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勇者の試練 第三十話

 宝箱の中には大きな鍵が一つだけ入っていた。

 大きさや形から察するに、奥にある扉を開けるモノだと思うのだが、これだけの数の宝箱の中に一つだけしか物が入っていないというのは恐ろしい話だ。一つ一つ開けて確かめるたびに魔物と戦わなくてはいけないと思うと、ゾッとしてしまった。


「最後に鍵を見つけた方がいいかと思ってたんだけど、お兄ちゃんが私のいう事を聞いてくれてよかったよ。全部開ける前に鍵が出てきちゃったら最後の一個も空だったらショックだったでしょうね」

「最後の一個が空が良いのか鍵が入っていた方がいいのか悩むところだけど、鍵が入っていた方が良かったかな。最後に見つけた方がガッカリ感よりも嬉しさの方がありそうだしね」

「鍵を見つけたお兄ちゃんはすごく嬉しそうな顔だったからね。写真でも撮って待ち受けにしておけば良かったって思ってるわ」

「それは恥ずかしいからやめてください」


 俺たちは手に入れた鍵を使って次のフロアへと向かうのだが、鍵を開けた時にとても大きな音がしたので心臓が止まるかと思ってしまった。

 鍵が開いたので先に進むことが出来るようになったけれど、俺は先ほどの宝箱を開けた時よりも慎重に時間をかけて扉を開けることにした。


 中で待っていたのは、誰も座っていない玉座だけであった。


「誰も……いない?」

「まあ、そうでしょうね。私はこのダンジョンに誰もいないってのは知ってるからね。私の毒はそんなに生易しいモノではないのだから、ここにだってあの鍵穴から少しずつ侵食していったのだと思うわよ」


 そんな事だろうとは薄々感じていた。宝箱の中身まで殺してしまうような毒がこんな扉一枚突破できないはずはないだろう。

 ここに玉座があるという事は、ここがこの試練の最終目的地だという事だろう。


 ただ、玉座に誰も座っていないのだからコレからどうすればいいのか全く分からない状態であった。


 柘榴ちゃんは何事も無かったかのように玉座に座って俺を手招きしていた。


「お兄ちゃんに聞きたいことがあるんだけど、ここの試練を乗り越えたらうまなちゃんを助けに行くつもりなのかな?」

「助けにはいくつもりだけど、俺一人で行っても何の役にも立てないとは思うんだよね。柘榴ちゃんも一緒に行ってくれたら助かるんだけどな」


 柘榴ちゃんは断らないと思っていたけれど、随分と悩んでいるように見える。断るにしても断らないにしても答えはすぐに欲しいと思ってしまっていた。


「もちろん私もお兄ちゃんと一緒にうまなちゃんを助けに行くつもりだけど、総手死してたよりも早くついてしまったんでどうしたもんかと考えていたのよ。今から向かうにしてもまだ時間はかかりそうだね。明日の昼過ぎにつくようにしないと大変なことになっちゃうかもしれないって事だからね」


 やたらと時間を気にしているのはどういうことなのか知りたかったが、それでも柘榴ちゃんは何事も無かったかのように俺たちのもとへと帰ってきたのだった。


「とりあえず、ここを出て試練が終わったことを報告しに行かないとね。お兄ちゃんは疲れただろうから自分の部屋でゆっくり休んでてもいいんだからね」

「散歩してたみたいなもんだから疲れてなんて無いよ。柘榴ちゃんの方が疲れてるんじゃないかな?」

「私も疲れてないわよ。ただただ散歩していただけみたいなものだものね」

「お互いに歩いていただけだもんね。宝箱を開ける作業があったくらいで、特につかれるようなことは無かったってのも事実かも」


 玉座に隠れて見えなかった所に扉が一枚あるのを見つけてしまった。俺はその扉を開けたのだが、三畳ほどの小さな部屋があるだけだった。

 何もない部屋に入っても何も変わらなかった。

 俺も柘榴ちゃんも何をすればいいのだろうかと思っていたところ、玉座に座っている人物から話しかけられていた。

 今まで誰も座っていなかったはずの場所から声が聞こえるというのは恐ろしいもので、誰もいないと思っていた時に誰かがいた時の衝撃はすさまじいものがあった。


 俺と柘榴ちゃんは驚いてそのまま玉座の前まで走っていったのだが、そこに座っていたのはイザーちゃんであった。


「二人ともお疲れ様。何事もなくクリアしたみたいで良かったよ。私もこんな方法があるのなんて知らなかったからびっくりしちゃった。完全に反則なんじゃないかと思ったけど、みんな今回だけは認めてあげようって事になって特別に合格とするよ」


 イザーちゃんの言葉を聞いてホッとした自分がいるのだが、イザーちゃんは玉座に座ったまま厳しい視線を向けてきた。

 何か怒られているようにも感じていたけれど、イザーちゃんはいつもの優しい顔に戻っていた。


「後はうまなちゃんと一緒に勇者の試練を受けてもらうだけなんだけど、二人も知っての通りうまなちゃんが担当している範囲が地球の北半分だから苦戦しちゃってるみたいなんだよね。それを二人が助けに行ってくれると嬉しいんだけど、どうかな?」


 俺も柘榴ちゃんも最初からそのつもりなので即答していた。

 柘榴ちゃんは少し驚いていたけれど、俺と同じように答えていた。


「ありがとうね。二人が協力してくれるならうまなちゃんも大丈夫だと思うよ。じゃあ、今すぐ向かってもらってもいいかな。少しでも早い方がいいからね」

「今すぐにはちょっと、さすがに試練を終えたばかりなので明日にした方がいいと思うんだけど」

「大丈夫でしょ。ほら、君たち二人は疲れてないって言ってたし、今すぐにでもうまなちゃんを助けに行ってよ。私が今すぐにでも二人を世界勇者協会の所まで送ってあげるからね」


 有無を言わせぬ迫力を見せたイザーちゃんは先ほどの小部屋の前まで進むと中に入るように促してきた。

 何も変わっていないように見えた小部屋ではあったが、部屋から出るとそこにあったのは玉座ではなくカフェカウンターであった。

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