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勇者の試練 第二十七話

 柘榴ちゃんと一緒に勇者の試練を受けに来たのだが、話に聞いていた通り扉の向こうには生存者は誰一人存在していないようだ。

 そんな強力な毒を使うことが出来ることに驚いていたけれど、柘榴ちゃん曰くこの毒を使うことが出来る環境はかなり限られているという事だ。完全に密閉されていて外部に漏れないことが条件になってしまうという。試練の扉は一人では開けられないという事もあって条件が満たされていたという話なのだが、この毒を解放されている場所で使うとどういう事になるのか気になってしまった。


「世界を覆いつくした後になって初めて弱まっていく事になるんだよ。この毒は壁沿いにゆっくりと広がっていく性質があるんだけど、自分と同じ毒に対して耐性が無いので広まりきってしまうと後は自分の毒素で死滅してしまうのよ。世界を覆いつくすくらいまで広がってしまったら毒性もほとんど影響がないくらいに薄まってしまうと思うけれど、それでも何らかの後遺症は残るでしょうね。作物なんかは育たなくなってしまうだろうし、それ以外の生物も寿命が一気に短くなる可能性だってあるんじゃないかしら」

「試練の会場は密閉されているって話だったけど、どこかに抜け穴があったとしたらそこから世界中に広がる可能性もあったって事?」


「その可能性はあったかもしれないけれど、ほぼ無いようなものだと思うわ。あの場所は誰かが魔法で作った完全に隔離された空間だからね。空間というか、別の世界と言った方が相応しいかもしれないけど」

「別の世界って、イザーちゃんが関わってるって事?」

「たぶんそうなんじゃないかしらね。私達でも出来ないようなことをイザーちゃんは普通に出来たりするし、誰にも気付かれないように色々と耐えたりもしてるみたいだからね。それでも、お兄ちゃんの事は大切みたいだよ。お兄ちゃんだけは特別扱いだって言ってたからね」


 柘榴ちゃんの言葉の意味はよくわからなかったが、特別扱いしてくれるという事は喜んでいいことなのだろう。悪い意味ではないという事は信じたい。


 それにしても、勇者になるための試練を受けているのは間違いないのだが、このダンジョンにも似た建物の中に虫の一匹もいないというのは反則にも近いことなんじゃないかと思ってしまう。

 でも、シュヴァンツ・フォン・アルシュロッホ九世に聞いてもポンピーノ姫に聞いても真勇者評議会の人に聞いても問題はないという事だった。二人の力だけで試練を乗り越えることが重要だと言われたのだが、どう考えても二人の力ではなく柘榴ちゃん一人の力ではないだろうか。

 その辺はアバウトな感じなので気にするだけ無駄なのかもしれない。


「勇者の試練って管理している母体によって全然違うみたいなんだけど、今までのと比べて真勇者評議会の試練はどうかな?」

「どうかなって言われても、敵どころ虫の一匹もいないこの状況はただの迷路としか思えないんだけど。ところどころに何かがいたような形跡はあるんだけど、それが何なのかもわからないようになってるし。柘榴ちゃんの使った毒が無ければどうなってたんだろうって思うくらいかな」


「命を奪うのではなく動きを制限する程度の毒にしておけば良かったかも知らないって事なのね。その場合は毒が完全に消滅するまで一年くらいかかっちゃうと思うんだけど、それでもお兄ちゃんは待てるかな?」

「さすがに一年は待てないかな。そんなに待つんだったら今みたいに誰もいない状況の方がいいかも」


 迷路の中を探索するだけで試練をクリアできるというのであればそれに越した事は無いと思う。

 辛い思いをするよりも楽な方を選びたくなってしまうのは仕方ないことだろう。

 楽な道を選ぶことが出来るという事も自分たちの力を示す方法の一つだと思う。でも、今回の毒を使った方法は扉を開けずに中に入ることが出来る人なら誰でも実現可能だと思う。そんなことが出来る人が柘榴ちゃんとイザーちゃん以外にいるのかは疑問だが、実際にこうして柘榴ちゃんがやって見せているので他にも出来る人はいるだろう。


「一週間待てたことでこの中も安全になってるし、うまなちゃんの方も大丈夫だと思うよ。ここをクリアしたらうまなちゃんの所にサクッと向かっちゃう感じでいいと思うの。お兄ちゃんもそうした方がいいんでしょ?」

「瑠璃と愛華ちゃんが助けに向かってるから問題はないと思うけど、出来ることなら俺もうまなちゃんに協力したいって思ってるよ。まあ、俺は何の役にも立てないと思うんでみんなに任せっきりになっちゃうと思うんだけど、その時は柘榴ちゃんもよろしくね」


「よろしくねって言われたら頑張っちゃうしかないよね。私もうまなちゃんが困ってるときはすぐに助けに行きたいとは思うんだけど、すぐに行けない理由もあるし状況が変わってからじゃないと無事に終われないって事もあるんだからね」

「すぐに助けに行けないのって、そんなに深い理由でもあるの?」


「うまなちゃんがいる場所が悪いってだけの話なんだよ。うまなちゃんは移動しながら相手をしてるんだけど、あの時にいた場所はお兄ちゃんが耐えられる場所ではないって事なんだよ。助けに来たお兄ちゃんが何も出来ずに死んじゃうのって、うまなちゃんだけじゃなく私たちも辛いことになっちゃうからね」

「俺に耐えられないって、凄い毒があるとか?」


「違うよ。単純に寒くて活動できないってだけかな。私たちは環境の影響をほとんど受けずに済むんだけど、普通の人であるお兄ちゃんはそうもいかないわよね。そうなると、あの極寒の世界で普通に過ごすことなんて出来ないと思うの。私たちもお兄ちゃんが死なないようにサポートはするけれど、さすがに守り切れる自信はないのよ」


 俺がすぐに助けに行けない理由は俺が原因だった。かつどうできないってだ

 寒さに耐えるくらい問題ないと思ったけど、うまなちゃんのいる辺りは夏でも気温が氷点下を下回るくらいに寒いところらしい。

 自分の吐息でまつげが凍るくらいの寒さだそうなのだが、そんなのは年に数回しか体験していないので少しだけ楽しみでもあった。

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