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第十二話 妹と兄

 俺には引っ越しの荷物は少なくした方がいいと言っていた瑠璃の荷物は必要ないものばかりに見えていた。男と女で必要なものが違うという事もあるのだろうが、それを考慮したところで必要なさそうな物ばかりに見えていた。


「なあ、こんなに必要だったのか?」


 俺の質問に対して瑠璃は真面目に答える気はないようだ。


「私一人で片付けるから兄貴は手伝わなくていいし」

「そんなこと言うなって。俺も瑠璃がここで働くなんて知らなかったんだけど、同期が瑠璃だってわかってちょっと嬉しかったんだからな」


「同期って、兄貴は教員免許もってないでしょ。あ、私立だから教員免許が無くても教員になれるのか」

「同期って言ってもお兄さんは学校の先生になるわけじゃないよ。同じ時期にここに就職したってだけだからね。こう言ったら失礼かもしれないけど、お兄さんには教壇に立ってもらうんじゃなくて悩んでいる人たちの力になってもらいたいって思って契約したみたいだよ。だから、お姉ちゃんとは違って指導したりと言ったことは一切ないんだ。まあ、指導してもらいたいことがあるって人がいれば話は変わってくるけどね」


「そうなんだ。で、あなたはいったい誰なの?」


 瑠璃が疑問に思うのも当然だろう。俺もイザーちゃんがいったい何者なのか正確に理解していないのだ。俺と一緒にいる正体不明の女の子としか見えていないだろう。


「そう言えば自己紹介をしていなかったね。私の名前はイザーだよ。気軽にイザーちゃんって呼んでくれていいからね。ここの世界とは別の次元の地球によく似た星で生まれた天才ヴァンパイアだよ。千年以上の時を生きてきたんだけど、肉体が滅びかけていたんで錬金術を使って自分の体をサイボーグ化させたんだ。そのおかげで日中も自由に出歩くことが出来るようになったのは思わぬ副産物だったね。今はあなたの雇い主である栗宮院午彪とその妻の栗宮院奈緒美にお世話になりつつ元の世界に変える方法を探しているところだったんだ。でも、元の世界に戻るよりもこの世界で楽しく過ごした方がいいんじゃないかなって思ってるんだよ。その一環として私はこれからお兄さんと一緒にみんなと楽しい時間を過ごしたいなって思ってるところなんだ」


 相変わらず荒唐無稽な自己紹介だ。何度聞いても俺の頭はイザーちゃんの言葉を理解しようとしてくれないのだが、それを言っているイザーちゃんの表情は真剣そのもので嘘や冗談を言っているようには見えないのだ。


「そうなんだ。変わった子だとは思っていたけど大変な過去を持ってるんだね。色々と辛いことがあるかもしれないけど、私も何か協力できることがあったら力を貸すよ。でも、私の兄貴の事をお兄さんって呼んでるのはちょっと嫌かも」


「ごめんね。でも、お兄さんって呼ぶことにはあんまり意味はないんだよ。さすがに名前で呼ぶのは恥ずかしいって言うか、うまなちゃんもお兄さんの事を名前で呼んでないから私だけ名前で呼ぶのはどうかなって思ってるんだよ。だから、あんまり気にしないでもらえると嬉しいかも」


「確かにね。そう考えると兄貴の事を名前で呼ばれた方が嫌かもしれないわ。でもさ、元引きこもりでニートな兄貴が何の役に立つって言うのさ?」


「それは私もわからないよ。うまなちゃんがお兄さんの事を気に入ったってのが理由だけど、それ以上の理由なんてないかもしれないな。だけどね、私も午彪も奈緒美もうまなちゃんの人を見る目は確かだって思ってるんだよ。それがあるからお兄さんの事を信頼しているんだ」


「よくわかんないけど、兄貴にそこまでの価値なんて無いと思うな。まあ、兄貴がダメだって思っても実家に帰さないでね。その時は仕方ないんで私が兄貴の面倒を見てあげるから。五月にはそうなってそうな気もするけど、あなたたちはそんな事気にしなくていいからね。ほら、私は兄貴の妹なんだからさ、出来の悪い兄の面倒を見る義務ってものがあるでしょ。節約すれば二人で暮らすことだって出来ると思うし、これだけ広い寮なら二人で暮らしても問題ないと思うよ」


 瑠璃はきっと俺の事を兄だと思っていないのだろう。よく言えば世話のかかる弟だとでも思っているのかもしれない。おそらく、俺の事なんてペットか何かだと思っているはずだ。俺が引きこもっていた時も勉強だけではなく新しい遊びを教えてくれたりしていたな。


 瑠璃はそうやって俺に勉強を教えることがきっかけで教師を目指すようになったと聞いたことがあるのだが、その夢を叶えて教師になったのは凄いことだと思う。瑠璃は説明するのが上手なので授業を受ける生徒もわかりやすいんだろうな。


「そうはならないと思うけど、お兄さんがダメだった時はお姉ちゃんにお願いするように伝えておくよ。でも、その場合は教員寮じゃなくてお兄さんが暮らしている特別寮に住んでもらうことになるかもね。ここって単身専用だから二人暮らしは出来ないんだよ。事前に申請してくれたら家族の宿泊は認められるんだけど、連泊は出来ないようになってるんだよね。学生寮がすぐ隣にあるからそう言ったところは厳しかったりするんだよ」


「確かにね。隣に学生寮があるんだったらそういうルールがあるのも納得ね。でも、兄貴の住んでる寮って大丈夫なの?」

「大丈夫だと思うよ。お姉ちゃんが住むことになったらお姉ちゃんの部屋には鍵をつけてもらうことにするし、セキュリティはばっちりだからね」


「え、どういう事?」


「お兄さんが住んでいる特別寮はこの学校の関係者なら誰でも自由に使えることになってるんでお風呂とトイレ以外は鍵がついてないんだよ。だから、いつでもお兄さんのところに遊びに行けるってわけなんだよ」


 瑠璃は今まで見たことが無いような顔をしているのだが、本当に何もわからなくなった時はこんな顔をするんだというのがわかった。


「そんなに気になるんだったら、お姉ちゃんの片づけが終わったらお兄さんの部屋に遊びに行こうか。それと、晩御飯も一緒に食べようね」

「そうね、兄貴が暮らすところを見てみたいかも。晩御飯はどうしようか悩んでいたから助かるわ」


 俺の同意を得ずに物事が勝手に進んでしまっている。別にみられて困るモノなんて何もないけれど、一言くらい聞いてくれてもいいのではないかと思ってしまったのだった。

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