ハイカラ水兵
日本海軍における水兵とは、ハイカラな存在であった。汗臭い陸軍兵とは異なり、ハイカラな気風が海軍にはあった。シャネルの五番と言った香水をつける者がいたり、とにかく当時の水兵はハイカラであった。
海軍のモットーは「清廉潔白」でありながら、とにかく身の回りを綺麗にする事が求められた。白い制服が示す様に海軍将兵は汚れてはならない。彼等は常にそう教えられて来た。髪型一つとったとしても、士官は別格としても髪の長い下士官や兵隊はいなかった。丸坊主がほとんどであり、それも艦内にある散髪屋でバリカンカットするのが普通であった。
香水をつけ小綺麗にすると言う気風は、いささか欧米チックな文化的風土であり、帝国陸軍や日本国民には無かった感覚であった。英国海軍をモデルとして作られた帝国海軍にあって、兵隊のハイカラな気風は、末端の兵隊の文化にまで影響が残ったと言う事は非常に興味深い事ではある。
現代の様に貯まったお金を洋服代にあてる文化は無く、ハイカラな水兵のステータスは、如何にして派手な女遊びや酒を飲んで豪遊出来るかにあった。最もその様な時間は限られており、お金は貯まる一方であった。親類に仕送りする水兵は多くいたが、仕送りしても手元には充分なお金が潤沢にあった。
だが、いつ死ぬかは分からぬ身ゆえ、手元にはお金を残しておいても、仕方が無い。戦死すれば財産は没収されてしまう。それが分かっているからこそ、パーッと使うのが海軍将兵である。とは言え、それは水兵の一面に過ぎず、いつ死ぬかわからない身分でありながらも、彼等は家族の為に必死であった。酒や女遊びでは紛れない確かな深い不安が彼等にもあった。
海軍将兵も人間である。至極当然死にたくは無い訳であり、ハイカラな水兵の心情は決して穏やかでは無かった。




