最強のカードゲーム魔法~カードは何億通りの魔法を生み出す~
今日は友達の家でゲームやり過ぎた。
ちょうど夕日が落ちたところだ。
空が段々と暗くなり、蒼に染まっていく。
急がないと。
そう言えばおばあちゃんが言ってた。
『逢魔が時に気をつけるんだよ』って。
妖怪でも出るのかな。
妖怪が出てくる漫画は面白いけど、あまり怖くない。
一番怖いのはホラー映画だ。
特に日本のは怖い。
外国のは肝心の幽霊がCGとか分かっちゃって、ちょっと興ざめになるのとかが多い。
あれっ、アスファルトが何時の間にか土の道になっている。
狐に化かされた。
ないよね。
都会には狐はいない。
狸ならたまにニュースで見る。
でも実物を見たことはない。
木々の隙間からチラっと灯りが見えた。
妖怪がいたらどうしよう。
口裂け女だったら、ポマードと唱えたらいいんだっけ。
「ポマード、ポマード、ポマード」
言いながら進む。
森が開けて広場になっていて、灯りは焚火だった。
お父さんぐらい歳をとった外国人の男の人と、僕ぐらいの女の子が座っている。
「見ない顔だな。この辺の人種と違うようだ。大人は?」
そう男の人に話し掛けられた。
良かった話が通じる。
「大人はいない。道を歩いていたらここだった」
「迷子か?」
どう言おう。
「うん」
とりあえず頷いた。
「そうか。じゃあ朝になったら帰り道を探してやろう」
「ありがとう」
「おう。坊主、お礼を言えて偉いぞ」
「僕は大森・翔太。坊主じゃない。12歳だよ」
「家名持ちか。家名は隠せ」
「ええと、家名って名字だよね。じゃあショータだ」
「俺はロックス。こっちは娘のアデル」
「アデル12歳」
「じゃあ、同い年だね」
「うん」
地面の上は硬かったが、緊張して疲れたのかすぐに眠りにつけた。
そして、肩を揺すぶられて目が覚める。
辺りをみるとまだ真っ暗だ。
焚火の火はチロチロと燃えてはいたけど。
「声を出さないで」
アデルが小声で言う。
理由はすぐに判った。
暗闇に目がいくつも光っていたからだ。
唸り声も聞こえる。
ロックスさんは剣を抜いて構えている。
「モンスターよ。フォレストウルフだと思う」
アデルがやはり小声で言う。
モンスターがいる場所は地球のどこにもない。
ここってどこだろう。
ガサっと音がしてロックスさんがトラぐらいある漆黒の狼に組み伏せられていた。
フォレストウルフは牙をむき出しにして唸っていて、ロックスさんは剣で何とか防いでいるところだ。
剣がなければ頭からがぶりとやられてしまったと思う。
「逃げろ! 二人だけでも逃げろ!」
逃げたらどうなるのだろう。
目の数から考えると少なくとも4頭はいる。
とても逃げられない。
物語の主人公なら秘められた力が現れるのに。
ポケットを見るとカードゲームのスターターパックが入っているのに気づいた。
このカードゲーム名はエグゼエレメンタル。
このゲームの存在を忘れるなんて。
エグゼスピリットを持っているなんて言えない。
このゲームはとにかく多彩なんだ。
カードの種類も豊富で、なにより戦術があるのがいい。
自慢じゃないが僕は大会で優勝したこともある。
これが使えれば。
一枚カードを抜き取った。
次は【サモン・ファイヤーエレメンタル】。
これはファイヤーエレメンタルを召喚できる。
次に引いたのは【ループ】と【ループエンド】のカード2枚。
これは特殊カードだ。
次に引いたのは【アタック】。
コンボが完成した。
「プロセス・スタート、【ループ。サモン・ファイヤーエレメンタル。アタック。ループエンド】……これで戦えるわけないか」
駄目元で無限増殖コンボを口に出した。
手の平ほどの炎の玉が生まれて、静かに燃えている。
