第十五話 イケナイコト
瑠璃の仕事は学校の先生だ。
愛華ちゃんはメイド服を着てはいるもののメイドではなく、その正体は頭が良くてスポーツ万能で胸が大きい高校生だ。
午彪さんと奈緒美さんがどんな仕事をしているのか具体的にはわからないけれど、何か凄い仕事をしているという事だけは間違いないようだ。
うまなちゃんも愛華ちゃんと同じ高校生だという事は間違いないのだけれど、何かそれだけではない何か特別な力を持っているように思える。
そして、一番謎なのがイザーちゃんである。
見た目だけならうまなちゃんの妹と言っても納得出来る感じではあるが、うまなちゃんとイザーちゃんに血縁関係はないようだ。
自称サイボーグのヴァンパイアという事なのだが、何処から度見ても普通の女の子にしか見えない。サイボーグ要素も無ければヴァンパイア要素も皆無なのだ。
それどころか、普通にみんなと同じものを食べている。
「そんなに私の事を見てどうしたの?」
「いや、別に何でもないけど」
「そうなんだ。お兄さんにずっと見られているように感じてるんだけど、私の事が気になるのかな?」
「うん、凄く気になってるよ」
特に深い意味もなく俺はそう言ってしまったのだけど、俺の言葉を聞いたみんなの顔を見た瞬間に誤解されるような言い方をしてしまったと気付いてしまった。
一度言ったことを取り消すことなんて出来ないので俺はそのまま黙っていたのだけれど、瑠璃を含めた四人の女の子たちは集まって何かを話しているようだ。
「お姉ちゃんとも話し合って決めたことなんだけど、お兄さんはこれから私たちと一緒にイケナイことをしてもらうことになりました。順番に一人ずつすることになっちゃうんだけど、お兄さんは誰からがいいとか希望があったりするのかな?」
「突然そんな事を言われても困ってしまうんだが。イケナイことっていったいどういう事を指しているのかな?」
「そんなの私の口から言わせないでほしいな。お姉ちゃんにもちゃんとお話をしてわかってもらったから大丈夫だよ」
何が大丈夫なのかわからないけど、瑠璃が大丈夫だというのであれば問題はないのだろう。
イザーちゃんの言うイケナイことというのがいったい何なのかわからないけれど、四人の顔を見ているとあまりイイコトではないように思える。瑠璃がちょっと心配そうな顔をしているのもそうなのだけど、愛華ちゃんも俺に対して申し訳なさそうな表情を浮かべているのが気になってしまった。
「じゃあ、学校が始まるまでの間に慣れるように明日から始めちゃおうね。うまなちゃんも愛華もお姉ちゃんもお兄さんのために頑張らないとね」
「イザーちゃんも頑張らないとね。私達ばっかりってわけにもいかないし、イザーちゃんもこれからの事を考えると多少は無理してもらわないと困るからね」
「イザーさんも大変なのはわかっていますけど、真琴さんのためにも一肌脱いでくださいね。先生も身内だからって遠慮したらダメですからね」
「わかってるよ。今のうちに出来ることをしっかりしておかないと困るのは兄貴だもんね。あんまりやる気は出ないけど、兄貴のために出来ることはやるよ」
俺が困るようなことが起きるのは問題だと思う。その問題を乗り越えられるようにみんなが力を貸してくれるみたいなんだけど、その方法が物凄く気になってしまう。聞いたところで誰も何も教えてくれないんだろうとはわかっているけど、一応聞いてみるだけ聴いてみよう。
「俺が困るようなことって、何があるのかな?」
俺としては何も変なことを言っているつもりなどないのだけれど、四人は先ほどよりも深刻そうな顔で俺の事を見つめてきた。
誰と目を合わせても悲しみに満ちた視線しか返ってこない。その視線の意味を知らない俺はイヤなコトが起こるのだろうとしか思えない。
「まあ、その時になればわかるんじゃないかな。兄貴には私たちがついているから安心してくれていいと思うよ。今までずっと家に閉じこもってた兄貴には刺激が強いかもしれないけどね」
「私もお兄ちゃんの力になるように努力するからね。一人ではできないことも私たちと一緒なら出来るかもしれないし」
「私も皆さん同様、真琴さんを支えますからね。どんな敵とも私は戦いますからね」
「お兄さんが辛いなって思ったらいつでも言ってくれていいからね。お兄さんが楽になれるようにいつでもサイボーグ化の手術を始められる用意だけは出来ているからさ」
話をまとめると、俺にとって強い刺激になることが起こるみたいだけど、みんなが俺を守ってくれるらしい。敵という言葉が出てきたのだけど、それは何かの比喩なのだろうか。もしも、俺が想像している感じの敵であれば瑠璃が言った刺激が強いモノに繋がってしまうように思える。
ただ、サイボーグになったヴァンパイアがいるような世界なら敵くらいいるんだろうなとは思う。イザーちゃんが本当にサイボーグのヴァンパイアだというのであればの話だが。
「何かお兄さんから良くない感じのオーラが出てきているよ。私の事を信用していないって感じだね。よし、最初は私がお兄さんに色々とわかってもらえるように頑張るよ。私の頑張りが足りなかったら申し訳ないけど、みんなよろしく頼むよ」
イザーちゃんの言葉を聞いた三人はそれぞれ目に涙を浮かべていたのだけれど、俺にはその涙の意味が全く分からなかった。
すぐにイザーちゃんの涙の理由を知ることにはなるのだけど、その時にはここに来たことを後悔することすら諦めてしまっている未来が待っているのであった。