺麗で長い髪なのにもったいないなって思って見てたもん」
「私もその場に立ち会ってましたわ。イザーちゃんがうまなさんの担当美容師さんにお願いして髪を切ってもらってたんだったわね。家に帰ればその時の映像も残っていると思うので、そこで検証してみてもいいんじゃないかと思うわ。あら、よくよく見てみると、イザーちゃんが来ていた服と写真の服が同じだったような気がするわ」
イザーちゃんがあんなにとぼけるなんて余程のの出来事があったという事なのか。
その話はきっと聞けないと思うけれど、どんな事をしたらそこまで嫌われてしまうんだろうな。教えて貰えたら嬉しいなと思いながらポンピーノ姫を見ていたのだけれど、詳しいことは聞かされていないような感じだと思う。
タイミングが合えば、王様に聞いてみようかな。




