14.これぞ世に聞く「当ててんのよ!」状態!?
「初めまして、でいいのかしら?私はシューマッチョ辺境伯の四女、ヘルメスです。怪我のせいで左腕にうまく力が入らないので、手元が狂っても許してくださいね。」
ヘルメスお嬢様、さっきから手元が狂いまくってます。何度も首に刃が当たって多分血が出てます。これ以上手元が狂われたら死んじゃいそうです。
はっ!もしかして、これぞ世に聞く「(刃を)当ててんのよ!」状態!?背後から抱きつかれてるし、テンプレ発動中か!
「私にはなんとなくですが、相手が嘘をついているのがわかるので、正直に話すことをお勧めします。まずは、名前を教えていただけますか?」
ここはあれだよな、名字は貴族だけってのがテンプレだから、名前のイチロウだけ言えば良いんだよな。
「イクッ、チロウッ!」
お嬢様フラフラじゃん!俺が名前を言ってる最中に二度もフラついて、喉にナイフがサクッときたよ!おかげで名前が変な感じで途切れちゃったよ!この怪我大丈夫なのか?致命傷負ったらHPが一気に0になるとかないよな?
「イクッ・チロウ?偽名にしてもあまりにも馬鹿にしている…、けど、嘘をついてる感じがしなかったなんて…。まさか、本当に本名なの?」
嘘はついてないけど本名じゃないです。訂正するチャンスください!
「ヘルメス様、すみません、ナイフの歯があたった時に変な感じで途切れてしまいました。私の名前はチロウではなくイチロウです。」
「わかりました、名前はもういいわ。次はあなたがここにいる理由を教えて。」
まずい、俺が召喚した魔王どもが暴れたせいで、街がモンスターに襲われたなんて言えない。力任せにお嬢様の腕を振りほどいて逃げれるか?この状態からだと首をスパッとされる方が早いか?あ゛〜、展開が早すぎてどうにもならん。ここは時間を稼いで逃げ出す機会をうかがうしかない。
「秘蔵のポーションを献上しようと思ったのですが、目立ちたくなかったのでこのようなことをしてしまいました。悪意は無かったんです、どうか見逃してください。」
「…イチロウさん、嘘はついてないようですね。ですが、完全に信用するわけにもまいりませんので、とりあえずこれをつけてください。」
ヘルメスお嬢様のナイフを持って無い方の手に腕輪が出現する。
「主従の腕輪の従の腕輪です。私が着けている主の腕輪と対になるもので、一度着けると双方が合意しない限り外れません。効果は対になる主の腕輪を着けている者に対し、危害を加えられなくなる程度です。害はないので安心して着けてください。」
「わかりました、着けさせていただきます。」
信じる者がすくわれるのは足下だけって、どこぞの超人が主張していたが、情報量が少なすぎて信じるしかないのが辛い。
俺が腕輪を着けると、安心したのかヘルメスお嬢様から力が抜け倒れそうになる。とっさに助けようと服を掴んでしまい、胸元が大きくはだけ、見てはいけないものが…存在しなかった。
「見苦しいものを見せてしまいました。傷はふさがっていますが、モンスターの爪でえぐられた所は再生できなくて。医者の話では、ダンジョンでごく稀に手に入るエリクサーでも使わないと治せないと。」
どうりで背中の方は当ててんのよ!状態にならない訳だ。当てるはずのものがモンスターにえぐり取られ、存在しないんだから。
だが、ここはヘルメスお嬢様に取り入るチャンス、俺のポーションならお胸様を再生できるはず。この場をしのげれば逃げれる可能性が上がる、ここが正念場だ!
「あ、今思い出しましたが、腕輪の機能が他にもありました。主の腕輪は従からMPの回復量の一割を自動で奪って貯め込むのと、従の腕輪の装備者を主の元に召喚できる機能がついてるわ。召喚の為には主の腕輪にMPを100万も貯める必要があるから、ほぼ使えない機能ですけど。」
マジかよ、100万なら30時間くらいで溜まっちゃうよ。もはや逃げるのは不可能か?お嬢様に取り入って配下にしてもらう方向に転換すべきか?