どうやら、ファイヤーエレメンタルらしい。
ファイヤーエレメンタルは分裂と体当たり攻撃を始めた。
どうなっているの。
攻撃するたびにファイヤーエレメンタルが激しく燃え上がり、分裂していく。
ロックスさんを押さえつけていたフォレストウルフもバーニングウィプスに焦がされた。
「ギャン!」
ロックスさんの手が自由になり、なんとかフォレストウルフの口に剣を刺し込むことができたようだ。
フォレストウルフから黒い霧が立ち昇り、毛皮と何かをバラバラと落とした。
そして、フォレストウルフは少し縮んで、白い狼になって逃げて行った。
モンスターが死ぬと、生き返るんだな。
いいや死んでないのか。
あとで詳しく聞いてみよう。
ファイヤーエレメンタルはというと、数が百はゆうに超えてた。
ファイヤーエレメンタルの体当たりに、フォレストウルフ達が次々に白い狼になっていく。
やがてフォレストウルフはいなくなった。
ええとそうだ。
カードを何度も引く。
そしてお目当てのカードを見つけ出した。
【リターン】のカードだ。
従魔を還せる。
リターンのカードをループの中に入れる。
「【リターン】、プロセス・エグジット。ファイヤーエレメンタル、ありがとう」
ファイヤーエレメンタルが消えた。
「ふぅ、カードが実際に使えるなんて、どうなっているの」
「魔法使いだったとはな。それにしても変わったスペルブックだ。カード型なんて初めて見たよ」
「スペルブック?」
「呪文書だよ。魔法使いが自分で開発した魔法の呪文を書いておく奴だ。呪文は【火よ点け】とかこんな簡単なのでも良いがな」
「【火よ点け】」
ライターぐらいの火が灯った。
僕でも普通の魔法が使えるみたい。
しばらくして火は消えた。
「あれれ、消えちゃった」
「たぶん、魔力切れだな。火点けの魔法なら俺達にも使えるぞ」
「ロックスさんも魔法使い?」
「馬鹿いうな。俺達だと火点けの魔法を10回も使うと魔力切れだ」
「そうなの」
「ショータ、凄い。私、ショータに弟子入りする」
「アデル、無理を言うな。普通の人は人の背丈を超えるような火球を召喚出来ない」
僕って魔法使いの素質があるのかな。
魔法を使うのにカードを使う方が何となく恰好良いな。
ちょっとやってみよう。
「【サモン・ライトエレメンタル。エンド】。さっき魔力切れになったけどもう魔力が回復したんだな」
握り拳ぐらいの光の玉が浮いている。
体感では魔力が減っている気配がない。
いつまで出しておけるか計ってみよう。
「アデルさえよければ、カードの使い方を教えるよ」
「お父さん、ショータもああ言っているし、いいでしょ」
「まあ、いいか。害になるわけでもないし。アデルの夢が破れても、それはそれで大人になったということだ」
「お父さん、酷い。私の失敗するのを望んでるの」
「いいや、大人になるとな。夢と現実が分かるようになるんだ。まあそういうことだ」
「モンスターって死なないの」
「あいつらは狂った精霊なんだ。学者の説によれば、負の感情に精霊が染まるとああなるらしい」
「毛皮と何かを落としたようだけど」
「これか」
ロックスさんが牙と赤い透き通った石を見せた。
「ええと、戦利品?」
「精霊は物質ではないのだが、狂うと動物を襲い肉をまとう。ダメージを受けるとそれを切り離して、正常に戻るってわけだ。これらは道具に加工されて高く売れる」
アイテムをドロップするなんて、まるでゲームみたいだ。
しばらく雑談したが、ライトエレメンタルが消えない。
「従魔が消えないんだけど」
「おかしいな。さっき魔力切れになったのにな。となるとショータ、お前のスペルブックはたぶん特別だな」
