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第十一話 妹との再会

 朝食も愛華ちゃんが暮らす特待生寮でいただいたのだが、昨日の食事会が終わってすぐに出発しなければいけなかった午彪さんと奈緒美さんは不在であった。


 聞いた話によると、午彪さんと奈緒美さんがそろって食卓に着いたのはお正月以来だったという話だ。そんな貴重な場面に俺がいて良かったのかと思っていたのだけれど、俺がいたからこそ二人が予定を合わせてくれたという事らしい。


「うまなちゃんが気に入ったお兄さんの事を午彪も奈緒美もちゃんと自分の目で見ておきたかったんだと思うよ。うまなちゃんの目に間違いはないと思っているけど、それでも自分の目で見ておきたいって事だったんだと思うよ」


 爽やかな陽光を浴びて髪も爪もキラキラと光っているイザーちゃんが俺を見上げながらそう言ってきたのだ。俺はその言葉をそのまま受け止めて良いのかわからず苦笑いを浮かべていたと思う。


 それにしても、イザーちゃんがサイボーグのヴァンパイアだというのが本当なのかいまだに半信半疑だ。というよりも、イザーちゃんなりの場を盛り上げようとしたジョークだったのかもしれないと思っている。ヴァンパイアの生態に特別詳しいわけではなく何も知らないに等しいのだけれど、俺がイメージするヴァンパイアは夜の街を自由に闊歩する恐ろしい存在だと思うのだが、自称天才ヴァンパイアのイザーちゃんは夜も深まる前である食事会の途中でかなり眠そうにしていてそのまま特待生寮にもある自室に戻って眠ってしまったそうだ。


「うまなちゃんはまだ起きてこないと思うんだ。そこでイザーちゃんがお兄さんに色々と案内してあげようと思うんだけど、お兄さんはこの学校の事を何も知らないまま全て初見で感動を味わいたいかな?」


「案内してもらえるんだったらソレが一番いいよ。って言っても、寮と学校の他に何か特別な物ってあったりするのかな?」


「特別な場所とかはここに暮らしている一人一人にあるかもしれないけど、観光の目玉になるようなものは特別あるわけではないかな。ここはあくまで学校だからね。その辺はちゃんと覚えておいてほしいかな」


 若干怒られたような気もしているが、イザーちゃんはニコニコしながら俺の手を掴んで離さない。こんなところも妹の瑠璃が小さかった頃の姿に重なって懐かしい気持ちになってしまった。


「そう言えば、今日から新しい先生が何人か職員寮に引っ越してくるみたいだよ。お兄さんは教員じゃないから厳密に言うと違うんだけど、同期みたいなもんだから挨拶しておいた方がいいかもね。お兄さんが他人と触れ合うのが苦手なのはしているけどさ、学校が始まったら多くの生徒や大人たちと触れ合う機会も多くなると思うから今のうちに味方を探しておいた方がいいかもね」


 短い付き合いではあるが、イザーちゃんの言葉には俺がこれから生きていくうえで必要なことが隠されている場合があるように思える。もちろん、全く役に立たないどうでもいいような話も多くみられるのだが、何か強く俺の心に突き刺さる言葉も多いように感じていた。


「せっかくこうして社会に出たわけだし、今までと違う俺になれるように努力する事も必要かもね。どんな人がやってくるのかわからないけど、イザーちゃんの言うように同期と考えて仲良くしてもらえるように頑張るしかないかもね」



 校舎に一番近い寮は学生寮なのだが寮生活をしている生徒はそこまで多くないようだ。今はまだ春休み期間なので帰省していたり引っ越しが終わっていないだけなのかもしれないけれど、外から見た感じでも人がいる気配はほとんどなかった。


 そのすぐ隣にある職員寮は引っ越し業者に交じって何人か私服姿の人を見かけているので人はいるようだ。


「お兄さんの同期の人はまだやってきていないみたいだね。結構遠い場所からやってくるみたいだからお昼近くになっちゃうのかもしれないよ。それまで学校の中を案内してあげようか?」

「同期の人とか気にしなくてもいいよ。俺は先生じゃないんで同期って感じもしてないから」


「まあいいや。新人の先生をいじめたりしたらダメだからね」



 イザーちゃんに連れられて校舎内を見学して回っていた。

 初めて来た学校なのにどこか懐かしい感じがしているのはなぜだろう。もしかしたら、学校なんてどこも似たり寄ったりな造りになってしまうからなのかな。どこを見ても初めて見る景色なはずなのに、どこかで見たことがあるような無いような不思議な感覚であった。


「お兄さんが仕事で使う部屋は四階の一番奥にある部屋だよ。何もない空き部屋なんでお兄さんの好きなように使って良いって午彪が言ってたからね。うまなちゃん以外の人もお兄さんに話を聞いてもらいに来るかもしれないんで、あんまり変な感じの部屋にしたらダメだからね。ちなみに、お兄さんの部屋の隣は私と愛華で異世界への扉を作る研究をしているから。迷惑はかけないと思うけど、何かあったらごめんね」


「何もないことを祈るよ」


 一階を見ている間に正午を告げる鐘の音が聞こえてきたこともあって校舎見学はいったん中断して昼ご飯を頂くことにした。今回も愛華ちゃんが暮らしている特待生寮で食事をとることになったのだが、特待生寮も俺が暮らしている寮も学校からやけに離れているような感じがした。


 学生寮も職員寮も校舎直結と言ってもいいくらいの距離にあるにもかかわらず、特待生寮も俺が暮らす寮も歩くと少し疲れそうな距離ではあった。


「あ、新しい先生がやってきてたみたいだよ。ちょっと挨拶してから特待生寮に戻ろうか」


 イザーちゃんは掴んでいた俺の手を離して荷物を少しずつ運んでいる女性に話しかけていた。


 男性の方が良かったなんて思ったりはしないけれど女性と上手く話すことが出来るのか自分の事が心配になってしまっていた。何か共通点でもあれば打ち解けることが出来るかもしれないと思ったのだが、初対面の時点でそんな事を聞いても答えるのが大変なだけではないかと思ってしまった。


 イザーちゃんが女性の手を引いて俺の方へと駆け寄ってきた。女性もやや困惑しているように見えたけど、その顔には凄く凄い見覚えがあった。



「え、なんで兄貴がここにいるの?」



 俺の同期は妹の瑠璃だったようだ。

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