雪像を見る
三題噺もどき―にひゃくさんじゅうさん。
柔らかな日差しが、人々を照らす。
キラキラ光る、雪を解かす。
積もり積もった白い雪。太陽の光があたり。
視界の端で、ひかり続けている。
ただでさえ白くて、反射がすごいのに、さらに磨きをかけて、目に飛び込んでくる。
―まるで美しいその姿を、着飾ったその姿を、形作られたその美を、その目に焼き付けろと言うように。
「…さむぃ…」
「――!!早くこっちー!!」
「ちょ、待って、すべる……」
雪の美しさに目がくらみ、視界もあまりあてにならない。
その上、雪の上を歩いているから、そんなに早くは歩けない。私は雪にはなれていないのだ。それは、あの身内も同じはずなのだが……さすが若いと言うべきか?
「ちょ、マジ手つないで、こける」
「ぇー遅いもん」
「っるっさい、こけるよかいいだろ」
ここがどこかを言っていなかった。
今日は、家族で雪祭りにきているのだ。
先程から私と会話をして、今現在私がしがみ付いているのが、妹だ。
ちなみに両親は、後ろの方で、腕組んで歩いている。あの年で、若者夫婦でもしなさそうなあんなことができるのだから、なんというか……。もう結婚してかなり経っているはずだが、毎日いちゃついてる。離婚するよりましだが。子供の前で戯れるな。
「ちょ、ひっぱるな、」
「もーはやくあるいてー」
「そんな急いでも、こんでんだから進まないわ」
なんでこの妹は、こんなにせっかちなんだ。
うちにこんなにせっかちな奴は、一人としていないはずだが?誰に似たんだか……。
「……ほんと……人混み……きらい……」
「そーいわずに、はやくあるく!」
「わかったわかった……」
周りには、似たような家族連れやカップルに。あれは友達同士だろうか。あの子は親子連れ。
この雪の中では、あの年齢の小さな子供は、大変そうだ。連れてくるのも一苦労だっただろうなぁ。―それでも、この光景をあの年で目に焼き付けられるのは、良いことかもしれない。
皆がそれぞれに、楽しんでいる。写真を撮ったり、とられたり。
あっちは、雪像の体験コーナーだろうか。たくさんの親子連れが、楽し気に遊んでいる。手がかじかみそうだが、それも思い出の一つだろう。
「……あんなんやったよねー」
「どれ?……あー…私ちっさかったから覚えてないけど、らしいねー」
「あれ?いくつのとき?」
過去にあったのは、砂場の祭りだったが。
場所は定かではないが、こんな雪まつりみたいなかんじで、たくさんの砂像が並んでいた。
あの頃はまだ私も幼かったから、あんな風に体験コーナーをせがんだらしい。
―今は、もうはしゃげないが。
「ってか、どこまでいくの……」
「もう少しもう少し」
「はいはい」
スマホを片手に、写真を撮る気満々の妹にしがみつきながら進んでいく。
道中には、アニメのキャラクターの雪像や、世界遺産をかたどったもの、ひたすらに大きなかまくら。あれは、某有名アイドルだろうか。
すごいよなぁ……雪の塊から、あんなものができるのだから。かなり緻密なものもあったりして、1つ1つに目がひかれる。
「あ、あった!」
キョロキョロとあたりを見渡しながら、引きずられていたが。
やっとたどり着いたようだ。
妹の指差すその先にあったのは。
「……ぁ……」
そこにあったのは、大きな海だった。
―いや、海の中と見紛う程に、美しく優雅に泳ぐ、イルカの雪像だった。
「……すご……」
「ねー………」
片手に持ったスマホで撮ることも忘れ、魅入る。
思わず、あほみたいな会話をしてしまった。
「……」
しかし、息をのむとはこのことか。
悠々と海の中を泳ぐイルカ。
その瞬間を閉じ込めたような、それは、得も言われぬほど美しく。
言葉では、とてもとても言い表せなかった。私ごときの語彙では、とても。
―しかし不思議と、ここの周囲に人は集まっていなかった。それがほんとに不思議でならない。
「……」
まぁ、感性は人それぞれというし。この美しさは分かる人に分かればいいのかもしれない。
作り手の意図は残念ながら、知らないが。
私はそういうのも、良いと思うのだ。
お題:楽しい・イルカ・祭り