ギャンブル
戦争中とは言え、常時戦っている訳では無かった。有事であるとは言うものの、戦闘さえなければ、平時と変わらない日常がある。
麻雀や、花札等のギャンブル等は点検終了後の兵隊達の楽しみであった。囲碁や将棋を楽しむ者もいたし、余暇の過ごし方は人それぞれであった。読書を楽しむ者もいたし、与えられた余暇の時間は、決して多くは無かったが、それでも海軍兵士にとっては辛い現実から少しでも離れられるこの時間はとても大事であった。
勿論、見回りの幹部連中に見つかれば、相当なおしかりを受ける。だが、上級クラスの幹部は見回りに直接来る事はまずなく、大抵は中堅クラスの幹部が来る為、彼等はこの夜の常時を黙認される。戦闘以外でも階級は絶対であったが、ベテランの下士官達には海軍兵学校出の新米士官達では、太刀打ち出来ない。と言うのも、新米士官にとっては、ベテラン下士官達の方が遥かに海軍にいる時間が長く、それだけの経験を持っている。
見た目上の階級は上でも、それはあくまで机上の倫理でしかない。現場至上主義の軍隊において、事実上は新米少尉よりも、古参曹長や軍曹と言った上級下士官の方が、力を持っていた。星の数より、飯の数とはそう言う事である。
ギャンブルの文化は日本の歴史にとって、かなり根の深いものではある。海軍だけではなく西洋の文化を吸収したものもあれば、日本独特のものもある。大陸経由の東洋のギャンブルもある。だが、彼等にとっては時間を忘れられれば、それで良かった。極端な話が、戦争の事など四六時中考えてはいたくなかったのである。