「別に普通の紙で出来たカードなんだけど」
「見せてみろ」
カードを1枚渡した。
「読めん。どこの文字だ?」
「日本語」
「そんな言葉は知らん」
「知らんて、いま喋っている。あれっ、そう言えば違う言葉で喋っている」
「神の仕業かもしれないな。そんなことができるのはそれしか思いつかない」
日本語の呪文が凄いのかな。
「【火よ点け】あれっ消えた」
日本語で唱えたのに一瞬で消えた。
ライトエレメンタルも消えている。
考えるのは苦手だ。
でも、たぶんカードが凄いんだと思う。
僕がいま持っているエグゼエレメンタルのカードは12種類。
レベル・インクリメント、これは従魔やプレイヤーをレベルアップさせる。レベルの文字とラッパと紙吹雪の絵だ。キラキラしている。
ループとループエンド、これは対になるとループする。輪とジャンプする絵が描いてある。
サモン系、僕のスタータパックはファイヤーだけど、水と土と風も存在する。絵柄は、僕のは炎。ああ、光と闇もあった。光はデッキに入っている。
ネームド系、呼び出す従魔をネームドに変える。従魔によって絵が違う。
ブランチ、分岐カード。使いどころが難しい。分かれ道の絵が描いてある。
スイッチとケース、これはブランチの上位版。好きなだけケースカードとカードを付けられる。スイッチと配線の絵だ。
アタック、言わずと知れた攻撃。剣の絵が描いてある。
ディフェンス、防御力2倍。盾の絵が描いてある。
リターン、従魔を還せる。Uターンの絵だ。
ブレイク、スイッチとループを壊せる。ハンマーの絵が描いてある。
「目がトロンとしてきてるぞ。お子様達は寝る時間だ。見張りは大人に任せておけ。ちょっとは恰好良いところを見せないとな」
「うん、おやすみ」
「おやすみなさい」
そして、気がついたら朝だった。
フォレストウルフの毛皮を手にしてニコニコしているロックスさんがいる。
とっても嬉しそうだ。
「おはよう」
朝の挨拶をする。
「おはよう」
アデルも起きてきて、眠そうに目をこすった。
「喜べ、街に着いたら豪遊できるぞ」
「お父さん、その臭い皮を担いで歩くのは嫌」
「3人でも無理なんじゃないかな」
「そこはほら、偉大なる魔法使いショータ様が」
あてにされても。
ああ、そう言えば、馬型のファイヤーエレメンタルがいた。
「【ネームド:ファイヤーエレメンタルのブルーファイヤホース。サモン・ファイヤーエレメンタル】」
青い炎の馬が出現した。
「燃えないかな」
そう言ってロックスさんが皮を積む。
煙が出たりしない所からみると、平気みたいだ。
「これは言っておかないとな。ショータ、日本なんて場所を俺は知らない。街に着いたら文献をありったけあたるが、望みは薄いだろう」
「うん、分かっている」
「ショータ、悲しいの。泣いているよ」
「男なら泣くな。泣くんだったら故郷に帰ってから泣け」
「うん」
僕は袖で顔を拭った。
ファイヤーエレメンタルが僕にはついている。
一人じゃない。
分かっているよとブルーファイヤホースがヒヒンといななく。
さあ、胸を張って出発だ。
歩いて森を抜けるのは大変だった。
途中からみんなでブルーファイヤホースに乗った。
乗馬なんて初めてだったけど、ブルーファイヤホースは宙に浮かんでいるので、揺れたりしない。
ドローンに乗るってこんな感じなのかな。
空中タクシーは乗ってみたかったなぁ。
実用化されるまでには帰りたい。
「さあ、ショータの魔法を教えて」
街道脇での休み時間、アデルがキラキラした目でそう言ってきた。
楽しみにしてたんだな。
「うん、このカードゲームはエグゼエレメンタルというんだけど、カードの組み合わせで無限に戦術が組み立てられるんだ」
