誘拐事件 最終話
うまなちゃんとイザーちゃんは髪の色と目の色が違うだけで双子だと言われれば信じてしまうくらいに似ている。その辺も金色の天使と銀色の悪魔と間違われた原因の一つだろう。
「うまなちゃんが説明してくれたおかげで私が銀色の悪魔じゃないってわかってもらえたみたいだよ。私は悪魔じゃないって何回も言ってるのにね。お兄さんが否定してくれなかったのも悪いんだからね」
「ごめんごめん。色々とビックリすることがあったからそれどころじゃなかったんだよ」
「別にいいんだけどね。でも、うまなちゃんって他の世界でも天使って思われてそうだよね。誰が見ても慈愛の心に満ちてるって感じだもん」
誰に対しても優しいうまなちゃんだからこそ、誘拐されても擦り傷一つなかったのだろう。殺された誘拐犯も乱暴に扱ったりしなかったようだし、優しさは他の人だけではなく自分も幸せにするという事を体現しているようだ。
「見た目が似てるんだから私の事も天使って思ってくれてもいいのにね」
「そうだね。イザーちゃんも優しいから天使だって思ってる人がいるかもしれないよ」
「お兄さんがそう思ってくれればいいよ」
突然の上目遣いと舌を出したいたずらっ子のような表情に俺は思わず目を逸らしてしまった。
「私は悪魔じゃなくてヴァンパイアだからね」
吸い込まれそうなくらいキレイな瞳で真っすぐに見つめるイザーちゃんはゆっくりと俺に近付くと、ずっしりとした何かを俺のポケットに入れてきた。
少しだけ嫌な予感がしたけれど、ポケットの中に入っていたのは銀色に光る十字架だった。
「悪魔もヴァンパイアも銀で出来た十字架なんて怖くて持っていられないんだよ。だから、それはお兄さんにあげるね」
イザーちゃんは俺に小さく手を振るとそのまま瑠璃と愛華ちゃんの所へ向かっていった。
一人取り残された俺は受け取った十字架を何となく見ていた。
今まで見たことのあるシルバー製品よりも光沢があるようにも見えるのだが、光を吸収しているようにも見えていた。不思議な気持ちになりながら見つめていると、うまなちゃんたちが俺の持っている十字架に興味を示してきた。
うまなちゃんと三人の男は俺の持っていた十字架をじっと見つめていた。
何かを言うでもなくただただじっと見つめている。
俺はその沈黙に耐えられなくなって口を開こうとした瞬間、三人の男たちが嬉しそうに話をし始めた。
「凄いものをお持ちですな。それは我らが神に祝福された聖なる十字架にそっくりですよ」
「私も実物は二度ほどしか見たことがありませんが、これほど神々しいとは感じませんでした」
「いやはや、この世界に来た時はどうなることかと思いましたが、金色の天使様に加えて聖なる十字架にも出会うことが出来るなんて素晴らしいですな」
何か特別な力がありそうだとは思っていたけれど、そこまで凄いものなのだろうか。
神に祝福された聖なる十字架を持っていたのが銀色の悪魔と呼ばれたヴァンパイアの女の子だというのを知ったらこの三人はどんなリアクションをとるのだろう。少しだけ面白そうだと思ってしまった。
「でも、それってイザーちゃんが持ってたやつだよね。あんなに大事にしてたのに、お兄ちゃんにあげたんだ。ちょっと意外かも」
うまなちゃんが言ったイザーちゃんが持っていた十字架という言葉を聞いた三人は明らかに動揺していた。今まで見た映画やドラマでもここまで大げさに動揺なんてしないだろうと思うくらいに動揺していた三人は集まって相談事を始めていた。
「どうしちゃったんだろう。私が変なコト言っちゃったって事なのかな?」
「そうかもしれないね。この人たちはイザーちゃんの事を悪魔だと思ってるみたいだからね。十字架を持ってたのがその悪魔って事で驚いてるんじゃないかな」
「イザーちゃんは悪魔じゃないのにね。でも、神様の十字架を持ってるってことはイザーちゃんが悪魔じゃないって証明になってくれるんじゃないかな。そうだといいな」
話し合いがまとまった男たちは申し訳なさそうな顔で十字架を見せてほしいと頼んできた。
特に断る理由もない俺は十字架を三人に手渡したのだ。
男は十字架を素手で触らないように袖を伸ばして受け取ると、他の二人も同様に袖を伸ばして素手で触れないようにして十字架を受け取っていた。
三人とも右手で十字架を受け取って左手は口元を隠していた。そこまでされると普通に持っていた俺が悪いことをしていたように思えてしまったが、うまなちゃんはそこまでたいそうな物じゃないのにと俺をかばうようなことも言ってくれたのだ。
「ありがとうございます。私たちがこの世界にやってきた理由が今わかりました。いつか元の世界に戻れた際にはこの経験を未来永劫語り継ぐことになるでしょう」
「銀色の悪魔などと失礼なことを言ってしまったことを悔やむばかりです」
「さすがは勇者真琴様とそのお仲間ですな。私たちも出来ることがありましたら協力いたします」
三人は今までの様子が嘘だったかと思えるくらいに幸せそうな顔で笑っていた。
つい先ほどまでは恐怖に慄いていたとは思えないくらいだった。
「お兄ちゃんの事を勇者真琴って言ってたけど、お兄ちゃんってあの人たちに自分は勇者だって自己紹介でもしてたの?」
「そんなわけないよ。そもそも、自己紹介なんてした覚えはないよ。俺はあの三人の名前も知らないからね」
なんであの三人は俺の名前を知っているのだろう。
いや、名前を知っている以前に、俺は勇者ではないぞ。
そう言いかけたけれど、イザーちゃんの話を信じるのなら、俺は勇者だったんだよな。




