点検
海軍は点検と言う言葉が絶対的で、人員は元より武器衣服と数をそろえる事にやかましい。余っても足りなくても、いけないと言うのが海軍の伝統であった。
特に兵隊泣かせと言われたのが、被服点検である。はては頭上から爪先まで、舐める様に見られ少しでも難があれば、直ぐにチェックが入る。その他にも、毎日巡検と呼ばれる点呼が課せられていたし、とにかく海軍兵士にとっては、点検抜きの生活は有り得なかった。
と言うのも、これは海軍と言う職種の持つ特性であり、逃れられない宿命にあったと言う事が出来るのである。水上戦闘部隊所属である海軍艦艇及び、海軍兵士達はいちいち陸上基地に戻る事は出来ない。例え、一つのトイレットペーパーであろうと、一つの弾丸であっても、数が合わなければ命取りに成るやも知れない。
それらを回避する為には、やはり点検をこまめにするしかない。嫌と言うほど、チェックして初めて戦いで戦果を上げられる。戦艦大和とてその例外には成らなかった。現場の兵士は、誠に嫌そうだったが、米英に負けるよりはマシと考えていた。
国家の命運を背負っていると言う自負が大和乗組員にもあった。戦艦大和が救国の存在であると
信じて疑っていない。勿論、そうしたスペックと兵員が割かれていた事は紛れもない事実である。しかし、点検と言う日常業務を怠ってしまえば、大和神話は崩れ去る事に成りかねない。米英に勝てるとすれば、帝国陸海軍全ての部隊と政治家が毎日海軍並の点検を行い、あらゆる可能性を検証する以外に道は無いのだが、そこまで日本軍は徹底出来なかった事が敗因に繋がったのかも知れない。




