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空を染めて  作者: せいや
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空を見上げて

絵を描くためには、道具や場所が必要である。

紙とペン、絵の具やペンキ、壁にはスプレーなどもいいだろう。


そして、一度描いたらそこに残り続ける。

歴史に残る作品として美術展などに飾られたり、高値で売れて富裕層の家に飾られたりする。

バンクシーみたいに一つの信仰に似たモノとして、多くの人々の注目を集め、崇められる。



もし、その一瞬にしか描かれず、形に残らない絵があったら

それはどんな価値が生まれるのだろうか。

僕にしか見えないこの世界を染めることができたら。


僕がやっているのはそんな競技

"カラーガード"である。



空を染める

第一旗 空を見上げて



時刻は午前6時

そこそこ散らかった一人暮らしの部屋に軽快な音楽が鳴り、

嫌々ながら起こされる。


雄一は推しのアイドルのアラームを止めて、1分ほどボーッとした後、重い身体を起こしてベランダに出る。

ベランダにセットした椅子に腰掛け、5分ほど都会のビル群を眺めるところから1日は始まる。


"東京の景色は狭っ苦しい"


都心部から空を見上げても空を覆うほどのビル群に囲まれ、雄一は空を見上げるととても窮屈に感じていた。


『東京の空に色を加えるなら・・・』


独り言をしながらいつも考える。

空を見上げた時に、毎回見える色が違ったらいいのに


そんなことを考えるようになったのは、

多分、あの時があったからだろう。


時刻は6時10分

そろそろ支度しないと遅刻するので、考え事をやめ、部屋へと戻る。

タオルと着替え、財布にワイヤレスイヤホンにグローブ、生きていくのに欠かせないスマホ

そしてフラッグケースを持ち、家を出た。


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電車に揺られる2時間では、YouTubeとInstagram、TikTokを見ることに費やしている。

見ている動画は、アメリカで毎年夏に行われるDrum Corps International (通称:DCI)と冬に行われるカラーガードの大会、Winter Guard International (通称:WGI)の振り付け動画がメインになる。


日本のマーチングやカラーガードの技術はまだまだ本場と比べるとレベルが高いわけではないので、こういったレベルの高い動画を見ると、自分も負けてられない気持ちにもなるし、なにより勉強にもなる。


昨今では日本人がDCIやWGIへ挑戦する人も増えていき、帰国した人が指導に携わることが増えたため、年々レベルは上がってきているが、大会規定の違いなどもあり、中々その差は埋まらない。

本場のアメリカも年々レベルをあげてきているのだから当然だ。



それでも時々、夢見ることがある。

日本のチームが本場のチームと対等に渡り合えるようになること。

そうすれば、もっと多くの人に知ってもらえるのに。


そんなことを妄想している間に、今日の練習場所の最寄り駅、横須賀に雄一は降りていった。


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所属してるマーチングバンドチーム

"YOKOHAMA ROBINS"

設立から20年以上あるマーチングバンドで所属人数は140人くらい。

青少年育成を目的としており、中学生から社会人までと幅広い年齢層で構成されている全国指折りのチームだ。


ベストパフォーマンスをテーマにしており、どんな本番でも最大のパフォーマンスをして観客を感動させることを目標としている。

全国大会にも毎年出場し、全国上位こそとれるが、日本一になったことは一度もない。


雄一はそこでカラーガードパートに所属しており、メンバーの中では上位の実力をもっている。




"カラーガード"


ドラム&ビューグルコーやマーチングバンドにおいて、フラッグ、ライフル、セイバーなどの手具を用いて、視覚的表現を行うパートだ。


ひと昔までは、マーチングバンドのお飾り的なポジションだったが、色彩感や立体的な空間構成が重要視されることから、最も重要視されるパートになった。




『おはよう雄一、今日は寝過ごさなかったのな』


嫌味も混ざった挨拶をしてきたのは、同じチームメイトでカラーガードパートの豪だった。


『おはよう豪。相変わらず名前に反して爽やかだな』


『え?おれは爽やかというよりパワー系カラーガードプレイヤーだよ』


なんていつも通りの会話をしていたが、もう1人の長髪の男が声をかけてきた。


『おい、そろそろ集合かかるぞ、準備しとけよ問題児ども』


声をかけてきたのがロビンズのカラーガードリーダーの天音。

パワー系の豪とは違い、柔軟な身体と手具の扱いを得意とするプレイヤーだ。 


この3人はロビンズを引っ張るカラーガードだが、スタイルが異なるため、オーディションではいつも争っていた。


そんなこんなで集合がかかった。



ロビンズの隊長から朝の挨拶と全体の共有事項が終わり、

最後に一言が添えられた。


『カラーガード の雄一、豪、天音は日本カラーガード連盟からの招集がかかってるからこの書類に目を通しておいて』



『『『招集????』』』



書類にはこう書いてあった。


親愛なるカラーガードに人生を捧げたプレイヤーへ


この度、日本カラーガード連盟は、世界に挑戦する日本代表のカラーガードチームを結成することを決定しました。


つきましては、本書類を送付した皆様はカラーガード日本代表の候補選手として推薦致します。

ご賛同頂ける場合、7日後の10時に駒澤オリンピック公園体育館にお集まりください。


それでは、参加をお待ちしております。




『これ、マジなのかな?俺たちが・・・日本代表って』

豪は急なことで動揺していた。


『いや、候補選手だろ。まだ決まってないだろうから、7日に選抜とかあるんだろうな』

天音は冷静に返していたが、笑みが溢れてた。


『でも、夢ではないみたいだ。そこに行って選ばれれば、日本代表として思い切りカラーガードできるってことだよな?』


答えはもう決まっていた。

行く。

行って、日本代表になる。

いつか夢見ていたことに、道筋ができた感覚だ。




しかし、まだ彼らも、我々も気づいていない。

日本代表になる、世界に挑む。


それが何を意味していて、これから何が起こるのかを。




パート練習は外でやる為、誰よりも早くフラッグを持ち、雄一は空を見上げた。

見上げた空に向かってフラッグを投げる。

ダブルトス(2回転トス)で空中でフラッグが回る。

その模様が空に彩りを与える。


空は快晴、これから起こることとは裏腹に、

雄一の心は期待と興奮でいっぱいになっていた。


『今日もいい日になる』


そんな一言で、今日もリハーサルは始まる。



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