「面白そう」
「じゃあ遊びながら説明するよ。コストありだと複雑なのでノーコスト・ルールでやるよ」
このゲームコストがあってコンボを組む時に考え無しに組むと、コストがオーバーして行動不能になる。
気軽に遊ぶにはノーコスト・ルールの方が良い。
スタータパックを二つに分けた。
「まず札を五枚引く。そしたら、札を置くんだ。5枚まで置けるけど、どうする」
「じゃあこれ」
アデルが置いたのはアタックのカード。
「まだ置けるよ。追加で置く場合は縦にカードを並べて置いてね」
「じゃあ、これと、これと、これ、これ」
置かれたのはアタック、アタック、レベル・インクリメント、ブレイク。
「全部出したね。ブレイクはここでは使えない。まあ出しておくいう戦略もあるけど」
「じゃあ引っ込める」
「札を置ききったらエンドを宣言して」
「エンド」
「まず、使った札の枚数4を補充して」
「こうね」
アデルが札を4枚引く。
「縦に並べられたひとまとまりをプロセスって言うんだ」
「ひとまとまりということは増やせるの?」
「ループを作ると増やせられる」
「ループのカードはないからいいや」
「じゃあ、アデルの動作をするよ。アタック2枚で2回攻撃、従魔がいないから。アデル本体の攻撃だ。プレイヤーは最弱の攻撃力1しかないので、1×2ダメージで僕の体力98だ。レベルインクリメントの効果で、アデルはレベル2だ。アデルの体力が10上がるよ。僕の番だね。サモン・ファイヤーエレメンタル。レベル・インクリメント、エンド。僕は攻撃出来ない」
ファイヤーエレメンタルは攻撃力1の防御力4だ。
僕の最初の手持ちのカードはサモン・ファイヤーエレメンタル、レベルインクリメント、ループ、ブレイク、ブランチだった。
二枚使って、今の手持ちのカードはループ、ブレイク、ブランチだ。
5枚に足りない分のネームド:ファイヤーエレメンタルのバーニングウィプス、アタックのカードを引いた。
「私の番ね。サモン・ファイヤーエレメンタルのカードがあるけど、どうしたら良い」
「ここでの考え方は三つ。プロセスの頭にサモン・ファイヤーエレメンタルを置くと、ファイヤーエレメンタルが攻撃する。アタックの後ろに置くと、攻撃はアデルが、レベルアップはファイヤーエレメンタルがする。最後に置くと、ファイヤーエレメンタルは召喚されるだけで何もしない」
「じゃあ頭に置くね」
アデルのプロセスは、サモン・ファイヤーエレメンタル→アタック→アタック→レベル・インクリメントだ。
僕のは、サモン・ファイヤーエレメンタル→レベル・インクリメントだ。
「気をつけないといけないのは。サモンのカードはプロセスに1つしか置けない」
「そうなの。じゃあループを作らないと」
「うーん、ループエンドのカードが1枚あるけど、これはループと対でしか使えないのよね」
「よく知ってるね」
「魔法を使う時、そうしてたから」
「ここで取れる戦略は2つ。ループエンドのカードを置いて引ける数を増やすか。ループが手に入るまでとって置いて、手の内を見せない」
「じゃあ出さない。アタックのカードがあるから追加する。エンド」
今のアデルのプロセスは、サモン・ファイヤーエレメンタル→アタック→アタック→アタック→レベル・インクリメントだ。
「僕は1×3ダメージで体力は95。レベル・インクリメント置いた位置が悪いね。ここだとレベルアップした瞬間にプロセスが終わってレベル1に戻ってしまう」
「えー初めてだから手加減してよ」
「じゃあ、プロセスをサモン・ファイヤーエレメンタル→レベル・インクリメント→アタック→アタック→アタックにするね。これならレベルアップした状態で攻撃出来る。じゃあさっきの攻撃は2×3ダメージだ。さっきのは無しにして、改めて計算すると、僕の体力は92だね」
