誘拐事件 第三話
犯人からの要求が何もないまま時間だけが過ぎていったのだ。
本当にうまなちゃんが誘拐されたのか疑問に思いつつある状況になっていた時、イザーちゃんのスマホにうまなちゃんからの連絡が入ったのだ。
ビデオ通話なのでうまなちゃんが無事だという事は確認できたので良かったのだけど、うまなちゃんの後ろにどう見ても日本人ではない男の人が三人立っているのが気になった。
映像を見る限りではうまなちゃんが怪我をしている様子も見られないのでそこは安心していたけれど、うまなちゃんの後ろに立っている男たちはそれぞれ武器のようなものを持っているので気を抜くことは出来ない。
「ほら、うまなちゃんは誘拐されてたでしょ。お兄さんが私の事を信用してくれないってのがわかっちゃったね。これで私たちも気兼ねなく行動出来るね」
「気兼ねなく行動しちゃダメでしょ。まずは警察に連絡してうまなちゃんの居場所を特定してもらわないと」
「そんな事したって時間の無駄だよ。それに、あいつらは魔王アスモデウスの生まれ変わりかその配下なんだから警察なんて役に立たないでしょ。逮捕したって何も解決しないんだからね」
「そうだよ。真琴さんはまだ事の重大さを理解してないみたいですね。私とイザーさんでうまなさんを助けるのが一番なんですよ」
「でも、やっぱり警察には届を出しておいた方がいいと思うんだけど」
「だから、そんな事をする必要はないって言ってるでしょ。お兄さんが何と言おうと私と愛華の二人でうまなちゃんを助けるんだからね」
「本当は真琴さんの力が使えれば一番なんですけど、それはまだ早いって事で気にしないでくださいね」
気にするなと言われても気にしちゃうでしょ。
それに、無事が確認できたとは言えうまなちゃんがどこにいるのかわかっていない状況には変わりない。居場所がわからないのにどうしてそんなに落ち着いていられるんだろう。
俺にはソレが不思議で仕方なかった。
「じゃあ、第二倉庫に向かわないとね」
「第二倉庫って、港にある倉庫?」
「うん、そうだよ。お兄さんって車の運転出来ないんだよね?」
「免許を持ってないから運転は出来ないけど。なんで第二倉庫なの?」
「なんでって、うまなちゃんがいるからに決まってるでしょ。お兄さんってたまに変なことを言うよね」
「ですよね。真琴さんって時々冗談にしては面白くないこと言いますよね」
第二倉庫にうまなちゃんがいると言い切ったイザーちゃんとそれを知っているかのような態度の愛華ちゃん。
俺には二人がうまなちゃんの居場所を確信している理由がわからなかった。それでも、自信満々に言い切った二人のいう事は間違えていないんじゃないかと思うには根拠が無さ過ぎたのだ。
二人がなぜうまなちゃんの居場所を自信満々に言えるのか謎だったが、理由を聞いて『女の勘』とでも言われた時には何と言って返していいのかわからない。
それこそ、冗談にしては面白くない答えだと言ってやろうかな。
「なんで第二倉庫なの?」
「なんでって、そこにうまなちゃんがいるからでしょ。お兄さんこそどうしてそんな事を言うの?」
「いや、うまなちゃんが第二倉庫にいるって言いきってるのはどうしてだろうって思ったから」
イザーちゃんと愛華ちゃんは同時にスマホの画面を見せてきた。
「ほら、うまなちゃんの現在地がこうやって表示されてるでしょ。これ以上ない根拠でしょ」
「そうですよ。位置情報がハッキリと示されているんだから間違いないです。ビデオ通話があるまではスマホだけこの場所にあるのかと思ってたんですけど、さっきの会話でうまなちゃん本人のスマホで通話してきたってのがわかったんですからね」
「あれ、もしかして、お兄さんってうまなちゃんと位置情報を共有して無いって事?」
「そんなわけないですよ。だって、うまなさんは真琴さんの事を気に入ってここに連れてきたんですからね。それくらいはしてるはずですよ」
俺は二人と目を合わさずに自分のスマホを見ていた。
位置情報共有とかそんな機能は知らないし、言われたこともない。
ずっと家に引きこもっていた俺には位置情報なんて知る必要もないことだったし。
「あ、お姉ちゃん。うまなちゃんの居場所が確定したよ。第二倉庫にいるみたいだよ」
「それって、向こうから連絡来たって事?」
「そうだよ。でね、お兄さんってうまなちゃんと位置情報を共有してないんだって。私はてっきり共有しているものだと思ってたよ」
「だろうね。兄貴はずっと引きこもってたし、使い方もわかってないだろうからって言ってうまなちゃんにだけ兄貴の居場所がわかるようにしてるんだよ。ほら、兄貴が女の子の居場所を知ってるのって何となく気持ち悪いでしょ」
「確かに。私もトイレとかお風呂に入っているのを監視されたくはないです」
「さすがに私もそれはイヤかも。お兄さんって細かく記録とかとって後で見せてきそうだもんね」
「そんなことしませんが。そんな事しても意味ないでしょ」
三人の視線が突き刺さるような感覚があったが、すぐにみんなでうまなちゃんを助けに行く準備を始めることにした。
瑠璃が運転する車に乗って第二倉庫に行くという事なのだが、四人だけで行動するのは危険だと思うのだが。
「大丈夫。兄貴は黙って見守ってくれればいいからね」
「そうですよ。私たちも魔王アスモデウスが相手なら手加減しなくて済みますからね」
「だから、お兄さんはうまなちゃんの無事を祈っててくれればそれでいいんだよ」




