12.モンスターの氾濫(手遅れ)
ボロボロの街には簡単に入れた。街の規模はかなり大きく兵士の数も多い、だが、街の内外のいたるところにモンスターの死骸が散乱し、それを兵士達が黙々とかたづけている。
これがこの世界の普通なのか?全くの想定外の状況に混乱した俺は、倒木に座っていた片足の無い爺さんに、思わず馬鹿げた質問をしてしまった。
「おじいさん、この街の名前を教えていただけないでしょうか。」
聞いた瞬間、自分の不用意な質問に失敗したと反省する。この規模の街を知らないなんて、あからさまな不審者じゃん。
「なんじゃお若いの、この街を知らんのか?いや、堅守を誇ったこの街の、変わり果てた姿が信じられんのか。じゃが、ここはシューマッチョ辺境伯様の治める副都にして最前線の街、フンデルの街で間違っておらん。恐らく放棄することになるじゃろうがのぅ。」
勝手に都合よく勘違いしてくれて助かった。だが、この街の状況は異常事態発生中のようだ。幸いおじいさんは口が軽い様子、もっと情報を聞き出そう。
「まさか、フンデルがこの様なことになるなんて、いったい何があったんですか?」
自然な流れで情報を聞き出す。他の街に逃げるにしてもここだけが特別とは限らない。最悪ここらの街が全滅していることもあり得る。
「今回は予兆がほとんど無かったんじゃ。」
ここから年寄りの長話が始まる。
「最初は6日ほど前、森の深部でしか活動していないモンスターが、浅い所で活動しているのが複数確認されたのじゃ。この時点でシューマッチョ辺境伯様は、三男のサンバート様と四男のヨンバート様、四女のヘルメス様に100人の兵をつけ、即座にこの街へ派遣されたのじゃ。」
「随分と大掛かりな兵力に思えますが、発見されたモンスターは、それ程までのものだったんですか?」
「兵が派遣されたのは発見されたモンスターに対してではなく、森の異変に対応するためじゃな。それと、シューマッチョ辺境伯は代々武門の家系として、有事の際には男女を問わず、身内を最前線に派遣することになっているのじゃ。今回も経験を積ませる為に派遣されたのじゃろう。その為、兵の数も多く派遣されてきたようじゃ。」
なるほど、脳筋の家系か。
「そして3日前、森の調査が開始される直前にそれは起こったのじゃ。森の深部でここからでもわかるほどの大規模な、災害級のモンスター同士の争いが確認されたのじゃ。」
魔王どものことかああぁぁぁぁ!!
「その直後から、争いから逃げるモンスターが森から溢れ出し、この街を襲ったのじゃ。」
悲報、この街の惨状の原因は俺っぽい。
「辺境伯の兵の奮戦と、元々男女問わず戦える者が多い街じゃから、なんとか今の所は死人は出ておらん。じゃが、多くはわしのようにもう戦えない負傷をし、街はご覧の有様じゃよ。」
そう言って老人は無い方の足に視線を向けた。
「少し前に兵の増援が来たようじゃが、サンバート様とヨンバート様は重体、ヘルメス様も重傷を負っておられる。街も人もボロボロ、森には謎の驚異が生息し調査もままならんわけじゃ。」
老人は悲しそうな顔になり、話すのを止め下を向いた。もはや、この街のことを諦めているのだろう。俺は知っていることを話すわけにもいかず、静かに老人のもとを離れた。
街を歩くと惨状が目に入ってくる。腕の無い者、足の無い者、家屋は倒壊し無傷なものは見当たらない。そんな中、街の中央の広場に、顔の半分を包帯で覆った少女が、車椅子に乗り押されて来るのが目に入った。
周囲からは、お嬢様だ、ヘルメス様だといった声が聞こえてくる。見た感じ俺と同じか少し下くらいのこの少女が、辺境伯の四女、ヘルメス様のようだ。
「皆さん、聞いてください。」
ヘルメス様の演説が始まった。