「えへへっ、着実に攻めてる。どうよ」
「僕はネームド:ファイヤーエレメンタルのバーニングウィプス。を先頭に置くよ。そして、アタックを最後に入れる。エンド。バーニングウィプスの攻撃力は4になって、レベルアップで攻撃力8。アデルのファイヤーエレメンタルは撃破された。そして特殊効果でレベル・インクリメントのカードを燃やす」
バーニングウィプスは攻撃力4の防御力8だ。
僕のプロセスは、ネームド:ファイヤーエレメンタルのバーニングウィプス→サモン・ファイヤーエレメンタル→レベル・インクリメント→アタック。
アデルのプロセスから札を取り除いて、いまはアタック→アタック→アタックだ。
二枚の使って、今の手持ちのカードはループ、ブレイク、ブランチでアタック二枚のカードを引いた。
「燃やすなんて、ずるい」
「ネームドは特殊能力持ちなんだ」
「私の番ね。ブランチってカードがあるけど」
「それはプロセスの中に選択肢を作れるんだ。流れが二つになる。どちらか片方しか選べないんだけど。2倍の働きをするんだ。ブランチに脇に2枚カードを置ける」
「やってみるね」
「ブランチ、アタック、ディフェンスか。いい置き方だね。相手の攻撃を防げそうならディフェンス。そうでない時は攻撃だ」
「エンド」
「防御と攻撃どっちを選ぶ?」
「攻撃」
アデルのプロセスはアタック→アタック→アタック→ブランチとそれに付けられたアタックとディフェンス。
「アデルの攻撃で僕は1×3+2のダメージ。体力87だ。僕はアタックを追加。エンド」
僕のプロセスは、ネームド:ファイヤーエレメンタルのバーニングウィプス→サモン・ファイヤーエレメンタル→レベル・インクリメント→アタック→アタック。
手持ちのカードは、ループ、ブレイク、アタック、アタックで、ループエンドを引いた。
「うわっ強そう」
「レベル2のバーニングウィプスが2回攻撃。アデルは16ダメージの体力84だよ。2回攻撃だから、ブランチとアタックのカードを燃やす」
アデルのプロセスはアタック→アタックのみ。
「えっ、ブランチのカードだけでなく付けられてたカード全部燃やされちゃうの?」
「まあね」
「もう勝てそうにないんだけど、まだまだよ。ネームド:ファイヤーエレメンタルのトーチシャークとサモン・ファイヤーエレメンタルを頭に置く。そしてアタック置くよ。エンド」
アデルのプロセスはネームド:ファイヤーエレメンタルのトーチシャーク→サモン・ファイヤーエレメンタル→アタック→アタック→アタックだ。
「ええとトーチシャークの攻撃力は5だから、3回攻撃でダメージ5×3。バーニングウィプスレベル2の防御力16に届かないから攻撃は無効だ。トーチシャークの特殊能力は噛みつき出血。僕の体力は3ずつ減る。体力84だ」
「ええ、ずるいよ」
「ずるくないよ。ルール通りだ。僕はアタック2枚追加とループとループエンドを追加。エンド」
ここが勝負どころ、アタックカードをありったけ追加した。
僕のプロセスは、ネームド:ファイヤーエレメンタルのバーニングウィプス→ループ→サモン・ファイヤーエレメンタル→レベル・インクリメント→アタック→アタック→アタック→ループエンド。
手持ちのカードはブレイクで、サモン・エレメンタル2枚と、ケース2枚を引いた。
ケースカードはスイッチと一緒に使う。
決まれば凄いコンボも出来るけど、今回は無理かな。
「うわ、凄い攻撃が来そう」
「アタック8×3だね。最初のアタックでトーチシャーク撃破。後の2回はアデルへの攻撃。アデルの体力は68だ。そしてアタックの札3枚を燃やす」
