王様リセマラ 第二話
「ちょっと待って、君がそのまま向かっても返り討ちに遭うだけだよ。その事は君自身が一番よく知ってるんじゃないかな。だから、君がみんなに指示を出さなくちゃダメだよ」
また誰かもわからない声が聞こえてきた。
何処から話しかけてきているのだろうと思って周りを見回しているのだが、その姿はどこにも見当たらない。
「私の姿は見えないよ。君がもう少し強くなったら見えるかもしれないけど、今はごめんね」
「いったいお前は誰なんだ?」
「そんな事はどうでもいいコトじゃないかな。それよりも、君がこの場を乗り切るためにはどうすればいいか知りたくはないかな?」
「知りたいけど、誰かもわからないお前の言葉を信じて良いのか?」
「信じたくないんだったらそれでもいいけど、そうなったら君は死んじゃって別の君と入れ替わることになっちゃうだけだよ。それでもいいんだったら、そうしなよ」
俺が無策であの怪物に立ち向かっても死ぬだけなのは間違いないだろうな。
俺が死んだとしても、きっとイザーちゃんが別の世界の俺を連れてくるだけだとは思うんだけど、そうなった時に俺は今までの俺ではない別の俺になってしまうという事だ。
俺が俺ではない俺になる。全く理解の出来ないことではあるが、別の俺になったとしてもみんなは今までと同じように接してくれるとは思う。
でも、俺はそんな事を望んでなんていない。
あれ、よく見るとみんな動きが止まっているんじゃないか。
みんなだけではなくあの怪物も松明の火も何もかも止まっている。
全てが止まっている間にあの怪物を殺すことが出来れば怪しいやつの話を聞かなくても何とかなるかもしれない。
よし、うまなちゃんの持っている斧を使ってあの怪物を殺してしまおう。
「それはやめた方が良いと思うよ。君にはあの斧は持てないと思うし、私から離れると止まっていた時間が動き出すからね。嘘だと思うなら試してみてもいいんだよ。その場合は、間違いなく死ぬだけだと思うけど」
「じゃあ、どうすればいいのさ」
たぶん、俺に話しかけているこいつは本当のことを言っているのだろう。目的は不明だが、俺に死んでほしくないという事なのだろうな。
「とても簡単なことだよ。君の仲間たちにあの魔王に向かっていくように言えばいいだけさ。さっきみたいに君が指示を出せば君の仲間たちは自分の思うがままに戦ってくれるよ」
「さっきみたいにって、俺は何の指示も出したつもりなんて無いんだけど」
「指示を出したつもりはないのかもしれないけど、みんなは君が扉を開けたことを突撃の合図だと理解したって事なんじゃないかな。君の意志に関係なく、相手には伝わっちゃってたって事だね」
「間違って伝わるってのは良くないよな。その事が原因で誰かが怪我をしたり命を失う事になったら後悔してもしきれないよ」
「それは大丈夫じゃないかな。君の意図とは違う伝わり方だったとしても、あの子たちはこの世界で怪我をすることはないと思うし、命を落とすことなんてありえないと思うよ。ま、君は別だけどね」
「それってどういう意味?」
「どういう意味って言われてもね。君は特別だけど何の力も持っていない普通の人ってだけさ。彼女たちは特別な力を持った特別な存在って事だよ。彼女たちは君の命令を待っている忠実なる下僕みたいなものかな。あ、倫理観を問われるような命令はしない方が良いよ。その時は良いかもしれないけど後々面倒なことになるかもしれないからね」
「そんな命令なんてしないよ。みんなまだ子供だし、大人である瑠璃は俺の妹だからな」
「ふ、そんな強がり言って可愛らしいね。そういうわけだから、君があの魔王を倒すようにみんなに命令すればいいって事だよ」
さっきの戦いを見ていてみんなが強いという事はわかったけれど、あの魔王はさっきの怪物たちよりも倍以上大きいし圧倒的な威圧感を備えている。
あれだけ強いみんなが協力すれば何とかなるのかもしれないけど、そんな事をさせても良いのかと考えてしまう。
「グダグダ考えても今の君に良いアイデアなんて浮かんでこないよ。ほら、心を決めてみんなに指示を出しちゃいなよ。その方がみんなのためにもなるんだよ」
急かされたからではない。
あの魔王が怖いというわけでもない。
俺はみんなを信用している。
ソレだけが理由なのだ。
俺は魔王に少しずつ近付いてった。
散歩ほど進んだ時に周りの時が動き出したのを感じ取り、それと同時にみんなにあの魔王を倒すように指示を出した。
全弾撃ち切ったと思っていた愛華ちゃんが立ち上がった魔王の両膝を打ち抜くとそのまま魔王は前のめりに倒れかかってきた。
地面に手をついて体勢を立て直そうとしている魔王の腕をうまなちゃんが斧で切り落とし、魔王はそのまま顔から地面に崩れ落ちた。
瑠璃が自分の影から呼び出した巨人は両腕が無いものの残っている足で魔王の頭を踏み続けている。
魔王の手足は少しずつ再生しようとしているのだが、それを拒むように柘榴ちゃんの光の玉が魔王の体を破壊し続けていた。
巨人が消えた後に残った魔王をイザーちゃんは殴り続けていた。
そんなに攻撃しなくても良いのではないかと思うくらいにみんなの攻撃は止まらない。
攻撃が延々と続いているのだが、一方的に攻撃されているはずの魔王が死にそうな気配は全く感じられなかった。
みんながどんなに攻撃しても、魔王に致命傷を与えることは出来ていなかった。
「特別じゃない普通の君だけが出来る特別なコト。それは、魔王にとどめを刺すことだよ」
一瞬だけ止まった時が動き出した時、俺は動くことのない魔王に向かって思いっきり右手を振りぬいた。
生まれて初めて何かを殴ったのだが、その手には何の感覚も残っていなかった。
俺の攻撃を受けた魔王はこの世の物とは思えぬような絶叫をあげてからゆっくりと崩れ去っていった。
みんな何が起こったのか分かってはいなかったが、魔王の息の根を止めたという事だけは間違いないようだった。




