ついてる子
俺の住んでいる寮にはフリースペースが異常に多い。
いくつかは学校に通っている生徒や職員のために解放されてはいるのだけれど、学校から離れた場所にあるという事もあって利用者はほとんどいない。
そんなフリースペースの一角を利用してカフェを経営することになったのだ。
うまなちゃんの思い付きで始まったカフェではあったが、世界各地を飛び回っている午彪さんと奈緒美さんの協力もあってメニューは多国籍化を遂げていた。およそカフェでは取り扱わないだろうというメニューも存在しているのだが、そういった商品は一週間前からの予約が必須なので定番の商品以外はほとんど売れたことがない。
「こんなに暇なのにボクを雇って平気なんですかね?」
「大丈夫じゃないかな。うまなちゃんが思い付きで始めたことなんだし、珠希ちゃんはそんな事を気にしなくても大丈夫だよ」
「それならいいんですけど。ボクみたいな半人前でもいいのかなって思ってるんです」
「大丈夫。俺も半人前みたいな感じだから」
一人でカフェをやるのは無理だろうという事でイザーちゃんが連れてきてくれたのが珠希ちゃんだった。
彼女はこことは違う世界線の地球ではない別の惑星から連れてきたそうなのだが、そんな事をしても良いのかと心配になっていた。
「でも、ボクみたいな犯罪者でもここで働いていいんですかね?」
「犯罪者ってのは聞いてるけど、どんなことをしたの?」
「ちょっと長くなるんですけど、お客さんもいないし聞いてもらえますか?」
くりくりとした金色の瞳で見つめてくる珠希ちゃんはとても犯罪者とは思えなかった。
どんな罪を犯したのか興味のあった俺は詳しく聞くことにしたのだけれど、その話を俺はどんな気持ちで受け止めればいいのだろうかと考えてしまった。
珠希はとある惑星にある小国のメイドとして働いていた。
資源が何もないその国は芸術分野で他の国に影響を及ぼすことが多く、文化的にとても発展していたのだった。
ある時、その国の芸術家が披露した劇があったのだが、その劇の内容を知った独裁国家の元首が一方的に珠希の国に侵攻し、あっという間に珠希の国は滅亡してしまったのだ。
たまたま国外で活動をしていた珠希は直接の被害に遭うことは無かったのだ。
一方的な戦争行為を多くの国が批判したのだが、あっという的な軍事力を誇る独裁国家に直接意見を言うことの出来る国はなく、この件をきっかけに世界は恐怖に支配されるのであった。
絶望に包まれた世界に希望はなく、神にも祈りは届かない。珠希は悪魔でも何でもいいのでこの状況を変えてほしいと願ってしまった。
その願いは、イザーちゃんのもとへと届いたのであった。
「そんな事があって私はイザーさんに助けてもらったんです」
「助けてもらった。で、話は終わったって事?」
「そうですよ。私はイザーさんに助けてもらったんです。あの恐怖で支配された世界をイザーさんに救ってもらったんです」
「それだけだとして、珠希ちゃんは何の犯罪に問われるの?」
「えっと、独裁国家の元首と幹部連中と戦争に加担してた人たち全員をこの手で殺したんです。もちろん、血縁者に関係者も全員この手で殺しました。やり過ぎだって声もあったんですけど、私の大切な人たちもみんな心されちゃったんで仕方ないですよね。イザーさんはボクは悪くないって言ってくれました。店長は、ボクは悪い子だって思いますか?」
珠希ちゃんの金色の瞳が輝きを失っているように見えていた。
人の命を奪うことに対して何の罪悪感も無いような深い闇のような瞳に見つめられている俺は、首を横に振ることしかできなかった。
「そうですよね。ボクは何も悪くないですよね。もとはと言えば、あいつらが攻めてきたのが悪いんですもんね。店長はわかってくれてよかったです」
いつものように透き通るように綺麗な瞳に戻った珠希ちゃんは新しく入荷したカップを手に持ったまま嬉しそうにくるくると回っていた。
勢いよく回っていたこともあって制服のスカートがめくれ上がりそうになっていた。
「こんなに狭い場所でそんなにはしゃいじゃ駄目だよ。スカートが引っかかって食器が落ちちゃうかもしれないでしょ」
「はーい、ごめんなさい。でも、可愛い制服に合うパンツをイザーさんにプレゼントしてもらったんで店長にも見てもらおうかなって思ったんです。店長は僕の新しいパンツ、見たいですか?」
「そう言うのは良いから。落ち着いて仕事しようね」
「わかりました。でも、イザーさんがデザインして愛さんが作ってくれた特別製のパンツなんですよ。ほら、ボクってみんなと違って余計なものがついてるじゃないですか。だから、それが干渉しないように穴をあけてくれたんです。こんなに可愛いのに邪魔にならないって、凄くいいですよね」
珠希ちゃんは新しいカップを並べているのだが、テンションが高くなっているのがその様子から見てとれた。
何かの曲に合わせているかのように体が左右に揺れているという事もあるのだけれど、それ以上にスカートから出ている毛並みの良い尻尾が左右に大きく揺れていた。
嬉しいことがあったときの動物のように尻尾を揺らす珠希ちゃん。
俺はその尻尾に当たらないように後ろを通ろうとした。
「店長、ボクの尻尾に触りたいんだったら遠慮しなくてもいいですからね。先っぽだけだったら触ってもいいですよ。先っぽだけですからね」
俺はその尻尾に触れないようにそっと通り抜けようとしたのだが、珠希ちゃんの尻尾は俺の手に向かって揺れているように見えていたのだった。