「ぐすん、プロセスが空になっちゃった」
「降参する?」
「うん、降参」
「ざっとこんなゲーム。とにかくコンボを作るのが難しいんだ」
「そうだね」
「それとネームドの使い方が勝敗を分ける。特にバーニングウィプスのカード燃やす攻撃は凶悪だ。ネームドのカードは同じ物は存在しないんだ。それがこのゲームのカードを集めてみたいってところ」
「へぇ、そうなんだ。ゲームの遊び方は分かった。じゃあ、カードで魔法やってみる。【サモン・ファイヤーエレメンタル】。出ないよ」
「呪文も日本語だったし、何が僕と違うんだろうな。細かい発音かな」
「おい、そろそろ行くぞ」
ロックスさんが僕達に声を掛けた。
「はい」
「はーい」
アデルがカードで魔法を使えなかった理由は何かあるんだと思うけど、ちょっと分からない。
「アデル、なんで安全なこの道でなくて、森を通ったんだ」
「森を抜けるのは近道なの。村でね、禍ビが発生したんだ。大急ぎで薬を大量に作って対処しないといけないの」
「カビぐらいで大げさだな」
「禍ビはね畑の作物も家もみんな腐らせるの」
「ふーん」
そして、日が暮れる前に街が見えた。
街は石の壁に囲まれている。
カレンダーでこういうのを見たことがある。
ええと、外国のお城だ。
「街ではうろうろするなよ。迷子になったら探せないからな。なにせ村の存亡がかかっている」
「大丈夫、来年から中学生だから」
「中学生がなんなのか分からないが、学生っていったらエリートだな」
門を入る列に並んでいたけど、僕たちの番になった。
ブルーファイヤホースは還したので、ロックスさんはフォレストウルフの毛皮4枚を持ってフラフラと歩いた。
僕とアデルはフォレストウルフの毛皮をひとつずつだ。
「入っていいぞ」
「ご苦労様です」
「です」
「ご苦労様」
僕は敬礼をした。
「何だ坊主、その恰好は。でも馬鹿にされている気はしないな。恰好良いポーズに見える」
「敬礼って言うんだ。僕の街では警察官がやるんだ」
「覚えておくよ」
門番さんが敬礼を返してくれた。
「さっさと行くぞ」
毛皮は重かったけど、なんとか剣の紋章がある大きな建物に到着した。
「すげえな。フォレストウルフの毛皮だぜ」
「あんなにたくさん」
「凄い使い手なんだろうな」
フォレストウルフの毛皮が珍しいみたいだ。
「素材の買取と依頼を頼む。トリリン村で禍ビが発生した。駆除依頼だ」
「承りました」
受付のお姉さんとロックスさんが話している間、掲示板を見る。
うわぁ、ゲームみたいだ。
冒険者は恰好いいかも。
「終わったぞ」
ロックスさんが僕たちのところに来た。
「この後どうするの?」
アデルが尋ねる。
「疲れているところお前達には悪いが、急いでとんぼ返りだ。そうしないと村が浄化されちまう」
「浄化ってなに?」
僕は尋ねた。
「浄化ってのは災いのもとに火を掛けて燃やすことだ」
「嫌だ。村が無くなるなんて嫌だ」
アデルがそう訴えた。
「僕も何か手伝える?」
「ショータには帰りの馬を頼みたい。3人乗れるしな」
「もっと大きくできるけど」
「それなら、冒険者達も乗れるな」
騒がしくなって、兵士がなだれ込んできた。
「禍ビの発生したトリリン村は浄化と決まった。村人は名乗り出ろ」
「くっ、こうなると分かっていたが、手が早い」
「ロックスさん」
受付のお姉さんが呼ぶ。
「呼んでるよ」
受付に行くと、6人の冒険者がいた。
「自己紹介は後だ。領主に嗅ぎつかれた。素早く村に向かうぞ」
「了解」
僕たちは素知らぬ顔で兵士達の横を抜けようとした。
「おい、お前、名前は?」
「ハックスです」
ロックスさんが嘘の名を名乗った。
