最終話 異世界への繋がりと新世界への道程
転生した俺を探し出すのは時間がかかってしまったらしく、そのタイムラグが俺と瑠璃の年齢差として現れた。
瑠璃が俺の妹として転生したことで魔王アスモデウス軍の残党に見つかる可能性が出てきたそうなのだが、俺が見つからないようにするために俺を引きこもらせたという。そんなことが出来るのかと思ったけど、イザーちゃんであればそんな事もやってのけそうな感じはしている。
俺が引きこもりになったのはイジメに遭ったからなのだけど、裏でそれをさせていたのがイザーちゃんだと思いたくはなかった。
愛華ちゃんがこの世界に転生したのはいくら待っても瑠璃から連絡が来なかったかららしい。
向こうの世界での記憶が残っていない瑠璃が連絡をするはずがないと気付いたのは瑠璃がこの世界に転生してから五年ほど経過した後だったそうだ。
本来であれば記憶を残したまま転生することも出来たようなのだが、俺がいる世界線の同じ時間に転生させるためには記憶を犠牲にする必要があったようだ。詳しいことはわからないが、欲張って多くの事を望むよりも同じ時間に転生させる確率を上げる必要があったという事だそうだ。
瑠璃の中に残った向こうの世界の記憶は俺を守ることで、愛華ちゃんの中に残ったモノは天才的な頭脳だそうだ。それと、二人とも仲間を守るという気持ちはとても強いらしい。
ちなみに、先ほどまで俺たちと一緒にいた奈緒美さんはイザーちゃんがゼリーみたいな物体で作った人形に奈緒美さんの人格をコピーして作り上げたという事だ。
「イザーちゃんの話を聞いて気になることが一つあるんだけど、うまなちゃんは君たちにとっていったいどういう存在になるのかな?」
「それはちょっと難しい話なんだよね。愛華だとしてもお兄さんに理解してもらえるように上手く説明できないと思うんだけど。簡単に言うと、私が転生するはずだったこの世界の人間ってとこかな。もちろん、私は転生してないし転生する必要も無かったんだけどね」
「うまなちゃんとイザーちゃんが似てるのはそれが理由か。もう一つ聞きたいんだけど、イザーちゃんがしてくれ話って、愛華ちゃんの他に誰が知ってるのかな?」
「他に知ってるのは午彪と奈緒美だけだよ。あとでお姉ちゃんにも話そうとは思うんだけど、お兄さんから説明してみる?」
俺が説明したところで瑠璃は信じてくれないだろう。いや、昔から俺のいう事は何でも馬鹿みたいに信じているような奴だし、意外と俺の言ったことを受け入れて理解してくれるかもしれない。
でも、俺自身もイザーちゃんの話を完全に理解しているわけではないので、説明するというのは難しいことなのかもしれない。
「そうだね。私から説明することにするよ」
「そうしてくれると助かるよ。それともう一つ。あの鳥居っていったい何だったの?」
「あれはね、こっちの世界と他の世界を繋げるための出入口ってとこかな。向こうの世界の人達はこっちの世界を認識出来ないんで通ることは出来ないんだけど、お兄さんを探している魔王アスモデウス軍の残党は認識出来るみたいなんだよ。そんなに頑張らなくてもいいのにね」
「でも、その残党がいるからこそイザーさんが探しているモノを見つける可能性も高くなるんですよね」
「そうなんだけどさ、今の状況だとリスクの方が大きいんだよね」
二人の話を聞く限りでは、イザーちゃんはとても重要な何かを探しているようだ。
その探し物をするためには鳥居を使ってこっちの世界と向こうの世界を繋げる必要があるらしい。
こちらからは自由に捜索も出来るようなのだが、向こうの世界からはこちらの大体の場所しか特定出来ないらしい。だが、何もヒントが無い状態だった彼らからするとそんな些細な情報でも重要な手掛かりになっており、先ほどの奈緒美さんのように捕まえられてしまう可能性も高くなってしまうそうだ。
ただ、その鳥居も好きな時に好きなだけ使えるという事でもなく、別の世界と繋げるためにはそれなりのエネルギーが必要になるのだ。
そのエネルギーというのが、俺や瑠璃が知らない間に垂れ流している魔力だそうだ。俺としては魔力なんて言われてもピンとこないのだけど、同じ空間にいるだけで充分エネルギーが満たせているらしい。
「全部を理解してもらわなくても大丈夫だよ。お兄さんは少しずつでもいいんで、向こうの事を思い出してくれたらいいんだからね」
「それはそうと、イザーちゃんは何を探しているのかな?」
「簡単に言っちゃうと、魔王アスモデウスの魂ってやつだね。それを見つけて封印するなり始末しちゃうなりしないと、新たな魔王アスモデウスが誕生してしまうんだよ。それだけはどうしても避けたいからね。お兄さんみたいに強い人がいつの時代にもいるわけでもないからね」
「その魔王の魂もこっちに転生しているって可能性はないのかな?」
「あ、その可能性はあるかも」
「確かに。魔王がこちらに転生しているという可能性を考慮して無かったですね。さすがは私たちのリーダーですね」
何となく言った俺の一言が重要な意味を持ってしまったかもしれない。
それにしても、俺が引きこもる原因は名前についてい執拗にいじられたことだったのだが、そうするように仕向けたのがイザーちゃんだったかもしれないというのは何か引っかかるものがあった。
「それと、一応釘はさしておくんだけど、私が話したことはうまなちゃんに内緒にしておいてね。うまなちゃんは私たちの問題に関わりはないんだからね」
「午彪さんや奈緒美さんは関わっているっていう事?」
「色々とあってね。彼らには助けてもらってるんだよ。私が覚えている知識を愛華がこの世界でも使えるようにしてくれたんだけど、それを実現するためには午彪と奈緒美のお金が必要だったんだ。お兄さんなら私が何を言いたいのかわかってくれるよね?」
イザーちゃんの話を完全に信じているわけではないのだけど、その中に嘘が混じっているとも思えなかった。
そんな話をうまなちゃんに出来るはずもないな。そんな事を俺は何度も何度も繰り返し、繰り返し考えていたのであった。




