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(お嬢様+サイボーグヴァンパイア+天才女子高生)÷妹=新世界誕生  作者: 釧路太郎
誘拐事件

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誘拐事件 第八話

 黒い布の下から這い出てきたのは死んでいたはずの三人だった。

 何でも有りな世界だと思っていたけれど、さすがに殺した人を生き返らせるというのは反則過ぎる気がしていた。


「何とかうまく行ったみたいだね。本当のことを言うと、お姉ちゃんは失敗しちゃうんじゃないかと思っていたんだ。でも、お兄さんの応援の甲斐もあって成功したみたいだね」

「自分で言うのもなんだけど、私も成功するなんてこれっぽっちも思ってなかったよ。もう一度やってくれって言われても、とてもじゃないけど成功するとは思えないね」


 瑠璃もイザーちゃんも俺以上に驚いているようだ。目の前で起こっていることを理解出来ていない俺とすべて理解している二人の違いと言えばそうなのかもしれないが、死人を生き返らせた張本人の瑠璃が驚いているというのは何ともおかしなものだと思った。


「愛華ちゃんが銃を撃ったりイザーちゃんがあっさり人を殺したりするのはどうかしてるって思ったけど、こうして死んだ人を生き返らせることが出来るんだったら納得出来るかもしれないね」


 二人とも気まずそうにしている。生き返らせることが出来るとはいえ、さすがに人を殺すことに罪悪感があるみたいだ。もしも、罪悪感が無いのだとしたら、俺は二人に対してどう接すればいいのかわからなくなってしまいそうだ。


「あの、お兄さんはお姉ちゃんがこの人たちを生き返らせたと思ってるの?」

「うん、だって、さっきまでピクリとも動かなかったのに今は動いてるじゃない。イザーちゃんに怯えて壁際に逃げちゃってるけど、死んでる人の動きではないよね?」

「まあ、生きてるという事には変わりないけど、お兄さんが考えているのとは少し違うかも」


 布の下にいたのは愛華ちゃんとイザーちゃんに殺された三人だった。そこまでは何一つ間違いではない。それは揺るぎのない事実なのである。

 だが、今布の下から出てきた三人は愛華ちゃんとイザーちゃんが殺した三人とは違う三人だという。よくわからないが、どこからどう見ても先ほどイザーちゃんが殺した人と同じにしか見えないのだ。

 そこが良くわからないのだけれど、今目の前にいる三人は先ほどの三人とは全く別人だが同一人物だという。

 別人で同一人物というのはどういうことなのか、俺の頭ではとても理解出来そうになかった。


「兄貴ってさ、この世界以外にも似たような世界があるって言うのは信じてくれてるんだよね?」

「ああ、にわかには信じがたいけれど、イザーちゃんが見せてくれた色々なことや聞かせてくれた話から本当に似たような別の世界があるって言うのは理解したよ。でも、その別の世界がどう関係してくるの?」


「凄く凄く簡単に説明するとね、私たちが今こうして暮らしている世界ととてもよく似た世界があるんだよ。そこでは何もかもこの世界と同じように見えるんだけど、細かいところが全然違ったりするんだ。例えば、見た目がお姉ちゃんなのに性格を含めた中身が全くの別人だったりするのね。もちろん、お兄さんそっくりな人もいるけど、見た目が似ているだけでお兄さんとは全くの別人なんだ。見た目が同じで同じ場所で暮らして同じように過ごしてきたはずなのに、性格も人格も考え方も何もかもが全く違う別人だったりするんだよ」


「この世界ととてもよく似ている世界にいる俺は俺であって俺ではない別の誰か。そう思って良いって事?」

「そう思ってもらうのが一番わかりやすいかな。でも、お兄さんみたいに優しい人はどの世界に行っても基本的には優しい人だと思うよ。少なくとも、自分から進んで犯罪をするような人にはならないと思うんだ。善と悪という言葉を使うのはあまり好きじゃないんだけど、良い人は悪い人にはならないし、悪い人も良い人にはならないんだよ。なったとしても、良い人は良くない人に、悪い人は悪くない人にしかなれないんだ」


「それは何となく理解出来るんだけど、その話があの三人とどう繋がるの?」


 俺は壁際で固まっている三人を指さしていた。

 俺が見ているときも怯えてはいた三人であったが、俺につられてそちらを見たイザーちゃんと瑠璃の視線を感じた三人は悲鳴を上げて大粒の涙をこぼしていた。

 何がそんなに怖いのかわからないが、この三人はイザーちゃんと瑠璃に対して何か強烈なトラウマを抱えているのかもしれない。


 もしかしたら、この世界で自分たちが殺されているという事を本能が感じ取っているのかもしれないな。そんな事があるのかわからないが、そんな事があるような気もしていた。

 なぜなら、俺はうまなちゃんやイザーちゃんと初めて会った時に信用してもいい人だと感じ取っていたのだ。彼女たちの言葉が本当ならば、俺は彼女たちと別の世界で一緒に魔王と戦っていたという事らしい。

 その記憶が俺のどこかにあることが理由で、初対面である二人の事を無条件で受け入れていたのかもしれないな。


「この三人が何に怯えているのかはわからないけど、私たちが殺した人たちとは違ってそこまで悪い人ではないのかもしれないね。でも、なんでこんなに怯えているんだろう。私たちはまだこの人たちに何もしてないのにね」


 なぜか三人とも俺に救いを求めるような視線を送ってきていた。俺に出来ることなんて何もないというのに、三人は俺を救世主か何かと勘違いしているのかもしれない。

 俺が出来ることと言えば、この三人を殺さないでほしいと頼むことくらいだ。


「あのさ、この三人を殺すのはやめてもらっていいかな?」

「どういう意味なのかな?」

「どういう意味って、そのまんまの意味だけど」

「いや、私たちは別にこの人たちを殺すつもりなんてないけど」

「うん、殺すために呼び寄せたわけじゃないし」


 俺は二人が何をしたいのかさっぱり理解出来ないでいた。

 この三人はいったい何のためにココにやってきたのだろうか。

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