「子連れじゃ違うだろ」
「そうだな森を子連れで抜けられるわけない」
「行って良いぞ」
何だが分からないけど危機が去ったようだ。
門の所に行くと、門は閉じられていて人が集まっている。
あの敬礼を教えた門番がいたので、敬礼をする。
門番は敬礼を返してくれた。
「急使だ、通すぞ」
敬礼の門番が僕たちを通用門から通してくれた。
「ありがとう」
ロックスさんが礼を言った。
「いいってことよ。俺の村も浄化された。あんな悲惨な思いは他のやつにさせられない。初期なら薬でなんとかなる」
「恩に着る」
僕は敬礼して、門番さんと別れた。
「ショータ、馬を出してくれ」
「【ネームド:ファイヤーエレメンタルのブルーファイヤホース。サモン・ファイヤーエレメンタル。ループ。レベルインクリメント。ループエンド】」
ブルーファイヤホースが現れ、むくむくと大きくなる。
象ほどの大きさになった時に、1枚のカードを抜いた。
「【ブレイク】」
ブルーファイヤホースの成長が止まる。
ブルーファイヤホースは口に僕を咥えると背に乗せてくれた。
続いてアデルも同様に乗せてもらった。
ロックスさん達はよじ登ったようだ。
「大急ぎでやってくれ」
「ブルーファイヤホース」
僕が声を掛けると、ブルーファイヤホースは滑るように駆けだした。
「ヒヒン」
速い速い、車より速い気がする。
必死にブルーファイヤホースに生えている炎のたてがみがつかむ。
そして僕は姿勢を低くした。
村まではあっという間だった。
ここがトリリン村。
風がほのかな苦甘い匂いを運んできた。
「禍ビの増殖が進んでやがる。冒険者さんは薬草の採取と薬の調合をお願いする」
「おうよ、任せておけ」
「ショータ、火の従魔を出してお湯を沸かせてくれ」
「任せて」
村に入ると禍ビがなんなのか分かった。
黒いカビのお化けだ。
家の壁から、畑の作物、みんな黒い斑点がある。
禍ビ育つと、僕の腕ぐらいの触手を生やすみたいだ。
家からそういうのがいくつも出てた。
「あれは禍ビの花」
「そうなの」
村の広場に薪が集められている。
その薪にも禍ビは付いていた。
「この薪じゃ駄目だ。薬の品質が下がっちまう。ショータ出番だ」
ロックスさんがそう言った。
「【ループ。サモン・ファイヤーエレメンタル。ループエンド】」
ファイヤーエレメンタルが増殖する。
用意された鍋に水が張られ、ファイヤーエレメンタルが温め始めた。
沸騰した時に、冒険者が戻ってきた。
「薬草、第一弾だ」
そう言って鍋に薬草を入れる。
プールの消毒液の匂いがした。
この匂いは嫌いだ。
でも好き嫌い言ってられない。
出来た薬は、試しとして、集められた薪に使われた。
薬を掛けられると黒い斑点は綺麗に消えた。
「さあ、禍ビを退治だ」
出来上がった薬を村人が瓶に小分けして持っていく。
ファイヤーエレメンタルの数が十分に増えたのでループをブレイクする。
冒険者も続々と薬草を持って来る。
鍋で何百杯もの薬ができ上がった。
なんか分からないけど、まだ薬は必要みたいだ。
家を除菌するのなら小瓶じゃ足りないのは僕でも分かる。
「大変だ。領主の軍があと1日の所まで来ている」
馬に乗った村人が駆け込んできた。
「くっ、間に合わないか。こうなったら。家財道具を持ち出して家を焼こう」
ロックスさんがそう言った。
「嫌。あの家はお母さんとの思い出が詰まった家よ。絶対に嫌」
「アデル、我がままを言うんじゃない」
「ショータ、助けて。ショータなら出来るよね。今までも奇跡を起こしてきたんだし」
無理言うなよと言いたかったがぐっと堪えた。
家が無くなったらと想像したんだ。
生まれた時からの家が無くなったら、それはもう悲しい。
