悪魔狩り 第十四話
人間の限界というものは意外と超えることが出来るモノなのだが、俺たちの腹はその限界をとっくに超えていたのだ。最後の最後に飲んでしまったラムネが俺の胃を完全に塞いでしまっていたのだった。
「まあ、今回は私たちも時間をかけすぎてしまったという事が原因かもしれないよね」
「そうですね。美味しいものを作ろうという気持ちが強すぎたのかもしれないですね」
瑠璃もうまなちゃんも今までに見たことが無いような悲しい顔をしていた。
その表情を見ていると、焼きそばのおかわりを一回で止めなかったのかという思いで胸が一杯になってしまった。罪悪感で胸も一杯になってしまっていた。
瑠璃とうまなちゃんの間にたこ焼きを通して新しい友情が芽生えていたらいいな。
そんな事を考えながらもお腹がいっぱいで苦しい思いをしていたのだが、もしかしたら二人は俺たちの事を嫌いになっていたりしないかなとも不安になっていた。
俺たちを見ている瑠璃とうまなちゃんの表情がいつも以上に暗いのも気になっていたのだけど、それ以前に俺たちの方を向こうとしない二人の事が気になってしまった。
「どうしよう。本当にお腹いっぱいなんだよね。うまなちゃんとお姉ちゃんが作ったたこ焼きを食べたいんだけど、これ以上何かを口にしたら戻してしまいそうなんだよ」
「わかります。私も少し調子に乗り過ぎてしまったみたいです。作るのも夢中になってしまって真琴さんにたくさん焼きそばを食べてもらうことになっちゃったし」
「それを言うんだったら私もいけないですよね。自分のキャパが少ないのを忘れてたくさん食べちゃってましたからね。食べられなかったものをお兄ちゃんに食べてもらってたりもしてたんで、私がもう少し食べることが出来たらあの二人が悲しそうな顔をしなくて済んだのかもしれませんよね」
「単純に俺が食べ過ぎてしまったのが原因だよな。焼きそばが美味しすぎてたこ焼きの事をすっかり忘れてしまっていたもんな」
俺たち四人は固まって小さな声で話し合っていた。
瑠璃とうまなちゃんに聞かれないように注意していたのだが、少しずつ三人の意見が反省から俺を凶弾するような流れになっていっているような気がしてきた。
「確かにお兄ちゃんの言う通りかもね。私たちは女の子だからそんなに食べられなかったと思うんだけど、お兄ちゃんは愛華が作った焼きそばを馬鹿みたいに食べてたもんね」
「そうですね。たくさん食べてくれるのは嬉しいんですけど、物事には限度ってものがあると思うんですよね。焼きそばは出来たてじゃなくても良いと思うし、パックに詰めてるんだから持ち帰って後で食べてくれても良かったんですよね」
「お兄ちゃんが夢中になって食べてしまう程愛華さんが作ってくれた焼きそばが美味しかったのは認めますけど、大人なのに後の事を考えていないというのはどうかなと思ってしまいますよ」
「そうなんだよね。兄貴は昔からそんな感じで肝心な時に失敗することが多いんだよ。私もうまなちゃんも美味しいたこ焼きを作ったのに、残念だな」
「何となくお兄ちゃんがそんな感じなんだろうなって思ってはいたんだよ。でも、今回は私たちも待たせ過ぎたってのがあるからね。それでも、一つくらいは食べてほしかったな」
食べていないのはイザーちゃんたち三人も同じはずだと思ったのに、俺だけがどうしてこんなに責められているのだろう。
不思議に思いながら一人ずつ見ていると、イザーちゃんも愛華ちゃんも柘榴ちゃんも俺に言わずにたこ焼きを食べているのだ。お腹いっぱいと言っていた三人だったが、良い感じにお腹に隙間が出来たみたいで、美味しそうにたこ焼きを食べていたのだった。
完全に裏切られてしまったと思っている俺ではあったが、よく考えなくても三人は別に裏切っているわけではないのだ。どちらかというと、みんなが言うように俺が焼きそばをたくさん食べたことの方が瑠璃とうまなちゃんの気持ちを裏切ったという事になってしまうのだろうな。
俺も美味しそうなたこ焼きの匂いに手を伸ばそうとするのだが、美味しそうな匂いが逆に俺の胃を刺激して何かがこみ上げてきそうになっていたのだ。
ココでそんな失態をさらすわけにはいかないし、そんな事をしてしまったら明日からどんな顔でみんなの前に出ればいいのだろう。平気な顔をしてみんなと過ごすことなんて出来なくなってしまうな。
「本当に美味しいね。たこ焼きってそんなに変わらないと思ってたけど、似たような作り方をしている二人でもこんなに違いを生み出せるなんてびっくりだよ。馬ちゃんのたこ焼きが美味しいのは前から知ってたんだけどさ、お姉ちゃんの作るたこ焼きもこんなに美味しいって驚きだよね」
「私は出来立てのたこ焼きを食べるのは初めてですけど、想像以上に熱くてやけどしそうだなって思ったのに美味しいって思えるのは凄いことですわ。熱いと味がわかりにくいんじゃないかって思ってた私の価値観がひっくり返ってしまいましたもん」
「私もたこ焼きを作ったことはあるけど、二人みたいに綺麗で美味しく作ることは出来なかったですよ。生地が足りなくてやたらと不格好な感じになることが多かったな。生地を足しても上手に焼けなかったし」
五人で楽しそうにしている輪に俺がいないのは少し寂しかったけど、ここで俺が余計なことを言って輪を乱すのは良くないと思う。
瑠璃も含めて若い女の子が楽しそうに料理の話をしているのも見るだけでも良いものだな。
そんな俺の考えを知ってか知らずか、柘榴ちゃんがトコトコと駆け寄ってきて他の人に聞こえないように話しかけてきた。
「もう少ししたらお二人がたこ焼きの焼き方を教えてくれるみたいですよ。その時にはお兄ちゃんのお腹も落ち着いていると思いますし、一つくらいは食べてくださいね」
「そうだね。そうさせてもらうよ。でも、出来るだけ時間は遅い方が良いかな」
「作るのも時間がかかるみたいだから大丈夫だと思いますよ。そう言えば、たこ焼きって美味しいのに海外ではほとんど知名度が無かったんですって」
「そうなんだ。手軽に食べられるのに不思議だね」
「だって、国によってはタコって悪魔だと思われているみたいですからね。こんなに美味しいのに悪魔だって言われてかわいそうですよね。こんなに美味しい悪魔だったら、私はいくらでも食べちゃいたいですよ」




