悪魔狩り 第九話
うまなちゃん主催のたこ焼きパーティーにやってきた栗鳥院柘榴は手土産としてたこ焼きを買ってきたのだった。
これからみんなでたこ焼きを作って食べるという事をイマイチ理解していなかったようで、彼女としてはみんなで持ち寄ったたこ焼きを食べるくらいにしか考えていなかったのかもしれない。
「ごめんなさい。これからみんなでたこ焼きを作るという事を知らなかったもので」
「良いの良いの。たこ焼きなんてどれくらいあっても困らないから。うまなちゃんがちゃんと説明せずに誘ったのも悪いんだからね。私達だって今日の晩御飯がたこ焼きになるなんて思ってなかったから」
「そうですよ。柘榴さんは何も悪くないですって。それに、たこ焼きが出来るまで時間もかかっちゃいますし、柘榴さんがたこ焼きを買ってきてくれたおかげで待ち時間に美味しいたこ焼きが食べられるんで良いと思います」
俺もたこ焼きパーティーに参加するのが初めてだったので栗鳥院柘榴がたこ焼きを買ってきたのを見て少し焦ってしまった。たこ焼きなんてすぐに出来上がるモノではないから完成するまでに軽くつまめるものを買ってくるのが常識なのかと思ったくらいだ。
何年か前に家族でタコ焼きやお好み焼きを作るのが流行っていた時期があったけれど、その時も俺はずっと自分の部屋に引きこもっていたので完成したものを見ただけだった。
瑠璃の中で急にたこ焼きブームが去ったのかそれ以降はたこ焼きを食べる機会も無くなっていた。高校生だった瑠璃と同じようにうまなちゃんも急にたこ焼きブームがきたのかもしれないな。
「たこ焼きパーティーが良くわかってないんですけど、私達って何をすればいいんですかね?」
「お皿を出したり飲み物を配ったりするだけでいいんじゃないかな。たこ焼きを焼くのはあの二人に任せて良いと思うよ。というか、横から口とか手を出したらあの二人に怒られそうだもん」
「確かに、たこ焼きを焼くだけだっていうのにあの二人には鬼気迫るものがあるね」
当たり前のように用意されている本格的なたこ焼き屋台が二つ向かい合っているのだが、その屋台には瑠璃とうまなちゃんがそれぞれメイド服を鎮座していた。
普段はメイド服を着ている愛華ちゃんの私服姿も貴重だが、うまなちゃんのメイド姿もなかなか様になっていて可愛らしい。瑠璃もそれなりに着こなせて入るのだけど、実の妹のメイド姿というのは見ていて気恥しいものがあるモノだ。
「食材は全部同じものを用意してあるからね。私とお姉ちゃんの純粋な腕の差でみんなに審査してもらうよ」
「あら、同じ食材でいいのかしら。うまなさんの方が良いものを用意した方が良いと思うんだけど。今からでも食材を変えてもらっても遅くはないと思うわよ」
「大丈夫ですよ。私はパパにもママにも褒められるくらい上手だし。お姉ちゃんのほうこそ、ずっとお料理してないみたいだけど火加減とか大丈夫かな?」
「その点は心配いらないわ。ココに初めて来たときにこの屋台を見つけて何回か作らせてもらったからね。それに、私は昔からたこ焼きを焼くのが上手だったんだから。兄貴も美味しいって言ってくれてたもんね」
たこ焼きパーティーという話を聞いていたのだが、いつの間にかパーティーではなく勝負になっていた。俺はもちろんそんな話は聞いていなかったのだが、それは他の三人も同じだったらしい。
俺と栗鳥院柘榴が戸惑うのはわかるが、普段冷静なイザーちゃんと愛華ちゃんも戸惑っているのは余程の事だろう。
今日は滅多に見ることが出来ないようなことがたくさん見られるなと思ってしまった。
「ルールはいたってシンプルよ。私とお姉ちゃんの作ったたこ焼きを食べた四人にどっちが美味しかったかを決めてもらうだけね。ココに用意した食材以外にも自分で用意したものがあれば隠し味として使っていいからね。私は特に用意してないけど、お姉ちゃんは何か入れちゃった方が良いと思うな」
「ココにある食材だけで十分よ。うまなさんにはたこ焼きの本当のおいしさを教えてあげるわ」
「そんなに自信満々で大丈夫なのかな。私の作ったたこ焼きを食べてその自信が無くならなければいいけどね」
二人が同時に鉄板に油をひいてたこ焼きづくりを開始していた。
同じようなタイミングで同じような行動をしている二人は同じメイド服を着ているという事もあって鏡に映し出されている姿を見ているようだった。
瑠璃のたこ焼きが美味しかったのは事実だが、うまなちゃんがあれだけ自信を持っているという事はうまなちゃんの作るたこ焼きも相当期待できるかもしれない。
「うまなちゃんの作るたこ焼きってそんなに美味しいの?」
「美味しいよ。たこ焼きだけじゃなくてお好み焼きも焼きそばも作るのは上手だね。小さい時に行ったお祭りで食べた粉物が美味しかったみたいで、自分でも作りたいって言って午彪と奈緒美にあの屋台を用意させたくらいだから。でも、最近はあんまり作ってなかったのに急にどうしたのかな」
「もしかしたら、この前うまなさんが先生と二人でたこ焼きの話をしてたのが理由かも。先生が真琴さんにたこ焼きを作ってあげたことがあるって話をしてて、その時にうまなさんが先生よりも美味しいたこ焼きを作れるって言ってたことがありました」
「そんなに熱くならなくてもいいのに。俺はどっちが作っても美味しいって思っちゃうかもな。柘榴さんが買ってきてくれたたこ焼きも美味しいしね」
俺たちは栗鳥院柘榴が持ってきたたこ焼きを食べながら二人の様子を見守っていた。
出来てからそれなりに時間が経っているはずのたこ焼きだったがとても美味しく、俺はこれを食べるだけでも満足していたのだった。
「喜んでもらえて嬉しいです。あと、出来れば私の事も皆さんのようにちゃん付で呼んでいただけますか?」
「ちゃん付で?」
「はい、私も皆さんのように真琴さんの事をお兄ちゃんと呼びたいので」
「良いね、お兄さんも柘榴もみんな仲良く出来たらいいよね」
「そうですね。私も柘榴さんと仲良くなりたいです。買ってきてくれたたこ焼きも美味しいですし」
たこ焼き勝負をしている二人とは対照的に和気あいあいとした空気が流れている。
いや、たこ焼き勝負をしている二人も楽しそうにしているし、案外あの二人の間にも和気あいあいとした空気が流れているのかもしれないな。