思い出がいっぱいあるからだ。
傷ひとつ、染みひとつに思い出がある。
「やってみる。そうだカードを作ろう。除菌のカードだ」
「やる。一緒に作ろう」
アデルとカードを作り始めた。
除菌と書いて、カードにする。
「【除菌】」
手に持った薪の黒い斑点がいくつか消える。
成功かな。
「【除菌。ループ。レベルインクリメント。アタック。ループエンド】」
あれっ、除菌の力が広がらない。
除菌がレベルアップして、禍ビを攻撃するはずなのに。
何がいけないのかな。
なるべく本物に近づけよう。
作り直しだ。
まず、説明書きに『このカードは除菌で禍ビを退治する』と書いた。
他のカードは絵とふちの模様がある。
絵はスプレーの絵を描いた。
他のカードのふちの模様を見ると英語なのが分かる。
小学生でも簡単な英単語を覚えるから、アルファベットは分かる。
でもただの英語じゃない。
ループなら、『while(1){』といくつも書いてある。
それが模様みたいになっているんだ。
サモン・ファイヤーエレメンタルは『fd=fire_elemental(level);』。
呼び出すのだから、サモン・ファイヤーエレメンタルを参考にすればいいと思う。
除菌の英単語は知っている、『sanitize』。
なぜ知っているかというと旅行した時に除菌関連の道具の説明書きに書いてあったからで、肺炎が流行って除菌しないといけなかったからだ。
カードの名前も決まった、『サモン・サニタイズ』。
ふちの模様は『fd=sanitize(level);』、これでいいはず。
「プロセス・スタート、【サモン・サニタイズ。ループ。レベルインクリメント。アタック。ループエンド】」
お酒の匂いがして、村中にあった黒い斑点が消えていった。
触手も干からびて、そして消えた。
「やった」
「ショータ、ありがとう。お前は大魔法使いだよ」
宴会が始まった。
「大変だ。領主軍に禍ビを退治した事を伝えたが、やつら聞く耳持たない。この村をどうしても滅ぼすつもりだ」
そう言って男が駆け込んできた。
「何で?」
「仕方ないのさ。軍を動かしたら金が掛かる。成果なしってわけにはいかない」
ロックスさんが悲しそうにつぶやいた。
こんな結末は認めない。
「プロセス・スタート【ネームド:ファイヤーエレメンタルのレッドジャイアント。サモン・ファイヤーエレメンタル。ループ。レベルインクリメント。ループエンド】」
炎の燃え盛る巨人、レッドジャイアントを召喚した。
レッドジャイアントはどんどん大きくなり雲を突き抜けた。
もういいかな。
「【ブレイク】。領主軍を見下してやって、お前らはこんなにちっぽけなんだって」
レッドジャイアントが足を踏み出してた。
地面が地震と勘違いするほど揺れる。
そして、レッドジャイアントが中腰になって下を覗き込んだ。
ええと、ここからどうしたら。
しばらく放置かな。
しばらくして、偉そうな兵士が白旗を上げて馬に乗って駆け込んできた。
「もうしません。許して下さい」
兵士の顔は青い。
「だってよ。ショータどうする?」
「悪いことした場合に謝ったら許してあげないといけないんだ。道徳でそう教わった。だから許す。でも3度目はないから」
「はい」
偉そうな兵士は去って行った。
「ショータ、なんで3度目なんだ」
「仏の顔も3度までだから」
「なんだそりゃ」
「恰好良い」
アデルが僕に尊敬の眼差しを送る。
「アデルは嫁にやらんと言いたいが、ショータなら仕方ないか」
「えへへ」
はにかむアデル。
「ロックスさん早すぎるよ。せめて大人にならないと」
「そうか、その時が楽しみだ」
反応が良ければ続けます。